<正義のかたち・死刑>重い選択6 判決後に覆る目撃証言

2009-10-17 | 死刑/重刑/生命犯

正義のかたち:重い選択・日米の現場から/6 判決後に覆る目撃証言
 ◇「証拠疑う目」に限界
 米中西部ネブラスカ州ビアトリスで85年2月、女性(当時68歳)の遺体が見つかった。レイプして刺したうえ、絞殺するという残虐な犯行に田舎町は震撼(しんかん)する。4年後、警察はアラバマ州のジョセフ・ホワイトさん(46)を暴行殺人容疑で逮捕した。別の事件で逮捕された男による目撃証言が決め手だった。
 ホワイトさんは取り調べで「認めないなら電気椅子に座らせる」と脅されたが、逮捕から公判を通じ一貫して否認した。真実は明らかになると信じていた。しかし89年11月、陪審員は有罪評決を出し、裁判官は終身刑を言い渡した。
 陪審員が有罪とした理由を、ホワイトさんはこう考える。発生以降、地元メディアが事件を詳報し、陪審員に犯人を憎む気持ちが強かった。さらに、公判で現場の陰惨な写真をみせられ、真犯人かどうかの判断より、目の前の被告を憎む感情を強めた--。
 ホワイトさんは刑務所で働いてためた5万ドル(約450万円)で新しい弁護士を雇った。ネブラスカ州には、過去の事件でもDNA鑑定を認める州法がある。鑑定を申請し、現場の遺留物から犯人は別人(92年に死亡)だったと07年に判明する。目撃者は、捜査に協力して自分の罪を軽くしてもらおうと、知人のホワイトさんを犯人に仕立てたのだ。
 08年11月、19年ぶりに自由の身となった。ホワイトさんは振り返る。「警察も検察も『認めろ』というばかりで話を聞かず、私を有罪にするための機械でしかなかった。(当初の)弁護士も私を信じず、陪審員が冷静に判断することはできなかった」
    ■
 米南部ジョージア州に、冤罪(えんざい)の可能性が指摘される死刑囚がいる。89年8月に起きた警官射殺事件。同州には公的弁護制度がなく、トロイ・デービス死刑囚(41)は弁護士もいないまま被告席に座った。起訴の決め手は9人の目撃証言。陪審員は91年、2時間の評議で有罪と評決。裁判官が死刑を言い渡した。
 その後、支援団体の調査などで、当時の現場は暗く犯行の目撃は難しいことが分かり、7人の目撃者が次々と証言を覆した。地元メディアに対し09年、当時の陪審員2人が「知らされていない事実が多い。検察は私たちに十分な情報を提示しなかった」と評決を悔やむ発言をした。
 デービス死刑囚には過去3回、執行日が設定された。しかし、ローマ法王庁やカーター元大統領らが判決に矛盾が多いことを指摘し、執行に反対。延期された。8月には連邦最高裁が「無実の者に執行する疑いがある」として、公判のやり直しを命じた。
 「警察、検察が思い込んだ時、陪審や裁判官がそれに疑いをはさむことはできない」と姉のマルチナ・コレアさん(42)は語った。
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 日本でも10月21日、足利事件(90年)で無期懲役が確定した菅家利和さん(63)の再審公判が始まる。今年行われたDNA再鑑定で、殺害された女児の着衣の遺留物と菅家さんのDNA型が一致しなかった。
 市民団体が10日、誤判をテーマに東京都内で開いた集会で、主任弁護人の佐藤博史弁護士は訴えた。「DNA鑑定を取り除いてみると、菅家さんの自白には数々の疑問があるが、それが(DNA鑑定への過信で)見えなくなってしまった」【松本光央、バーミングハム(米アラバマ州)などで小倉孝保】=つづく
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毎日新聞 2009年10月17日 東京朝刊

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