ラーゲリに約60万人の日本人がのみこまれた「極寒」「飢え」「重労働」という三重苦

2010-05-26 | 社会
余録:シベリア抑留特措法
 「帰国」を表すロシア語の「ダモイ」だ。戦後の満州(現中国東北部)で日本の将兵は、「トウキョウ、ダモイ」とソ連兵に言われ貨車に乗った。何日か後に車内に「海だ」と歓声が上がった。だがそれは日本海ではなくバイカル湖だった▲シベリア抑留者の手記はそう伝えている。それは奴隷的な強制労働をその支配の道具にするスターリンのラーゲリ(収容所)に約60万人の日本人がのみこまれた歴史の岐路だった。その後最長11年に及ぶ抑留では、約6万人が故国の土を踏めずに命を落としたという▲「極寒」「飢え」「重労働」という三重苦で語られる抑留体験だ。さらに極限状況下の政治教育は旧軍のしがらみもからんだ日本人同士の対立も呼び起こし、多くの人々に深い傷を残した。人間の尊厳をあざ笑うかのような強制労働に、賃金は一切支払われていない▲元シベリア抑留者に対し期間に応じて25万~150万円の給付金を支給する特別措置法案が先ごろ全会一致で参議院を通過し、今国会で成立の見通しとなった。抑留が始まって実に65年、生存する元抑留者8万人、平均年齢88歳といわれる中での戦後のけじめである▲「墓標すら沈みゆく湿地に埋められし戦友(とも)らよ 白骨よ いかにいま在る」。元抑留者の一人の高橋大造さんがシベリア墓参を詠んだ歌だ。まっすぐ立てた電柱も1年で何センチも沈み、傾いてしまう湿地の墓地、そこに埋まっている遺骨の行方に思いをめぐらしたのだ▲法案は死者の確認や強制抑留の実態調査を行い、後世に伝えるよう求めている。死者たちの記憶を、痛恨の国民的体験を、歴史の闇に沈ませてはいけない。
毎日新聞 2010年5月26日
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「シベリア抑留」給付金も実態解明も放置した「戦後処理問題懇談会議」
J-CASTテレビウォッチ 私見「クローズアップ現代」2010/5/26 20:12
  第二次世界大戦後の「シベリア抑留」はまだ終わってない――というのが今回の放送の趣旨だ。いまだ実態が不明な点は多く、最近になって先方の資料が見つかり、何十年も前に死亡していたことがわかった抑留者の死亡通知が遺族に送られるなどしているという。
「やりだしたらきりがない」と切り捨てた役人たち
  当時、日本軍兵士を中心に約60万人が旧ソビエトに抑留されたというが、なかには民間人もおり、番組ではこんな「実態」の証言もあった。
  16歳の旧制中学生。終戦直後の学校宿舎に、ソビエト軍兵士と日本軍の大尉がやってきた。大尉が言うことには、「君たちを内地に連れて行ってやる」。しかし、不審なことに大尉は「年齢を聞かれたら18歳と言え」と指示するのだった。中学生26人はシベリアに連れて行かれ、3年間重労働を強いられた。
  一方、今国会では、シベリア抑留者に給付金を支給するとともに、抑留の実態解明を進める法案が成立する見通しだ。
  しかし、なぜいまごろ!? 最近NHKは、戦後処理を方向づけた昭和57年の「戦後処理問題懇談会議」や官僚による準備会合の資料をゲットしたという。ちなみに当時は抑留者や被爆者など、戦争被害者が政府に補償を求める動きが活発だった。
  準備会合では、「外務省として、懇談会で取り上げ検討することすら、すべて反対」(外務省課長)、「パンドラの箱をぐっと閉める方向に持って行きたい」(内閣審議室長)などの発言があった。会議はそうした官僚らのお膳立て通りに進んで行ったという。
「空襲の被害を含めてあまり対象を広げると寝た子を起こすことになる」(元内閣法制局長官)
「あまり突くと広がりすぎることになる」(三菱総研副社長)
「やりだしたらきりがない」(元自治事務次官)
  抑留者団体の意見を聞いてみようとする常識的な委員もいたが、「過大な期待を与えるおそれ」(内閣審議室長)があるなどとして、反対された。
  こうして、パンドラの箱は固く閉ざされ、抑留問題は見事にフタがされ、放置されたまま、今日に至ったものと思われる。〔ボンド柳生〕
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NHKクローズアップ現代(2010年5月25日放送「シベリア抑留 終わらない戦後」)
 太平洋戦争終結後、57万人以上の人々が強制労働を強いられたシベリア抑留。酷寒や飢餓により少なくとも5万5千人が命を落としたとされるが、その多くが身元など死亡状況さえ不明のままだった。今回、ロシアで新資料が見つかり、戦後65年を経た今、ようやく遺族に抑留時における死の通告が行われ始めた。遺族にとってはようやく戦後の句読点を打てたという一方で、帰国した抑留者たちには、これまで補償を受けることも出来なかったことへの不信感が高まっている。今回NHKが独自に入手した政府の内部文書によって、なぜ今までシベリア抑留者に対しての補償がなされなかったのか、初めて明らかになってきた。戦後65年をむかえ、解明が進み始めたシベリア抑留の新事実を伝える。 《動画

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