「死刑執行に関する会長声明」=日弁連  「抗議声明」=死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90

2009-07-28 | 死刑/重刑/生命犯

Subject:2009-07-28
死刑執行に関する会長声明 
 本日、大阪拘置所において2名、東京拘置所において1名、計3名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
これにより、昨年9月に森英介法務大臣が就任して以来3度目、本年では1月29日の執行に続き2度目の執行が行われたこととなる。
この間、我が国の死刑制度とその運用が抱える問題は、国際社会からの注目を集め続けてきた。世界では死刑制度の廃止が潮流となっているにもかかわらず、日本では死刑判決およびその執行数が増加しており、こうした状況に対して、国際社会から、極めて深刻な懸念が示されている。昨年10月30日には、国際人権(自由権)規約委員会によって、我が国の死刑制度を抜本的に見直すことを求める多くの勧告がなされたところである。
国内においては、今年5月に裁判員制度が実施され、一般市民も死刑という究極の量刑選択に直面することから、死刑をめぐってかつてないほど活発な議論が展開されつつある。とりわけ、足利事件において精度の低いDNA鑑定によって無実の人が無期懲役の確定判決を受けていたことが明らかとされ、同様の手法によって死刑判決を科され昨年10月28日に執行がなされた飯塚事件にも注目が集まっている。今こそ、上記勧告を真摯に受け止め、死刑制度とその運用について十分な資料と情報に基づいた広汎な議論を行い、死刑制度が抱える問題点を様々な角度から洗い出し、改革の方向性を探るべき時である。そして、そのための第一歩は、まず、死刑の執行を停止することである。
このような国内外の状況にあるところ、本日3名に対する死刑が執行されたことについて、当連合会は、強い遺憾の意を表明せざるを得ない。
当連合会は、改めて政府に対し、死刑制度の存廃を含む抜本的な検討及び見直しを行うまでの一定期間、死刑の執行を停止するよう、重ねて強く要請するものである。
2009年(平成21年)7月28日
日本弁護士連合会
会長 宮 誠
---------------------------
(09.7.28 New!) 抗 議 声 明
 森英介法務大臣が、本日(7月28日)、陳徳通さん(41歳:東京拘置所)山地悠紀夫さん(25歳:大阪拘置所)、前上博さん(40歳:大阪拘置所)の死刑を執行したことに対し、強く抗議する。
 今回の執行は、政権交代を前にして、今後の執行が困難になることを危惧して、駆け込み的に執行を行ったものであり、同時に、裁判員裁判実施を前にして、裁判員の死刑制度に対する疑念を強引に消し去ろうとするものであって、極めて政治的な色彩の強い恣意的な執行である。しかも、衆議院の解散・総選挙という、国会の監視・監督の全くない中での執行であり、また、退任を約1ヶ月後に控え、法務大臣としての責任を負うことのない時期における執行であって、極めて無責任というほかなく、厳しく非難されなければならない。
 とりわけ、昨年の10月の執行にあっては、無実の久間三千年さんを、その無実の訴えを聞かずして無理矢理に死刑を執行するという大きな過ちを犯したにもかかわらず、その反省もせず、本年1月に続いて3度目の死刑執行を行うというのは、死刑に対する最後の歯止めとならなければならないとする法務大臣の法的責任の放棄であり、職権の濫用というほかない。
 2006年12月25日の長勢元法務大臣の死刑執行に始まり、鳩山、保岡の各法務大臣へと続く連続的な大量の死刑の執行は、わずか2年7ヶ月の間に、11回、合計35名にのぼり、森英介法務大臣だけでも、在任10ヶ月の間に合計3回、9名の執行を行っており、過去30年間に類例がなく、死刑廃止に向かう国際的なすう勢に完全に逆行するものであって、強く非難されなければならない。
 国家・個人を問わず、人の命を尊重し、如何なる理由があろうとも人の命を奪ってはならないことは、人類共通の倫理であり、民主主義の基本的な理念である。そして、それ故に、すでに世界の3分の2以上の国と地域が死刑を廃止しているし、国連は一昨年と昨年12月の2回にわたりすべての死刑存置国に対して死刑執行の停止を求めたのであり、これに応えて死刑存置国は死刑の執行を減少させてきたのである。
 昨年10月ジュネーブで開かれた国際人権(自由権)規約委員会において、日本の死刑制度について審査が行われ、死刑廃止を求める厳しい批判がなされた。日本政府は、この批判に謙虚に耳を傾け、死刑の廃止に向けてスタートを切るべきであったにもかかわらず、これにあえて逆らい、死刑の執行を強行したことは、国際的にも許されない。
 陳徳通さんは、日本語が不自由なために、裁判においても、十分な審理が受けられず、その結果、強盗殺人の実行行為者が誰かなど、判決には不自然・不合理な点が多々あるだけでなく、恩赦の出願も行っており、今後再審を行いたい希望も持っていたし、せめて家族と面会をさせてほしいと訴えていた。精神病にも罹患していた。
 山地悠紀夫さんと前上博さんは、いずれも控訴取り下げで確定しており、三審まで裁判を受ける権利を保障されておらず、また事件の背景をなす生育環境や人格特性について十分に審理が尽くされておらず、さらにその責任能力についても疑問があり、死刑の量刑が正しかったか否か大いに問題がある。
 以上のほか、法的に何らの義務がないにもかかわらず、死刑の執行を強いられている拘置所職員の苦痛にも心を致すべきである。
 私たちは、死刑の廃止を願う多くの人たちとともに、また、森英介法務大臣に処刑された陳さん、山地さん、前上さんに代わり、そして、この間連続的に死刑を執行させられている拘置所の職員に代わって、森英介法務大臣に対し、強く抗議する。
2009年7月28日
死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90
...............................

山地悠紀夫・前上博死刑囚(大阪拘)、陳徳通死刑囚(東京拘)に刑執行=森英介法相


3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
国際協調の件 (そうくう)
2009-07-29 01:12:01
国連の死刑廃止の勧告を無視し続けることは、国際協調をかかげている憲法前文に違反しているのではないかと私のつたない理解では思いました。

憲法前文(抜粋)
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
返信する
Re:国際協調の件 (ゆうこ)
2009-07-29 14:24:22
そうくうさん。コメント、ありがとう。
「森英介法相の本音」、憶測とアイロニーとで代弁試みました。↓

 私が公僕として、国民の代わりに死刑執行命令書にサイン(代行業務)した結果として、3名の死刑囚に対し刑が執行された。私の積極的な思いではなかったが、国民の意思が死刑制度を圧倒的に支持している事実及びこの国が絶対的な官僚支配の下にある以上、逆らうことはできないと判断した。法相たるもの、死刑執行命令書にサインもできないようでは、国民からも官僚からも支持は得られない。民主党は官僚支配を打破すると言うが、そんな甘いものではない。
 何時いつと憶測が飛び交う中で、ここまで解散が長引いた。法務大臣でなくなる前に、どうしてもサインをしなければならない。この判を押さないことには、官僚が辞めさせてくれない。この数日、数週間、数ヶ月、いつ判を押すことになるのか、と苦しかった。この苦しさは、妙なことを言うようだが、獄中の死刑囚諸君も同じだったのではないか。誰を処刑するかは法務官僚が決めて挙げてくるが、相当苦心するようだ。死刑回避の手段としての再審請求案件も存外多いのでは、とも聞く。それらは外さねばならない。そのため、勢い、刑確定から2~3年での早期執行とならざるを得ない。
 判を押すのは、正直気持ちのいいものではない。故木村修治死刑囚は「死刑は、私で最後にして」と言ったそうだが、判を押すのも私で最後にしてほしい、と夢のように思う。無理なことだ。
 執行する拘置所職員も、ご苦労さま。国民はそれほど死刑制度がいいのなら、裁判員制度じゃないが、くじで選ばれた国民が死刑執行を手ずからやってはどうか。或いは、死刑を求めた遺族が、やってはどうか。そうすれば、「粛々と」なんて、私もいい訳めいた常套句を言わなくて済む。
 これで法相の責務からも解かれたわけだ。福田元総理じゃないが、最後に言っておきたい。「私の判によって執行された9名の死刑囚諸君。私が殺したんじゃないんです。国民が殺したんです。私は自分を客観的に観ることができるんです」。
返信する
それた話を失礼します。 (そうくう)
2009-07-30 16:33:53
「粛々と」という言葉に私はアイヒマンらのことを思いました。ドイツの警察官僚だったアイヒマンはナチ政権で指導的役割を執った
として有罪になりましたが、彼は自分は命令に従っただけと無罪を主張していました。またドイツ政府がベルリンの壁を乗り越えようとした人を射殺していたことに関し、射殺担当の公務員、当時のドイツの政権担当者が射殺命令の責任を負い1997年に有罪になりました。個人の倫理観から人を殺めた人が有罪になるのは当然だと思います。しかし国家の体制、職務に忠実であろうとして、職務として人を殺めた人が有罪になるのは正しいことなのだろうかと考えました。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。