【大阪地検特捜部は再生できるか】(1)「巨悪ありき」で自滅

2012-10-22 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア

【大阪地検特捜部は再生できるか】
(1)「巨悪ありき」で自滅 
産経ニュース2012.10.22 15:07
 平成21(2009)年春、自らの指揮で強制捜査に踏み切った郵便不正事件。「特捜部こそ検察の牙だ。牙が機能することで巨悪に対する抑止力になる」。大坪には、政官財に巣くう巨悪を討つ「最強の捜査機関」の看板を背負う気概もあった。
 政権交代前の21年3月、ゼネコン「西松建設」から民主党代表(当時)、小沢一郎(70)側への献金をめぐる捜査に乗り出した東京地検特捜部に、「小沢政権を阻止する国策捜査」との批判が直撃した。捜査は次第に行き詰まった。
 「東の牙が苦境に陥った今こそ、西の牙をむいて検察の威信を示す」
 大坪率いる大阪地検特捜部は厚生労働省局長、村木厚子(56)を逮捕、起訴し、民主党大物議員らの摘発も視野に入れる。
 だが、見立てに固執して突っ走った捜査はやがて自滅する。22年9月、村木に無罪判決が下った直後、部下の元主任検事、前田恒彦(45)による押収資料改竄(かいざん)が朝日新聞の報道で発覚。大坪も改竄を上司に報告しなかったとして刑事責任を問われる身に落ちた。
 大坪は悔やむ。
 「足元の落とし穴に気付かなかった」
■“特捜神話”の徒花
 大坪が牙をむいた巨悪。そのイメージを国民に決定づけたのは、東京地検特捜部が「闇将軍」といわれた元首相の田中角栄を逮捕、起訴したロッキード事件=昭和51(1976)年=だろう。
 その後も政官財の癒着や腐敗にメスを入れた特捜部は、秋霜烈日のバッジや「巨悪を眠らせない」という言葉とともに、検察の正義を象徴する存在に祭り上げられていく。
 一方、商人の街として発展した大阪で、主に政官財の一角を占める「財」にひそむ不正を摘発してきたのが大阪地検特捜部だ。
 土地柄を映すように在日韓国・朝鮮人やなど複雑な問題を背景にした事件も多い。特捜部は警察や国税局と連携し、イトマン事件=平成3(1991)年=の許永中(65)や牛肉偽装事件=平成16年=の浅田満(73)ら、フィクサーと呼ばれる存在にも切り込んだ。
 しかし平成に入り、政官財の癒着を招いた自民党一党支配が崩れると、巨悪像も変容していく。東京特捜OBの弁護士、石川達紘(73)は「派閥トップが金を回し、影響力を行使する時代ではなくなった。ロッキード事件に象徴されるようなかつての巨悪はもういない」と指摘する。
 それでも郵便不正事件で大坪は巨悪の幻影を追った。検察も牽引役(けんいんやく)として大坪を重用した。両者は互いに共鳴し合い、自滅に向かって突き進む。崩れるべくして崩れた「特捜神話」の最後の徒花(あだばな)だったのかもしれない。
■「独自捜査」との決別
 改竄事件を受け、最高検は昨年7月、特捜部の体制見直しを軸とした検察改革を発表した。目玉は「独自捜査優先主義」との決別。巨悪の摘発を担ってきた独自捜査担当を縮小し、警察や国税局、証券取引等監視委員会など関係機関との連携強化を打ち出した。
 「最強の捜査機関」の看板を揺るがせる衝撃が走った。しかも当時、検事総長として改革を主導した笠間治雄(64)は東京地検特捜部長も務めた捜査現場派のエース。検察としても苦渋の決断だったのだ。
 笠間は「巨悪ありきで決めてかかる捜査は間違い。プレッシャーやゆがんだプライドは無理な捜査に走らせる」と語り、大坪流の捜査からの脱却を求めた。
 8月7日。大阪地検特捜部は新部長に畝本毅(うねもと・つよし)(52)を迎えた。東西の特捜部に計8年半在籍。証券監視委に4年間出向し、大阪国税局とのパイプも太い。連携重視の検察改革と軌を一にする人事だ。
 新体制がどのような不正をえぐり出すのか。大阪特捜の挑戦が検察改革の成否を占う試金石となる。
(敬称・呼称略)

 検察史上最悪の不祥事といわれた押収資料改竄事件から2年余。重い十字架を背負う大阪地検特捜部の再生への道筋を探る。=次回は23日に掲載の予定

 【用語解説】押収資料改竄事件
 厚生労働省の村木厚子局長が無罪になった郵便不正事件の捜査で、押収品のフロッピーディスクの日付データを捜査の見立てに合うように書き換えたとして、最高検は平成22年9月、大阪地検特捜部の前田恒彦元主任検事を証拠隠滅容疑で逮捕、同10月に起訴。前田元検事は昨年4月、1審大阪地裁で懲役1年6月の実刑判決が確定、今年5月に出所した。改竄を隠蔽したとする犯人隠避罪に問われた元特捜部長、大坪弘道被告と元副部長、佐賀元明被告は同3月、大阪地裁で懲役1年6月、執行猶予3年の判決を受け、控訴した。
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