呼吸器外し、医師を書類送検 2007/5/22 終末期医療に関する国の初めての指針

2007-05-22 | 社会

脳内出血の患者死亡「自然に」と家族依頼

2007年5月22日16時32分配信 時事通信

 和歌山和歌山県立医大病院紀北分院(同県かつらぎ町)で昨年2月、人工呼吸器を外された患者が死亡し、県警が殺人容疑で当時助教授だった50代の男性医師を書類送検していたことが22日、分かった。脳死状態の患者について家族が延命治療の中止を求めていたという。
 延命治療をどんな条件の下で中止できるかは明確な基準がなく、和歌山地検は刑事処分を慎重に検討する方針。
 病院側によると、患者は80代の女性。昨年2月27日、脳内出血のため、救急車で分院に運ばれた。緊急手術したが、翌28日未明に呼吸が停止し、人工呼吸器が装着された。
 患者は対光反射の消失など厚生労働省の基準に従い脳死と診断された。その後、家族らが話し合い、「自然に亡くなる方法を取ってほしい」と要望。医師は何度か、呼吸器を外せないことを説明したが、同日午後9時半ごろ、脳死判定として自発呼吸の有無を調べようと、医師の判断で呼吸器を外したという。患者は約30分後に心停止が確認された。
   最終更新:5月22日20時1分


和歌山県立医大で患者の呼吸器外し…医師を殺人で書類送検
5月22日15時18分配信 読売新聞

 和歌山県立医科大付属病院紀北(きほく)分院(和歌山県かつらぎ町)で、延命措置を中止する目的で80歳代の女性患者の人工呼吸器を外して死亡させたとして、県警が、50歳代の男性医師を殺人容疑で和歌山地検に書類送検していたことが22日、わかった。
 終末期医療を巡っては国や医学界の明確なルールがなく、患者7人が死亡した富山県・射水(いみず)市民病院のケースでは結論が出せないまま1年以上捜査が続いている。和歌山の事例は、判断が揺れる医療と捜査の現場に新たな一石を投じそうだ。
 調べによると、男性医師は脳神経外科が専門で、県立医大の助教授だった2006年2月27日、脳内出血で同分院に運ばれてきた女性患者の緊急手術をした。しかし、患者は術後の経過が悪く、脳死状態になっていたため、家族が「かわいそうなので呼吸器を外してほしい」と依頼。医師は2度にわたって断ったが、懇願されたため受け入れて人工呼吸器を外し、同28日に死亡したという。 

 最終更新:5月22日15時18分


手続き優先、定義先送り…終末医療初の指針

■解釈分かれ混乱も 
 終末期医療に関する国の初めての指針が9日まとまった。昨年の富山県・射水市民病院で発覚した人工呼吸器の取り外し問題を踏まえ、延命治療中止決定の手続きを優先し、医療現場の混乱を可能な限り早く回避する狙いがあるが、医師の刑事訴追に対する免責といった問題を先送りにするなど、課題は山積している。(科学部 宮崎敦、冨浪俊一)

■初指針
 「終末期について公的指針を作ったことは評価できる。(人工呼吸器を取り外せる)院内指針と照らし合わせ、修正する個所を検討したい」(秋田赤十字病院)
 「急性期の高齢者患者が多いが、院内関係者すべてが合意する指針を作るのは難しいのでは」(東京都老人医療センター)
 手続きが中心で、延命治療中止の対象疾患などが明示されない、今回の公的指針に対して、現場の病院の評価は割れた。
 延命治療に詳しい、前田正一・東京大学准教授(生命・医療倫理)は、医師の独断に歯止めをかける内容に一定の評価をしつつも、「終末期の定義が漏れているので、医師は刑事責任を恐れて延命治療を継続したり、逆に秘密裏に治療を中止する事態も生じかねない」と、新たな現場の混乱を懸念する。
 指針に終末期の定義などを盛り込むことの必要性は、検討会などの議論に上った。しかし、厚労省が手続きの部分に限って、議論を先行させたのは、昨年3月の射水病院問題発覚直後、国民の間に医療不信が広がるのを避けたかったからだ。
 終末期医療に関する議論の場は、過去に何度も開かれ、解決策を模索してきた。しかし、公的指針が示されなかった。それは、「終末期の問題は患者の生死にかかわるので慎重さが求められた」(樋口範雄・検討会座長)ことが背景にある。
 厚労省としては、従来のような議論だけに終わらせず、射水病院の問題で指摘された、医師の独断による決定を防ぐ方向性を示したかった。そのため、手続きを優先させ、終末期の定義などを先送りした。
 しかし、検討会の中で、「医師が殺人罪で刑事訴追されない基準を明記することについて議論をしないのか」といった声が相次いだが、樋口座長は、「終末期の患者をどう支えるか、周囲の人々で、まず、悩んでもらうことが重要」と指針の意義を訴えた。

■現場
 全国の病院は、公的指針に沿った形で、それぞれ独自の院内指針の整備を進めることになるが、公的指針を有効に活用するには現場の体制整備も必要だ。
 しかし、末期がんなど、終末期の患者を抱える中小の病院で終末期医療の体制を整えている機関は多くない。
 全国2190病院が加盟する全日本病院協会が昨年7~8月に実施した調査によると、「終末期医療に組織的に取り組んでいる」とした病院は27・7%どまり。「『尊厳死の宣言書(リビングウィル)』を病院として受け入れる体制にある」とした回答も14・9%と低かった。
 医療現場が、延命治療の中止を決定する際、患者の意思をどう尊重していくかも重要だ。
 松島英介・東京医科歯科大准教授(緩和医療学)が昨年11月~12月、全国4911病院を対象に調査したところ、意思表示できる患者の治療方針を決める時でさえ、「患者のみに確認」とした施設は有効回答の0・8%にとどまった。「患者とは別に必ず家族の意向も確認」と答えたのは48・7%にも上った。松島准教授は「日本の医療現場は患者の意思が二の次だ」とし、患者の意思を尊重するような医療スタッフの教育の重要性を説く。
 こうした現場を支援する試みも始まっている。熊本大学医学部の浅井篤教授(生命・医療倫理)らは昨年10月から医師や看護師、患者・家族を対象に、終末期の治療方針の決定について問題がないかどうか相談を受け付ける「臨床倫理コンサルテーション事業」を始めた。浅井教授は「人材が不足している小さな病院のために、専門家の支援は重要。こうした支援組織を全国に広げることも大切」と話す。

■海外では…医師訴追法で回避
 終末期医療の手続きは、海外でも法律や指針でルール作りが進む。ただオランダのように患者の死期を早める安楽死を法律で認めた国から、尊厳死に限定した国まで、各国で対応に差がある。
 尊厳死にかかわる各国の法制度に詳しい早稲田大大学院法務研究科の甲斐克則教授によると、フランスが2005年に定めた尊厳死法は、日本の指針同様、安楽死は認めないが、患者の事前指示がある場合など一定の条件を満たせば、医師が延命治療を中止しても訴追されない。
 延命治療の拒否権を認める米国では、州法が尊厳死の手続きを規定する。リビングウィルの書式を定めた州も多く、本人が指定した家族や弁護士らが延命治療の開始や中止を判断する、代理人制度もある。
 今回の国の指針はこうした欧米の法律や指針に比べ、医師が刑事訴追されない基準を明示していない。日本救急医学会が今年2月まとめた、終末期医療の指針案も、リビングウィルの提示など治療中止の手順を具体化した指針をまとめたが、医師の免責は保証されていない。
 甲斐教授は「国の指針でも、家族が延命中止を決める手続きなどを細かく決める必要がある。法曹界も含めた幅広い議論が大切だ」と話している。

■人工呼吸器の取り外し問題
 射水市民病院外科部長(当時)は、末期がん患者などの治療中止を独断で決め、社会的批判が集まった。富山県警の依頼を受けた医師は、一部の患者について「呼吸器外しと死との間に因果関係がある」との鑑定結果をまとめた。

(2007年4月10日  読売新聞) 


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。