裁判員制度導入によって、日本は世界(EU、国連)に誇示する死刑制度存置の強力なカードを手に入れた

2009-08-13 | 裁判員裁判/被害者参加/強制起訴

 うかうかと裁判員となり、その「義務」を遂行した人たちによって判決が下され、判決を不服として被告人本人が控訴した。懲役15年を宣告された72歳の被告人である。
 せっかくの控訴だが、2審は1審判決を尊重するよう最高裁から推奨されている。また、上訴自体、被告人に失点となるだろう。上訴すらも、改悛の情が薄いと受け止める国民性である。
 本来、第三者が客観的理性的に被告人の生い立ちや事件の因ってくるところを精密に解明し(精密司法)、一人の人が如何にしたら人間らしい姿を回復できるのか、私たちの住むこの社会が良くなっていくのかを追究するのが法廷であった。それが、裁判員参加によって公判前手続という核心司法を余儀なくされ、真相解明は疎かになった。教訓的な何ものも、もたらさない場となった。
 そして懸念されるのは、被害者参加とも相俟って、法廷が感情横溢した報復の場に変容してしまったのではないか、ということである。被害者の峻烈な感情に呑み込まれない人は、いないのではないだろうか。
 安田弁護士は次のように言う。

http://blog.goo.ne.jp/kanayame_47/e/784d80d439399083cea42223d837481b
“ 裁判員裁判を考える時に、裁く側ではなくて裁かれる側から裁判員裁判をもう一遍捉えてみる必要があると思うんです。被告人にとって裁判員というのは同僚ですね。同僚の前に引きずり出されるわけです。同僚の目で弾劾されるわけです。さらにそこには被害者遺族ないし被害者がいるわけです。そして、被害者遺族、被害者から鋭い目で見られるだけでなく、激しい質問を受けるわけです。そして、被害者遺族から要求つまり刑を突きつけられるわけです。被告人にとっては裁判は大変厳しい場、拷問の場にならざるを得ないわけです。法廷では、おそらく被告人は弁解することもできなくなるだろうと思います。弁解をしようものなら、被害者から厳しい反対尋問を受けるわけです。そして、さらにもっと厳しいことが起こると思います。被害者遺族は、情状証人に対しても尋問できますから、情状証人はおそらく法廷に出てきてくれないだろうと思うんです。ですから、結局被告人は自分一人だけでなおかつ沈黙したままで裁判を迎える。1日や3日で裁判が終わるわけですから、被告人にとって裁判を理解する前に裁判は終わってしまうんだろうと思います。まさに裁判は被告人にとって悪夢であるわけです。おそらく1審でほとんどの被告人は、上訴するつまり控訴することをしなくなるだろうと思います。裁判そのものに絶望し、裁判という苦痛から何としても免れるということになるのではないかと思うわけです。”
“ 司法、裁判というのは、いわば統治の中枢であるわけですから、そこに市民が参加していく、その市民が市民を断罪するわけですね、同僚を。そして刑罰を決めるということですから、国家権力の重要な部分、例えば死刑を前提とすると、人を殺すという国家命令を出すという役割を市民が担うことになるわけです。その中身というのは、確かに手で人は殺しませんけれど、死刑判決というのは行政府に対する殺人命令ですから、いわゆる銃の引き金を引くということになるわけです。
 今までは、裁判官というのは応募制でしたから募兵制だったんです。しかも裁判官は何時でも辞めることができるわけです。ところが来年から始まる裁判員というのは、これは拒否権がありませんし、途中で辞めることも認められていません。つまり皆兵制・徴兵制になるわけです。被告人を死刑にしたり懲役にするわけですから、つまるところ、相手を殺し、相手を監禁し、相手に苦役を課すことですから、外国の兵士を殺害し、あるいは捕まえてきて、そして収容所に入れて就役させるということ。これは、軍隊がやることと実質的に同じなわけです。”

 裁判員制度導入によって、国は世界(EU、国連)に対し、死刑制度存置誇示の強力なカードを手に入れた。死刑判決は、国民(裁判員)自らが直接選び取り、下したものであるから、これまで以上に「死刑制度は国民が支持しています」と言える。圧倒的な処罰感情、厳罰願望により、今後、夥しい死刑判決、重刑が生み出されるだろう。
 裁判員の方々、そして被害者(遺族)の方々に、考えて戴きたい。「殺されたなら、いのち(死刑)で償わせたい」との感情が、負(暴力)の連鎖を増大させ、殺伐として救いようのない国家を形成することになるのではないか、と。世界に稀にみる殺し合いの国家となるのではないか、と。
 「日本はキリスト教国ではない」との意見も当然囁かれると思うけれど、ここまで閉塞したこの国で聖書の1頁を紐解いてみることが何かのヒントにならないだろうか。

 “目には目を、歯には歯をと命じられている。しかし、わたしは云っておく。悪人に手向かってはならない。だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい。あなたを訴えて下着を取ろうとする者には、上着をも取らせなさい。(略)求める者には与えなさい。あなたがたも聞いているとおり、「隣人を愛し、敵を憎め」と命じられている。しかし、わたしは云っておく。敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい。あなたがたの天の父の子となるためである。父は悪人にも善人にも太陽を昇らせ、正しい者にも正しくない者にも雨を降らせてくださるからである。自分を愛してくれる人を愛したところで、あなたがたにどんな報いがあろうか。(略)あなたがたの天の父が完全であるように、あなたがたも完全な者となりなさい”(マタイによる福音書5.38~)

 罪を犯さないでは生きてゆけない不完全な人間存在。そういう人間に対して、正しい者にも正しくない者にも太陽を昇らせ雨を降らせてくださるお天道様は、憎むべき敵を愛することで「完全な」者となれる、と言う。
 世界に死刑制度存置を誇る国ではなく、また、徴兵制によって国民が国民を殺す国ではなく、赦す国になれないものだろうか。

http://www.k4.dion.ne.jp/~yuko-k/kiyotaka/kenen-kadai.htm
http://www.k4.dion.ne.jp/~yuko-k/kiyotaka/amish.htm


2 コメント

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公開されていない (ゆうこ)
2009-08-15 10:57:42
円さん。コメント、ありがとう。
>裁判員はどうやって
 それなんです。私はうっかり、クジと思い込んでましたが、先日愚息が「怪しいもんだよ。だって、ドラフトだって、巨人が4番やエース級を必ず獲るじゃない。あれだって、ほんとうにフェアにやってるかどうか」。そう言えば、裁判員のクジの現場を公開したわけじゃないもんな、と。「魚の目」が、面白いことを言っていました。↓

佐藤:私は、ひとつの制度が始まるまでは、潰せる可能性をいろいろ探して暴れ回るんですけど、もともと役人ですから、いったん制度が動き出したらなかなか止まらないことはよくわかっています。ですから、裁判員制度にしても、次に何か大きな事件事故が起きるまで、さてどうしたらいいかと思っているところです。ところで、安田さん、裁判で係争中の私のところに裁判員の通知は、来ませんよね。
安田:原則として選挙権があれば誰でも来ますが、禁固刑以上の刑に当たる罪で起訴されている人は裁判員になれませんから、佐藤さんはこれにひっかかります。
佐藤:でも、有罪が確定しても選挙権あるじゃないですか。
安田:執行猶予であれば、選挙権はありますから、確定すれば裁判員になれます。
佐藤:じゃあ、裁判員の通知が来るのを心待ちにします。来たら毎回、手続き上のところで暴れて、それをどんどん外に公開して、捕まえるんだったら、もう1回捕まえろと。こういう感じでやっていくということを最初から宣言しておきます。こういうのが面白いと思いますね。
安田:そんなこと宣言してると、最初から外されちゃいますよ。
宮崎:そんな恣意的なことしていいんですか。裁判員は選挙人名簿をもとに抽選で選ぶわけでしょ。
安田:でも、誰を選ぶか公開でやるわけじゃないでしょ。公正にやっているというけど、どこからも見えない。選挙の開票では、選挙管理員が立ち会って集計しているのに、裁判員を選ぶときには、誰か第三者が立ち会っているのか? 誰も立ち合ってないんです。
佐藤:まず、そのあたりの手続き的なところから衝いてくのはどうでしょうかね。まず安田さんが、私は裁判員から漏れたと、訴訟を起こす。制度発足から間もないうちに裁判員になって、これをネタにして大騒ぎして仕事をしようと思ったのに漏れた。公正な選出をしているのか、と。どうして俺をならせないんだと。
安田:そもそも、弁護士はなれないんですよ。弁護士を裁判員にならせない理由としては、市民感覚を裁判に持ち込むという大義名分があるわけです。弁護士が入ると市民感覚を持ち込んだことにならないというわけす。
佐藤:じゃあ、法学部の教授はダメなんですか?
安田:大学の法学部の教授、准教授はなれないことになっています。
http://uonome.jp/article/satoh/524

それにしても「市民感覚」。どれほどのもんじゃい。
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TBありがとうございました ()
2009-08-15 08:21:56
トラックバックありがとうございました。
裁判員はどうやって選ぶのでしょうか。
記者会見で、「責任を果たしたという充足感と安堵感をたたえた表情」で「いい経験だった」と感想を述べるような、そういうやる気満々というか、いささか脳天気な人たちを選んでいるような気がします。
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