森友問題の真相解明を妨げているのは、マスコミではないのか? 本当にやるべきは証人喚問ではないのだ
2017/3/27 現代ビジネス 髙橋 洋一 経済学者 嘉悦大学教授
■「忖度」って何なんだ
先週23日、森友学園問題についての籠池氏の証人喚問が衆参両院の予算委員会で行われた。それに対する、翌24日の新聞各紙の社説は以下の通りである。
・朝日新聞 籠池氏の喚問 昭恵氏の招致が必要だ(http://www.asahi.com/articles/DA3S12856763.html)
・毎日新聞 籠池氏喚問 関係者の説明が必要だ(http://mainichi.jp/articles/20170324/ddm/005/070/030000c)
・読売新聞 籠池氏証人喚問 信憑性を慎重に見極めたい(http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20170323-OYT1T50141.html)
・日経新聞 真相解明にはさらなる国会招致がいる(http://www.nikkei.com/article/DGXKZO14438660U7A320C1EA1000/)
・産経新聞 籠池氏喚問 国有地売却の疑問とけぬ(http://www.sankei.com/column/news/170324/clm1703240002-n1.html)
・東京新聞 籠池氏喚問 昭恵氏は真相を語れ(http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017032402000149.html)
いずれも、真相解明は不十分であり、昭恵夫人の国会招致をせよとまで主張するものばかりだ。こうした論調をみると、マスコミこそ真相解明の邪魔になっていると思ってしまう。
この問題の構造は、①小学校の認可について、②国有地の売却について、③政治関与について、の3点で構成される。籠池氏の最終目標は①小学校認可であるが、それを実現するための流れを考えるなら②国有地売却を急がせるために、③政治家をこの問題に関与させる、となるだろう。そこで、③の政治関与が最大のポイントになる。
一方、安倍首相も、自分や夫人、あるいは事務所が①か②に影響が出るような政治関与を行っていた場合は、国会議員をやめるとまで言った。
そこで、野党は、③政治関与について、「関与」の意味を拡大解釈してまでも追及するため、政治闘争を仕掛けている。籠池氏の証人喚問で指摘され、政府が公表した昭恵夫人付き官僚のファックスを指して「政治関与」の物証だといっている。
この中でマスコミは、真相解明をせよといいながら、最近「忖度」という言葉によって森友学園事件を説明しようとしている。「忖度」という言葉は普通使わない。広辞苑によると「他人の心中をおしはかること。推察。」である。筆者の年代でも使わず、70~80歳代で使う人が出てくる程度だろう。
森友学園の問題を収束させるには、まず、「関与」の有無をハッキリさせたほうがいい。もともと今回の一件は、政治家が関与して、行政府の行政判断に悪影響を与えた場合は問題である、という意識からでている。この典型例のケースは、贈収賄である。
しかし、今回の場合、そうした違法性を感じる話は全くない。ところがいつの間にか「関与」の意味が広がっており、昭恵夫人の寄付が事実であれば問題という話になっている。寄付にはそもそも贈収賄などの違法性はない。安倍首相のこれまでの発言から、政治責任があるだけだ。
■あの「ファックス議論」への違和感
ただ、この昭恵夫人の寄付という話自体にも、信憑性はないと筆者は思っている。籠池氏は国会で、昭恵夫人が人払いして、二人きりのときに100万円を籠池氏に寄付したと話した。しかし、随行者は公務員として随行しているが、これは実は昭恵夫人の監視役なので、席をはずすというのはまず考えられない。
一般の人は、随行公務員が政治家の秘書と同じで、昭恵夫人のしもべのように働くと勘違いする。しかし、筆者の経験を踏まえて言えば、要人に各省から派遣された随行公務員は、監視役であり、指揮命令は各省人事課が持っている。
もちろん要人の指揮命令にも従うが、要人監視はキモであるため、席を外せないと要人には事前了解を求めている。このため、昭恵夫人が随行者に対して席を外せとは言えないし、仮に言われても仕事なので外せないと随行公務員は言うはずである。昭恵夫人の説明も、筆者の見立てと同じである(https://www.facebook.com/akieabe/posts/10155122586026779)。
また、夫人に10万円の講師料を払ったという籠池氏の証言もあやしい。さらに、証言直前に発売された週刊文春の「籠池告白」記事によれば、車で出た後に夫人から電話で「寄付金は匿名に」と言われた、という。帰りの車の中での携帯電話の会話だ。車の中であれば、随行公務員が会話内容を聞いているはずだ。
このように籠池氏の証言の信憑性には疑問がある。国会でも、公明党の竹谷とし子氏が、寄付について、お礼状やメールなどをしたか、寄付金が入っていた封筒を残したかという質問をしたが、礼状も出さず封筒も残していいないと籠池氏は返答した。寄付金を受領した証拠を籠池氏は一切示せなかった。寄付金では籠池氏側に挙証責任があるので、これで籠池氏の信憑性はないと判断していいだろう。
そこで、夫人付き官僚が送ったファックスであるが、野党は「関与」というが、これも元官僚の筆者からみれば、普通の公務員回答であり、問題は見えない。
まず、本件のファックスについて、籠池証言では、自分の昭恵夫人への留守電への回答のように扱われていたが、実際には留守電の後、籠池氏側が夫人付き官僚にあてた「陳情書」への回答である。
公務員が民間人からの陳情に答えるのかという素朴な疑問があるだろう。これは結構多い。部署にもよるが、予算部署にいると、年末の予算時期には段ボール箱いっぱいくらいの陳情書を受け取る。民間人が政治家を連れて陳情に来ることもある。
筆者は30年前以上昔、20代の時に税務署長をやっていた。そのときですら、実際の課税処分について納税者から陳情を受け、政治家が同伴して来署されたこともある。もちろん、便宜はできないとゼロ回答し、不服があれば不服審査を申し出てくれといった。
本件のファックスでも、同じように即答できるものであったので、ゼロ回答したのだろう。この場合、関係部署に問い合わせるか、関係部署に回してそこから回答するかかはケースバイケースであり、どちらでもいい。
共産党は、回答の中に年度予算の内容があると問題視しているが、立て替え費用なので予算化は普通であるので、問題ない。陳情であるが、判断を要することでないので、機械的に回答しているものだ。
■真相解明は必要。だが、手段が違う
要するに、これは行政の意思決定に介入するものではなく、今の制度に当てはめて回答できるものを機械的に回答しているにすぎない。いわゆる役所の回答である。この程度であれば、民主党政権の時にでも、似たような回答書が出てきても不思議ではない。
以上の通り、政治家が関与して行政府の行政判断に悪影響を与えるような「政治関与」はない。
なお、昭恵夫人と籠池夫人の間のメールも公開されてるが、一部のマスコミはその全文を掲載していない。実は、そのメールの中に、辻元清美議員に言及した部分があり、その部分について民進党から「事実でない」という抗議があったので、それに配慮したものだろう。であれば、100万円寄付の籠池証言は事実として報道し、辻元議員では事実ではないから報道しない、というマスコミの報道姿勢に問題はないのか。
そこで、最近「忖度」という用語が出てきている。これは「政治関与」がなくても、財務省が「忖度」して特別の便宜を図ったという論法だ。
残念ながら、この「忖度」は筆者には理解不能な言葉だ。いうなれば「片思い」である。まず財務省の担当者は誰の気持ちを「忖度」するのか。マスコミは安倍首相を「忖度」しているというが、安倍首相自らもわからない「忖度」であるなら、意味はない。本当の「片思い」だろう。
これが本当かどうかは、財務省担当者の内面しかわからない。件のファックスには財務省担当者の氏名も書かれているのだから、マスコミは是非突撃取材をしたらいい。その気は満々であるが、雲隠れして捕まらないのかもしれない。誰でもマスコミの取材スクラムにあうと当惑するものなので、雲隠れする気持ちは理解できる。そうであれば、国会に参考人招致でもすればいい。
筆者は、財務省の担当者の「忖度」の可能性を全面的に否定するわけでないが、そのほかの可能性と比較して高いとも思っていない。もし政治関与がなければ、国有地売却は財務省の重大ミスである。その場合、①担当者の「忖度」、②単純な事務ミス、③官僚のくせに財務省担当者が「政治家」のような行動を採った、④「忖度」どころか財務省が安倍政権を倒閣するための罠、といったところが考えられる。
②については、森友学園の隣接地を豊中市に売った民主政権時代の経緯がポイントである。結構値引きしているが、これも随契であった。もっとも地方自治体への売却なのでそれなりの正当性はあるが、本件の場合には民間事業者であり、競合者もあるので、競争入札にすべきだった。これを怠ったので、その後次々と財務省のミスが重なったというストーリーだ。
③や④については、財務省の高官をこってりと絞れば解明できるかもしれない。
筆者は、新聞各紙のように真相解明は必要だと思っているが、国会では真相解明には限界があるという立場だ。そもそも政治関与がないのならば、国会の役目は終わりで、後は捜査機関、司法の場で行えばいい。そのために、籠池証言を検証し、偽証罪で告発するのが最善だろう。
■「国策捜査」ではない
この意見には否定的なものもある。議院証言法による偽証罪での告発には、喚問を行った委員会での「3分の2以上の多数」が必要というハードルがあるからだ。衆参両院の予算委員会のうち、衆院予算委は与党だけで3分の2以上を満たしているが、参議院はそうでない。
野党が籠池証言を政争に利用し、昭恵夫人の証人喚問を要求しているのは、籠池証言の偽証罪での告発を防ぐ意味もある。
しかし、偽証罪の対象は国会の告発のみに限らないと思う。刑事訴訟法では「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない」(239条2項)とされており、官房長官が「寄付は事実でない」といっている以上、昭恵夫人の随行公務員には告発義務が生じてしまう。随行公務員は、人払いをされたかどうかを知っているはずで、籠池証言がウソであるかどうかを知っているはずだからだ。
もし籠池証言が正しければ、随行公務員は離席してとして職務怠慢で処分を受けるかもしれない。それを防止する意味でも、随行員が籠池氏を告発しても不思議ではない。
この100万円の寄付についてでなくても、安倍首相の名をかたった募集期間は「ほんの一瞬」と籠池氏は証言したが、安倍首相は「2年以上使っていた」と国会で証言している。これで告発してもおかしくない。
こうした告発をすると、マスコミは「国策捜査」というレッテルを張るだろうが、そのほうが真相解明の近道である。偽証罪で告発されて捜査になれば、昭恵夫人、夫人付き官僚や財務省担当者も事情を聴取され、真実が明らかになるだろう。国会で、いくら関係者の言い分を聞いても、埒があかないだろう。
いずれにしても、「忖度」という曖昧なモノで、政治家を批判するのはお門違いである。片思いなのに、好かれたほうに問題があるとなれば、どのような魔女狩りも可能になってしまう。
特に本件は、3月13日付けの本コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51201)で指摘しているように、官僚の裁量が大きいことが最大の問題だ。それなのに、官僚裁量と官僚「忖度」が加わると、酷いことになってしまう。
官僚が法律で許されている以上の裁量で行政庁判断を行うというのは、立法府の枠外になる。法律でいくら縛っても官僚への縛りがない中、官僚が「特定政治家の意向を忖度して裁量行政をやった」といえば、特定政治家を抹殺できるからだ。しかも、これも官僚裁量で記録を保存しなくてもいいとなれば、抹殺は「完全犯罪」になる。
あるテレビ番組は、安倍首相は財務省の忖度がなかったことを証明すべきと言ったが、これは「悪魔の証明」であり、無理である。
本件では一般からの告発は既にあるわけだし、大阪府は偽計業務妨害、補助金適性化法違反で籠池氏を告発をするだろう。もう国会での追及は終わりにして、政府も籠池氏の偽証告発をして、捜査当局や司法の場に移したほうがいい。先週の本コラムで指摘した、北朝鮮に関する重大問題もあるのだから。
◎上記事は[現代ビジネス]からの転載・引用です
安倍昭恵 3月23日 5:23 ·
本日の国会における籠池さんの証言に関して、私からコメントさせていただきます。
①寄付金と講演料について
私は、籠池さんに100万円の寄付金をお渡ししたことも、講演料を頂いたこともありません。この点について、籠池夫人と今年2月から何度もメールのやりとりをさせていただきましたが、寄付金があったですとか、講演料を受け取ったというご指摘はありませんでした。私からも、その旨の記憶がないことをはっきりとお伝えしております。
本日、籠池さんは、平成27年9月5日に塚本幼稚園を訪問した際、私が、秘書に「席を外すように言った」とおっしゃいました。しかしながら、私は、講演などの際に、秘書に席を外してほしいというようなことは言いませんし、そのようなことは行いません。この日も、そのようなことを行っていない旨、秘書2名にも確認しました。
また、「講演の控室として利用していた園長室」とのお話がありましたが、その控室は「玉座の間」であったと思います。内装がとても特徴的でしたので、控室としてこの部屋を利用させていただいたことは、秘書も記憶しており、事実と異なります。
②携帯への電話について
次に、籠池さんから、定期借地契約について何らか、私の「携帯へ電話」をいただき、「留守電だったのでメッセージを残した」とのお話がありました。籠池さんから何度か短いメッセージをいただいた記憶はありますが、土地の契約に関して、10年かどうかといった具体的な内容については、まったくお聞きしていません。
籠池さん側から、秘書に対して書面でお問い合わせいただいた件については、それについて回答する旨、当該秘書から報告をもらったことは覚えています。その時、籠池さん側に対し、要望に「沿うことはできない」と、お断りの回答をする内容であったと記憶しています。その内容について、私は関与しておりません。
以上、コメントさせて頂きます。
平成29年3月23日
安倍 昭恵