秋葉原無差別殺傷事件〈加藤智大被告〉第10回公判2010.5.25証人尋問 -上-からの続き
裁判長「それでは午後の審理を始めます」
《検察官が家族3人で秋葉原を訪れ、刃物で背中を刺された男性の供述調書を読み上げた》
裁判長「この証人について遮蔽措置の決定がされています」
《証人の男性が入廷》
検察官「あなたは平成20年6月8日、秋葉原で刃物で刺される被害に遭っていますよね」
証人「はい」
《証人は、研修のために都内のウイークリーマンションを借りており、6月8日は、訪れた妻と娘とともに秋葉原に遊びに来ていたという》
検察官「午後0時半には、歩行者天国になっていた中央通りに出ましたね」
証人「はい」
検察官「車道上を北に向かって歩いていたということでよろしいですか」
証人「はい」
検察官「歩いていたとき、どうでしたか」
証人「信号が青だったのを覚えています」
検察官「反対側はどうでしたか」
証人「車が止まっていると思って見たら、トラックが速度を落とさずに突っ込んできました」
検察官「どんなトラックですか」
証人「白いトラックだったと思います」
検察官「トラックはどんな方向に向かっていきましたか」
証人「左(西)から右(東)に突っ込んでいきました」
《証人は現場見取り図を見ながら答える》
検察官「近づいてきましたか」
証人「私たちは北に向かっていたので、トラックは横切る形で通っていました」
検察官「エンジン音は聞こえましたか」
証人「聞こえました。ひときわ高く、アクセルを踏み込むような音でした」
検察官「トラックは交差点に入ってきましたか」
証人「はい。トラックは、たくさんの人をはね飛ばして、右の方に走り去りました」
検察官「どんな音がしましたか」
証人「すさまじい音でした。ドーンという音がけたたましく、繰り返されました」
検察官「はねるところは見ましたか」
証人「見ました」
検察官「何人見ましたか」
証人「2、3人です。宙に舞っているような気がしました」
検察官「交差点に突っ込んだトラックは、どの程度の速度が出ていたと思いますか」
証人「50キロ以上だと思います」
検察官「交差点の中はどうでしたか」
証人「荷物や人が倒れて騒然とした様子でした」
検察官「人は何人倒れていましたか」
証人「3人ぐらいです」
検察官「ハッキリとは覚えていませんか」
証人「はい」
検察官「特に記憶に残っている人は?」
証人「制服を着ている人が、倒れている人に駆け寄って介抱していました」
検察官「何の制服だと思いましたか」
証人「警察官だと」
検察官「その警察官に変わったことは起きましたか」
証人「ぱっと倒れました」
検察官「何が起きたと思いましたか」
証人「その時はわからなかったけれど、刺されたのか撃たれたのか。そんなことを考えました」
検察官「供述調書では、(警察官が)拳銃を奪われたと思ったと書いていますね?」
証人「はい。後の行動に影響しています。拳銃を奪われたのではないかと思っていました」
検察官「何が起きたか分かりましたか」
証人「分かりませんでした」
検察官「どうしましたか」
証人「家族に向かって『逃げろ!』と叫びました」
検察官「なぜですか」
証人「拳銃を取ったのではないかと考えたからです」
検察官「周りに倒れている人は?」
証人「倒れている人がいたり、脱げた靴があったり、なかなか前に進めませんでした」
検察官「逃げている中で何か変わったことは」
証人「右の背中に何か当たったと思いました」
検察官「どんな感触でしたか」
証人「体の中に何かが入るという感触です」
検察官「その感触があったときに痛みは?」
証人「感じませんでした」
検察官「感触があってからどんな行動を?」
証人「手を当てて血が出ているのを確認しました」
検察官「どうして血が出ているのがわかりましたか」
証人「手を当てたら、血が出ていました」
証人「何回か(背中に)手を当ててみると、血が噴き出したのを感じ、これはやられたなと思いました」
検察官「その後、どういう経路で逃げましたか」
証人「路地に入っていきました」
検察官「どのようなことを考えましたか」
証人「このまま走っていたら、出血多量で死ぬかなと思いました」
検察官「奥様とお嬢さんはどうしていましたか」
証人「(逃げている途中)娘の姿は見えました」
検察官「お嬢さんに声はかけたのですか」
証人「『やられた』と言いました」
検察官「どこまで逃げたのですか」
証人「このあたりまで行って、倒れ込みました」
《男性は、大型モニターに映し出された現場見取り図を指した。男性が逃げ込んだという路地の西側の突き当たりにあたる場所だ》
検察官「倒れた際、近くに誰か来ましたか」
証人「家内と娘と…。周りの人も助けてくれました」
検察官「奥様には何と言いましたか」
証人「携帯を渡し、『この人たちに連絡してくれ』と言いました」
検察官「なぜですか」
証人「万が一のことを考え、その行動に出たのだと思います」
検察官「死んでしまうかもしれないと思ったのですか」
証人「はい。血が止まらなかったので…」
検察官「このとき、痛みはありましたか」
証人「痛みもありましたし、呼吸も苦しくなっていました」
検察官「ほかにどんなことを考えましたか」
証人「いまやっている仕事とか…家族とか…すべてを考えました」
検察官「娘さんはどうされていたのですか」
証人「これは後で聞きましたが、携帯で救急車を呼んでいました」
検察官「奥様は何をされていたのですか」
証人「血を止めてくれていました。ビニールの袋で傷口をおさえてくれていました」
検察官「周囲には他の人もいたのですか」
証人「はい。『頑張れ』とか、『しっかりしろ』とか…みんな助けてくれました」
検察官「それを聞いてどう思いましたか」
証人「うれしかったです」
検察官「病院ではどのような処置を受けましたか」 証人「レントゲンなどを撮って、止血の応急処置をしてもらいました。病院の名前を聞いたとき、助かるかもしれないと思いました」
検察官「検査などを受ける際に苦労したことはありますか」
証人「待っている間は痛いですね。…本当に痛かったです」
検察官「事件当日の夜に手術を受けたのですか」
証人「はい。ICUに5日間入り、後は一般病棟です」
《証人は6月23日に退院し、7月7日から職場へ復帰したという。検察官に「体調が万全になったと思えた時期は?」と尋ねられると、「8月に入ってからです」と答えた》
検察官「今、傷の状態はどうですか」
証人「外科的に言う完治状態です。今でもつっぱり感があります」
検察官「傷がひきつると何か起きますか」
証人「すべてフラッシュバックします。いま申し上げた内容全部が、です」
検察官「ほかに事件のことを思いだすことはありますか」
証人「トラックがそばを通り過ぎたときや、人ごみに入ったときです」
検察官「被告から手紙が届いたことはありますか」
証人「来ていたようです」
検察官「それは、どういうことでしょうか」
証人「内容を見ていないからです。そのまま警視庁に提出しました」
検察官「差出人は?」
証人「弁護士さんだったと思います」
検察官「中を見たいとは思いませんでしたか」
証人「見ない方がいいと思いました。こういう公正な場に出る前に予備知識をつけたくなかったからです」
検察官「いま、事件について思うことはありますか」
証人「たくさんの方が亡くなられ、その方々に哀悼の意を示したい。被告には反省してもらいたいと心から思います」
証人「報道機関の方々には、家族がこういう目に遭ったらと考えていただき、ちゃんと考えて報道をしてもらいたいです。あまり興味本位で報道はしてほしくありません」
弁護人「今後、手紙を読んでいただけることはあるのでしょうか」
証人「ちゃんと結審したら読ませていただきます」
《ここで証人尋問は終了し、裁判長は約20分間の休廷を告げた》
◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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