【オバマ大統領は、もはや「死に体」】 日高義樹 / 湯浅博 / 宮家邦彦

2013-10-04 | 国際

オバマ大統領と軍の関係、シリア攻撃をめぐりさらに悪化
 zakzak 2013.09.26 連載:世界を斬る 日高義樹
 シリアの毒ガス兵器をめぐる国連の討議が始まったが、米国の国連問題専門家は次のように述べている。
 「毒ガスが使われたことは判明した。だが、アサド政権が使用したという確固たる証拠がないため、安全保障理事会は決議文を作成できないだろう」
 こうした情勢にいらだっているのが米軍で、ワシントンの軍事専門家はこう言っている。
 「国連の決議を待っていたところで、ラチがあかないのは明白。米軍はシリアの毒ガス施設を破壊する十分な能力を持っている。オバマ大統領はためらわずに攻撃命令を出すべきだった」
 米軍の行動に詳しいこの専門家によれば、シリアの首都ダマスカスからわずか数十キロのヨルダンのアズラク基地には、毒ガス兵器を処理する特殊部隊を含めて米軍の第1機甲師団の部隊がすでに入っているという。部隊は、命令があり次第、国境を越えて、ダマスカス周辺にあるアサドの化学兵器施設を占拠し、毒ガス兵器を抑える態勢を整えている。
 ヨルダンにいる第1機甲師団は、テキサスのフォートブリスから出動している。私も取材に行ったことがあるが、フォートブリスは米国の核兵器と毒ガス兵器を扱う専門部隊の基地である。
 ヨルダンのムワファクサルティ基地では、米空軍がF16戦闘機とF22戦闘機の訓練をくり返し、ヨルダン空軍と協力してシリア攻撃のシミュレーションを終えている。また、空軍はヨルダン、エジプト、サウジアラビアなど19カ国の反イラン勢力を集めて実施した「イーグルライオン」と呼ぶ大がかりな演習にも、シリアを攻撃する訓練を組み込んだ。
 すでにお伝えしたように米海軍は、原子力空母「ニミッツ」を中心に、3隻のイージス艦艇を紅海に展開し、巡航ミサイルでシリアを攻撃する態勢をとっている。揚陸艦「ケアサージ」に搭乗している部隊26MEUは、何時でもオスプレイで出撃し、シリアを攻撃できる。
 このように米国の陸、海、空、海兵隊の首脳は、予算をやりくりしてヨルダンと紅海を中心に最新鋭部隊を送り、訓練という形をとりながら、いつでもシリアを攻撃する態勢を整えている。
 ところが、米軍最高指揮官のオバマ大統領に軍事力を行使する政治力が欠けている。このため、世界最強の米軍がシリア周辺で待機を余儀なくされているのである。
 「オバマ氏は、戦争にはあきたという世論に押しつぶされただけではない。アサド政権が崩壊すれば、中東での影響力を失うことを恐れたロシアの政治力に屈してしまった」
 米国の保守的なマスコミはこう批判しているが、アフガニスタン戦争で悪化したままのオバマ氏と米軍の関係は、シリア攻撃をめぐり、さらに悪化しそうな情勢だ。
 <筆者プロフィール> 日高義樹(ひだか・よしき)
 1935年、名古屋市生まれ。東京大学英文科卒。59年NHKに入局し、ワシントン支局長、理事待遇アメリカ総局長を歴任。退職後、ハーバード大学客員教授・同大諮問委員を経て、現在はハドソン研究所首席研究員、全米商工会議所会長顧問。
 *上記事の著作権は[zakzak]に帰属します
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オバマ大統領はもはや「死に体」 シリア攻撃の思惑外れ…
 zakzak 2013.09.19 連載:世界を斬る 日高義樹
 「爆撃の脅しがきいて、シリアのアサド大統領は毒ガス兵器をあきらめざるをえなくなった」
 オバマ大統領は米テレビ局に出演して、こう気炎をあげたが、実際はシリア攻撃をめぐるオバマ氏の思惑は全て外れた。
 シリア攻撃は大統領命令で8月29日に行われるはずだった。ところが、オバマ氏は、「議会の承認を得るのが先決」と言い出し、ホワイトハウス首脳部を驚かせた。これは、オバマ氏が弱気になったせいだけでなく、一つの思惑があった。
 オバマ氏は、外国での軍事行動に反対するティーパーティー派とマケイン上院議員ら伝統的な保守派が対立して、共和党が分裂することを期待していた。共和党が分裂すれば、予算や赤字限度額、新しい医療保険制度、金融緩和政策の終了、連邦準備制度理事会の新議長選任といった問題について、強気の姿勢をとれると考えた。
 「オバマ氏は議会が戦争について討議を始めれば、大混乱になって自分と対立できなくなると思っていた。だが、結局、失敗に終わった」
 友人のジャーナリストはこう指摘したが、オバマ氏は議会に下駄を預けるつもりだったのに、うまくいかなかった。というのも、代わりにロシアのプーチン大統領が下駄をはいて、登場してきたからである。
 米マスコミや評論家みなが戦争に嫌気がさしているところだったため、プーチン氏の提案を有り難く受け入れた。プーチン氏が9月11日の『ニューヨーク・タイムズ』で「米国人は自分たちが特別だと思っているが、神は全ての人を平等につくったのだ」と説教したとき、誰も反論しなかった。
 実はプーチン氏には、えらそうな口をきく資格などまったくない。
 2002年10月、チェチェンのテロリストが、モスクワの劇場を襲い、観客ら約900人を人質にして立てこもったとき、ロシア軍はプーチン氏の指示で排気口から有毒ガスを注入して、テロリストと人質を昏睡させた。その直後、特殊部隊が突入し、テロリスト全員を射殺したが、窒息したり巻き添えになったりして、約130人の一般人が死亡した。
 プーチン氏がロシアとシリアの利益を考えて差し出した提案を、オバマ氏とケリー国務長官は受け入れるほかなかった。シリア攻撃に米国民の大多数が反対し、議会の同意が得られないことがはっきりしたからだ。
 しかも、追い打ちをかけるように国連の毒ガス兵器査察官が米マスコミにこう語った。
 「シリアは、毒ガス兵器を山岳地帯と地中海に面したロシア基地周辺に巧妙に隠している。爆撃や査察でシリアに毒ガス兵器を破棄させることは不可能だ」
 米議会を混乱に陥れることに失敗したオバマ氏は、まもなく予算不足による政府倒産騒ぎに直面する。医療保険制度や金融緩和打ち切りの話し合いでも行き詰まるだろう。オバマ氏は3年の任期を残して、統治不能の状態に陥りつつある。
 <筆者プロフィール> 日高義樹(ひだか・よしき)
 1935年、名古屋市生まれ。東京大学英文科卒。59年NHKに入局し、ワシントン支局長、理事待遇アメリカ総局長を歴任。退職後、ハーバード大学客員教授・同大諮問委員を経て、現在はハドソン研究所首席研究員、全米商工会議所会長顧問。
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【湯浅博の世界読解】弱ったオバマの米国を値踏みするアジアの国々
 zakzak 2013.09.25
 東シナ海や南シナ海で中国と対峙(たいじ)する日本や東南アジアが気がかりなのは、米国の「指導力低下」と「国力の衰退」である。オバマ米大統領が「シリアが化学兵器を使えば攻撃する」とコブシを挙げた以上、軍事介入をやめれば指導力が疑われ、逆に過度に介入すれば国力が疲弊するという岐路に立たされた。
 ロシアがシリアから「化学兵器の国際管理」の承諾を取り付け、米国が仲介案を受け入れたことから、オバマ政権の「弱さ」の程度が値踏みされる。それはシリアのアサド大統領に限らない。イランの聖職者たち、エジプトの将軍、サウジアラビアの王族、イスラエルの政治家らが米国の出方を見つめている。東アジアでも、中国の覇権主義者や北朝鮮の金王朝もまた、それぞれに推量を働かせる。
 だから、ロシア仲介案を受け入れた9月10日のオバマ大統領演説は、苦渋に満ちたものだった。大統領は米国の軍事圧力によって「外交的な解決への道が開けた」と述べたが、実情はシリアの武器輸出国ロシアの掌(たなごころ)でコブシを引っ込めざるを得なかった。オバマ政権の外交敗北である。
 たとえ米露で化学兵器廃棄の合意ができても、それがシリア内戦の終結に結びつかない。アサド政権は化学兵器を隠匿する時間を稼ぎ、皮肉にもそれ以外のミサイル、航空機など通常兵器を使った攻撃を激化させるかもしれない。
 演説で気になるのは、「米国は世界の警察官ではない」と釈明し、「世界のすべての悪を正す術(すべ)はない」と“普通の国宣言”をしたことだ。強権国家の中には、何をやっても米国の報復はないと勝手に判断する国があり、安全保障を米軍に頼らずに自ら決断する国もある。
 米軍に押さえ込まれてきたイラクやアフガニスタンの国際テロ組織復活を勢いづかせる余地が出る。何よりも、西太平洋で米国の海洋覇権に挑戦する中国は、米国の失墜を「わが利益」とそろばんをはじくだろう。プリンストン大学のギルピン元教授らが説く「覇権安定論」が崩れるときかもしれない。圧倒的パワーの支配的大国が強制力、外交力、説得を通じてリーダーシップを行使するとき、国際システムが安定するとの現実主義理論だ。
 アジア太平洋地域では、イラクなどに軍事力を割かれていた米国が、2010年に「アジア回帰」を表明したばかりだ。そのオバマ政権が“普通の国”として内向きになれば、中国の影響力を恐れる東アジアに動揺が広がる。
 とくに東南アジア諸国連合(ASEAN)は、日米と「中国の脅威」で共通の認識をもっていても、中国の怒りは買いたくない。中国が領海法で南シナ海の大半を「中国の海」として軍を差し向け、フィリピンやベトナムなど沿岸国には圧力がさらに増してくる。
 すでに中国は、米国の動きに合わせてその東南アジアの取り込みを図りつつある。ヘーゲル国防長官が東南アジアを歴訪した先月、王毅外相が北京でASEAN10カ国の外相を招いていた。ヘーゲル歴訪直後にも、今度は李克強首相がASEAN首脳たちを南寧に招待していた。
 オバマ政権が対中抑止でアジアの同盟国との連携を強めようと思えば、早急に連携の意思を表明しなければならない。(東京特派員)
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【宮家邦彦のWorld Watch】シリア政策漂流 オバマ外交、終わりの始まり
 zakzak 2013.09.05
 米国の対中東外交が漂流し始めた。オバマ大統領はシリア政府軍による化学兵器使用を確信し、限定的軍事介入を決断しながら、なぜか対シリア攻撃につき米議会に承認を求めた。米国外交をフォローし始めてはや35年以上たつが、これほど中途半端で稚拙な中東外交は見たことがない。同盟国の最高指導者を批判するのは本意ではないが、それにしても今回の対シリア政策はあまりにひどすぎないか。
 2008年、オバマはイラク戦争の終結を約束して大統領に当選した。彼の仕事はイラク・アフガンからの米軍撤退と米国内の再建であり、海外での新たな関与や軍事介入には極めて慎重だった。当然ながら、いわゆる「アラブの春」への関与も必要最小限、エジプトでクーデターが起きようが、シリアで内戦が激化しようが、オバマは米国の積極的関与を避けてきた。
 本年6月、そのシリアでの化学兵器使用疑惑が報じられた際もオバマ政権は沈黙を守った。ところが8月に入り、大統領は突然対シリア政策を変更し、「シリアにおける化学兵器の使用はレッドラインだ」と表明する。レッドラインとは越えてはならない一線、すなわち米国の軍事介入を強く示唆する表現だ。
 一体何が大統領を動かしたのだろうか。筆者には見当もつかない。オバマ大統領は冷静沈着な政治家だったはずだが、化学兵器の非人道性を思うあまりの衝動的な発言だったのか。理由は何であれ、大統領の発言は重く、その一挙手一投足には必ず結果が付いて回る。
 オバマ大統領が好むと好まざるとにかかわらず、米国は大国である。大国の最高指導者が一度「レッドライン」に言及した以上、その一線が破られれば、具体的な行動を取らなければならない。軍事力投入を躊躇(ちゅうちょ)すれば、各国はその指導者を信用しなくなり、米国は大国でなくなるのだ。
 さらに理解できないのは大統領が米議会に対シリア攻撃権限の承認を求めたことだ。失礼ながら、この時点でオバマ外交は終わったと感じた。こうした政治判断は外交ではなく、内政である。まして、憲法上米軍の最高司令官である大統領の政治判断の責任を議会関係者にも負わせようとする手法は大国米国の大統領にふさわしくないものだ。
 この判断の外交的悪影響も計り知れない。シリアのアサド政権は一息ついて態勢を立て直せる。どうせ限定攻撃しかできないとなれば、シリアは米国の足元を見る。内戦は続き、化学兵器が再び使用される可能性すらあるだろう。
 米国の迅速かつ毅然(きぜん)とした対応を期待した欧州・中東の関係国も一様に落胆したはずだ。彼らには今後の対シリア戦略を根本から見直す必要があるかもしれない。
 いずれにせよ、この問題は化学兵器使用という非人道的行為に対する国際社会の一致した対応という大義ではなく、今や米国大統領の権威とクレディビリティー(信頼性)の維持という小事に矮小(わいしょう)化されてしまった。
 もはや国連安保理決議採択は不可能。シリア政府のサリン使用が証明されたとしても、世界の関心は問題の本質から既に逸脱している。この責任は残念ながら米国の議会ではなく、大統領自身が負わなければならない。
 それでは米国のシリアに対する限定的・懲罰的軍事介入は非難されるべきかといえば、それは違う。今徹底的に糾弾されるべきはアサド政権の自国民間人に対する無差別サリン攻撃であるはずだ。
 かつて欧州の政治家が「最終的には米国を支持するしかない、たとえ彼らの判断が誤っているとしてもだ」と語ったことを思い出した。米国の大統領が決断した以上、米議会はこれを支持する。いかなる経緯があるにせよ、アサド政権には正しいメッセージを届けなければならない。
 【プロフィル】宮家邦彦 みやけ・くにひこ
 昭和28(1953)年、神奈川県出身。栄光学園高、東京大学法学部卒。53年外務省入省。中東1課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを歴任し、平成17年退官。第1次安倍内閣では首相公邸連絡調整官を務めた。現在、立命館大学客員教授、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。
 *上記事の著作権は[zakzak]に帰属します
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米 議会対立で政府機関の一部で閉鎖続く / オバマ政権が推進する医療保険制度改革 2013-10-02
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財政赤字の限度額・医療保険制度  “オバマびいき”米メディアの裏事情 【世界を斬る】日高義樹 2013-10-04 
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シリアに行ったことがない方へ 黒井文太郎 2013-09-20
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「どこの国でもいいから助けてくれ!」 シリア国民の悲痛な叫びを聞いてほしい 黒井 文太郎 2013-09-10 
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[なぜシリアは空爆されるのか? 日本よ、本当の外交に目覚めろ] 伊吹太歩の時事日想 2013-09-05  
  オバマ大統領は米議会の承認を得た上でシリアを空爆すると発表した . . .
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「シリア空爆のシナリオ アサド政権の化学兵器使用と恐怖政治」 黒井文太郎 2013-09-04  
  アサド政権は独裁体制を守るためなら、どんな非道なことでも躊躇しない政権 . . . 本文を読む
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大統領として非常に危険な局面に入りつつあるオバマ氏  シリア問題で大きな賭けに打って出ている 2013-09-03 
  バラク・オバマ大統領は8月31日、シリアへの攻撃について連邦議会の承認を求めることにした . . . 本文を読む 
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日米、関係強化し中国牽制 集団的自衛権・日本版NSCを推進へ 外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2) 2013-10-04  
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