
<法務省>知的障害受刑者のチェックシート11年度導入へ
毎日新聞 11月9日(火)2時30分配信
法務省は来年度から、受刑者の知的障害の有無を刑務官ら現場職員が判断できるチェックシートを導入し、障害の正確な把握をめざすことを決めた。刑務所内での生活では支障は少なくても、出所後生活苦に陥り再び罪を犯すケースも多い。これまで知的障害が見過ごされがちだった受刑者を福祉の支援につなげ、再犯防止を図るのが狙いだ。【石川淳一】
受刑者が刑務所に入る際に実施される能力検査では、全体の2割強にあたる毎年7000人前後がIQ(知能指数)相当値70未満。70未満は通常、知的障害の疑いがあるとされるが、刑務所の検査は正式なIQ検査ではなく、実態を反映していないとも指摘される。法務省の統計上では、知的障害が確認される受刑者は療育手帳取得者など毎年200~300人にとどまる。
刑務所の出入所を繰り返す累犯者の中には、障害に気づかれず福祉の支援がないまま生活が苦しくなって窃盗などの犯罪に再び手を染めるケースが多いとされる。心理技官や社会福祉士がいる刑務所もあるが、受刑者全員にかかわる余裕はない。出所者を受け入れる福祉サイドから「刑務所内で知的障害が見落とされていることが多い」と、法務省矯正局に対応を求める声が寄せられていた。
来年度からチェックシートを用いる対象は、主に能力検査でIQ相当値70未満だった受刑者。過去に福祉の支援を受けたり、特別支援学級に在籍した経験などを聞き取るほか、足し算や引き算、漢字の使い方などを確かめる。服役後も、刑期満了日が言えるかや、ボタンの掛け外しができるかを診断する。知的障害があると判断された場合、出所前から保護観察所や各地の地域生活定着支援センターと連携し、福祉の支援先を探すという。
矯正局は「これまで、知的障害のある受刑者が『理解が悪い』、『やる気がない』と誤解されかねない状況にあった。現場の刑務官が『障害の存在』を意識して把握の漏れをなくし、出所後の福祉につなげたい」と話している。
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山本譲司著『累犯障害者』獄の中の不条理(新潮社刊)
p12~
塀の中での半世紀
下関駅放火事件の福田容疑者についても関心を抱き、いろいろと調べてみた。その結果判明したのは、彼もまた障害者であるという事実だった。
福田容疑者は、過去10回にわたって刑務所に服役していた。実刑判決を受けた罪名は、すべて「放火罪」だ。
福田容疑者は知的障害者だったのだ。1996年、広島で起こした放火事件をめぐる裁判では、精神鑑定がなされ、「知能指数66、精神遅滞あり」と判断されている。
p16~
「刑務所に戻りたかったんだったら、火をつけるんじゃなくて、喰い逃げとか泥棒とか、ほかにもあるでしょう」
そう私が訊ねると、福田被告は、急に背筋を伸ばし、顔の前で右手を左右に振りながら答える。
「だめだめ、喰い逃げとか泥棒とか、そんな悪いことできん」
本気でそういっているようだ。
「じゃー、放火は悪いことじゃないんですか」
「悪いこと」
即座に、答えが返ってきた。当然、悪いという認識はあるようだ。
「でも、火をつけると、刑務所に戻れるけん」
p18~
「外では楽しいこと、なーんもなかった。外には一人も知り合いがおらんけど、刑務所はいっぱい友達ができるけん嬉しか。そいから、歌手が来る慰問が面白かたい」
福田被告がそう言うように、彼の人生のなかでは、刑務所こそが安住の地だったのかもしれない。「刑務所は安心。外は緊張するし、家は怖かった」とも彼は言う。
福田被告は、少年時代、父親からの凄まじい虐待を受けている。彼の弁護人に聞いたところによると、体中、傷跡だらけで、特に胸部から腹部にかけての全面に広がる火傷の跡は酷いという。父親から何度も、燃えたぎる薪を押し付けられていたのだ。
そんな生い立ちからすると、はじめに入った少年教護院は、彼にとって、「避難場所」と感じたかもしれない。
p20~
そしていま、刑務所の一部が福祉施設の代替施設と化してしまっている。
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◆福祉の網の目から溢れ、社会の中で生きていけない人が逃げ込む駆け込み寺としての刑務所
毎日新聞 11月9日(火)2時30分配信
法務省は来年度から、受刑者の知的障害の有無を刑務官ら現場職員が判断できるチェックシートを導入し、障害の正確な把握をめざすことを決めた。刑務所内での生活では支障は少なくても、出所後生活苦に陥り再び罪を犯すケースも多い。これまで知的障害が見過ごされがちだった受刑者を福祉の支援につなげ、再犯防止を図るのが狙いだ。【石川淳一】
受刑者が刑務所に入る際に実施される能力検査では、全体の2割強にあたる毎年7000人前後がIQ(知能指数)相当値70未満。70未満は通常、知的障害の疑いがあるとされるが、刑務所の検査は正式なIQ検査ではなく、実態を反映していないとも指摘される。法務省の統計上では、知的障害が確認される受刑者は療育手帳取得者など毎年200~300人にとどまる。
刑務所の出入所を繰り返す累犯者の中には、障害に気づかれず福祉の支援がないまま生活が苦しくなって窃盗などの犯罪に再び手を染めるケースが多いとされる。心理技官や社会福祉士がいる刑務所もあるが、受刑者全員にかかわる余裕はない。出所者を受け入れる福祉サイドから「刑務所内で知的障害が見落とされていることが多い」と、法務省矯正局に対応を求める声が寄せられていた。
来年度からチェックシートを用いる対象は、主に能力検査でIQ相当値70未満だった受刑者。過去に福祉の支援を受けたり、特別支援学級に在籍した経験などを聞き取るほか、足し算や引き算、漢字の使い方などを確かめる。服役後も、刑期満了日が言えるかや、ボタンの掛け外しができるかを診断する。知的障害があると判断された場合、出所前から保護観察所や各地の地域生活定着支援センターと連携し、福祉の支援先を探すという。
矯正局は「これまで、知的障害のある受刑者が『理解が悪い』、『やる気がない』と誤解されかねない状況にあった。現場の刑務官が『障害の存在』を意識して把握の漏れをなくし、出所後の福祉につなげたい」と話している。
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山本譲司著『累犯障害者』獄の中の不条理(新潮社刊)
p12~
塀の中での半世紀
下関駅放火事件の福田容疑者についても関心を抱き、いろいろと調べてみた。その結果判明したのは、彼もまた障害者であるという事実だった。
福田容疑者は、過去10回にわたって刑務所に服役していた。実刑判決を受けた罪名は、すべて「放火罪」だ。
福田容疑者は知的障害者だったのだ。1996年、広島で起こした放火事件をめぐる裁判では、精神鑑定がなされ、「知能指数66、精神遅滞あり」と判断されている。
p16~
「刑務所に戻りたかったんだったら、火をつけるんじゃなくて、喰い逃げとか泥棒とか、ほかにもあるでしょう」
そう私が訊ねると、福田被告は、急に背筋を伸ばし、顔の前で右手を左右に振りながら答える。
「だめだめ、喰い逃げとか泥棒とか、そんな悪いことできん」
本気でそういっているようだ。
「じゃー、放火は悪いことじゃないんですか」
「悪いこと」
即座に、答えが返ってきた。当然、悪いという認識はあるようだ。
「でも、火をつけると、刑務所に戻れるけん」
p18~
「外では楽しいこと、なーんもなかった。外には一人も知り合いがおらんけど、刑務所はいっぱい友達ができるけん嬉しか。そいから、歌手が来る慰問が面白かたい」
福田被告がそう言うように、彼の人生のなかでは、刑務所こそが安住の地だったのかもしれない。「刑務所は安心。外は緊張するし、家は怖かった」とも彼は言う。
福田被告は、少年時代、父親からの凄まじい虐待を受けている。彼の弁護人に聞いたところによると、体中、傷跡だらけで、特に胸部から腹部にかけての全面に広がる火傷の跡は酷いという。父親から何度も、燃えたぎる薪を押し付けられていたのだ。
そんな生い立ちからすると、はじめに入った少年教護院は、彼にとって、「避難場所」と感じたかもしれない。
p20~
そしていま、刑務所の一部が福祉施設の代替施設と化してしまっている。
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◆福祉の網の目から溢れ、社会の中で生きていけない人が逃げ込む駆け込み寺としての刑務所