一握の砂〔25〕~〔28〕

2006-07-19 | 本/演劇…など

〔25〕2006,7,19

するどくも 夏の来るを感じつつ 雨後の小庭の土の香を嗅ぐ

〔26〕2006,7,20

あさ風が電車のなかに吹き入れし 柳のひと葉 手にとりて見る

汽車の旅 とある野中の停車場の 夏草の香のなつかしかりき

かの旅の夜汽車の窓に おもひたる 我がゆくすゑのかなしかりしかな

〔27〕2006,7,21

白き蓮沼に咲くごとく かなしみが 酔(ゑ)ひのあひだにはっきりと浮く

気にしたる 左の膝の痛みなど いつか癒(なほ)りて 秋の風吹く

赤紙の表紙(へうし)手擦れし 国禁の 書(ふみ)を行李の底にさがす日

〔28〕7,22

水のごと 身体をひたすかなしみに 葱の香などのまじれる夕

十月の朝の空気に あたらしく 息吸ひそめし赤坊(あかんぼ)のあり

十月の産病院の しめりたる 長き廊下のゆきかへりかな


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