本田圭佑の解説は「サッカーの新しい見方を示した」2022/12/01

2022-12-01 | 相撲・野球・・・など

本田圭佑の解説は「サッカーの新しい見方を示した」、伝説のアナウンサーとサッカー研究者に聞く「面白さ」
 日本代表・ワールドカップ

 サッカーのFIFAワールドカップ(W杯)カタール大会が熱気を帯びる中、元日本代表・本田圭佑さんの解説が話題だ。相手の選手に向かって「穴だ」と言い切ったり、試合展開を予言するかのような持論を語ったり……。試合を解説するたびに、「本田の解説」がツイッターのトレンドに入るその現象を「専門家」はどう見るのだろうか。(デジタル編集部 古和康行)

「ズーレが穴」
 本田さんは11月23日、ABEMAの日本対ドイツ戦で、解説者としてデビューした。「何をやっていいか分からないので、しゃべりたいことをしゃべる」と臨んだその初戦は言葉通り、これまでのサッカー中継の常識を覆す言葉の連続だった。
 視聴者がまず驚いたのは、選手の「さん」付けだろう。本田さんは一緒に戦った経験の長い選手たちを、「ユウト」(長友佑都)、「ワタル」(遠藤航)、「ゴンちゃん」(権田修一)などとあだ名で呼ぶ一方、後輩の選手らにはなぜか、みな「さん」づけ。伊東純也は「伊東さん」、鎌田大地は「鎌田さん」、三笘薫は「三笘さん」といった具合で、特に前線に若い選手が多い日本代表の攻撃の場面では、チャンスの度に「○○さん」が乱れ飛んだ。

 言葉の選び方も自然体。ドイツ戦では、ドイツの19歳の新星・ムシアラに 翻弄される守備陣について「“ちんちん”にされている」、コスタリカ戦では長友からのパスが通らなかった場面で、「佑都のパスが“ 雑ざつ い”」などとサッカー業界用語を連発。さらに試合が終盤に近づくと、ドイツ戦では「(アディショナルタイムが)7分? 7分もある?」「とにかく気合。ここからは理屈じゃない」「終わりやろ、終わりやろ」と気持ちを前面に出して、代表の戦いを見守った。

 何よりも「わかりやすい」との声が上がったのが、戦術面での指摘で、よそ行き風情のかけらもない“本田節”で何度も鋭い分析を披露した。ドイツ戦では押し込まれた前半の最後に「5バックにするべきだ」と発言。日本は後半、その言葉通りのシステムに修正し、流れを取り戻した。後半には、「(ドイツの右サイドバックの)ズーレが穴」と見ると、ドリブル突破が得意な左サイドの三笘に1対1を仕掛けさせるために「三笘さんが持ったときはサポートにいかなくていい」と“実戦的”な戦術を提案。日本の同点弾は三笘の仕掛けから生まれた。

 11月27日のコスタリカ戦でも、相手のボールのクリアの仕方を見て、「あんまり強くないかもしれない」「カウンターの精度を疑う」などと、相手チームのウィークポイントを歯に衣着せぬ言葉で鋭く指摘し、試合途中には「コスタリカの監督だったら(日本を)攻められる気がする」と語るなど、まさに「しゃべりたいこと」を語り尽くした印象だった。

 斬新な語り口にはサッカーファンのみならず、サッカー初心者からも「面白い」との声が上がり、SNSで拡散。試合の度に「本田の解説」がツイッタートレンドの上位に入るほどの話題となった。

ポイントはカリスマによる暴露
 なぜ、本田さんの解説はファンの心をつかんでいるのか。
 「ポイントは、知的好奇心を刺激するインタレスティングなリビール(暴露)ではないか」
 こう指摘するのは、スポーツコーチングやサッカーを研究する筑波大体育系の浅井武名誉教授(スポーツ科学)だ。浅井さんは、自身も筑波大蹴球部の出身で、サッカーのキック技術や用具についての研究を重ねており、サッカー選手への指導経験を持つ専門家だ。
 浅井名誉教授は、これまでの日本のサッカー解説は、サッカー初心者の人でも理解できる「わかりやすさ」が重視されてきたと指摘する。できる限り専門用語を使わない解説手法も、一緒にスポーツバーで応援しているような解説手法も、まさに「わかりやすさ」「とっつきやすさ」を意識したものだ。
 しかし、本田さんの解説はこうした初心者向けのわかりやすさとは少し違い、刻一刻と変わる試合の状況について、「自分のオピニオンを自分の言葉で表明していくスタイル」(浅井名誉教授)だ。
 その話しぶりは、まるでロッカールームやピッチ上で監督や選手同士がコミュニケーションを取るかのよう。浅井名誉教授はこうした解説が支持を集める理由について、「一般の人には理解できないサッカー用語を使うやりとりそのものが逆に、代表という秘密、よく分からない、一般の人には入れない場所に踏み込んだ感じで、視聴者の知的好奇心を刺激しているのでは?」と分析する。
 選手の呼び方があだ名と「さん」付けで異なる点についても同様で、「共に戦った仲間だからこそ言える仲間意識、後輩たちに対するプライドというか距離感といった選手たちとのリアルな関係そのものも、視聴者にとっては貴重な秘密の暴露にあたる」という。とりわけ、本田さんは長く日本代表に中心的存在として君臨し、現役時代からその発言が注目されてきた存在。浅井名誉教授は「そのカリスマ性が、サッカーファンにとって、彼のリビールをより貴重でありがたいものにしているのではないか」と指摘する。

ネット時代に変わるサッカー解説…大きな一歩
 「本田さんの解説は、サッカー放送の次の時代への大きな一歩かもしれません」
 そう話すのは、元NHKアナウンサーでサッカーの実況も長く務めた、法政大学スポーツ健康学部の山本浩教授(スポーツメディア論)だ。1986年W杯メキシコ大会でのマラドーナによる5人抜きの実況「マラドーナ、マラドーナ、マラドーナ、来たあー!マラドーナ!」や、日本が初のW杯出場を勝ち取った1997年の「ジョホールバルの歓喜」での「このピッチの上、円陣を組んで今散った日本代表は私たちにとって“彼ら”ではありません。これは私たちそのものです」といった名調子を残した、サッカー実況のレジェンドだ。
 山本教授は、サッカーに詳しい人に寄せた本田さんの解説手法が人気の理由について、映像技術の進歩との関係性を挙げる。
 カタールからオンライン取材に応じた山本教授。往時の美声で鋭い洞察を語ってくれた
 本田さんが解説を担当するABEMAは今大会、放送をストリーミングで流すだけでなく、見逃し放送なども実装した。しかも、ライブで試合を見ていてもカメラの視点を切り替えることもできる。
 「今は試合を伝えるカメラが増え、視聴者がさかのぼってプレーを検証することができるようになった。我々の時代では素人では見分けがつかなかった、プロだから見える深い部分まで、視聴者自身も確認できるようになっているわけで、視聴者もそうした深い部分にしっかり答えてくれる解説を求めるようになっている。映像技術の進歩は実況や解説も変えていくんです」
 確かに本田さんの解説では、「ほら、見てください」「ここ、分かりますかね」という感じでリプレーを振り返りながら、自分の気づきについて改めて視聴者に説明する場面が印象に残る。こうした映像をフル活用した語り口が、サッカーの奥深さや魅力を掘り起こしていっているのかもしれない。
 さらに、山本教授は「テレビで観戦する層と違い、ABEMAでサッカーを観戦する視聴者層は、普段からインターネットでサッカーを観戦している人――つまり、サッカーの知識をそれなりに持っている人が多い」と指摘。その上で、本田さんの語り口について、「そういう前提を意識しつつ、見ている人、周りの人が自分にどんな発言を求めているのかを考え、極めて理知的に言葉を選んでいる」と話す。
 山本教授は「もし(サッカー初心者も多い)NHKで本田さんが解説をしていたら、言葉の選び方は違ったものになるはず」としつつも、今大会で話題になった「本田の解説」に大きな可能性を感じているという。「解説者には何をやってはいけないというのはない。本田さんの解説が、サッカーファンにこれまでにない心地よさをもって受け入れられているならば、これまでの定型から見れば、それは痛み=反省を与えるものでもある。これがネット中継だからこそ成り立つのか、それともテレビも含めた定型の一つとして定着していくのか、注目です」

                 ◇

 決勝トーナメント進出がかかるスペイン戦は12月2日午前4時キックオフ。ABEMAによると、この試合でも本田さんが解説を務める予定だ。大一番でどんな「本田節」が飛び出すのか――。日本代表の行く末と共に注目したい。

 ◎上記事は[読売新聞]からの転載・引用です


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