平成26年版防衛白書 集団的自衛権容認の意義強調 中国軍の「輿論戦」警戒 防衛装備移転三原則

2014-08-05 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉

防衛白書 集団的自衛権容認の意義強調
 NHK NEWS WEB 8月5日 11時39分 
 ことしの防衛白書が閣議で報告され、海洋進出を強める中国の動向や北朝鮮の弾道ミサイル開発に強い懸念を示したうえで、安倍政権が集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行ったことは「歴史的な重要性を持つものだ」と意義を強調しています。
 防衛白書は、日本を取り巻く安全保障環境について「さまざまな課題や不安定要因がより顕在化・先鋭化してきており、一層厳しさを増している」としています。
 具体的には、中国について「東シナ海や南シナ海をはじめとする海空域などで活動を急速に拡大・活発化させている」と指摘し、「力を背景とした現状変更の試みなど、高圧的とも言える対応を示している」と批判しています。
 さらに、中国が去年11月、東シナ海の広い範囲に防空識別圏を設定したことは「現状を一方的に変更し、事態をエスカレートさせ、不測の事態を招きかねない非常に危険なものだ」として、「強く懸念している」としています。
 また北朝鮮が相次いで弾道ミサイルを発射したことを取り上げ、「北朝鮮が仮に弾道ミサイルの長射程化や核兵器の小型化・弾頭化を実現し、アメリカに対する戦略的抑止力を確保したと過信・誤認をした場合、軍事的挑発行為の増加や重大化につながる可能性もある」と強い懸念を示しています。
 防衛白書はそのうえで、安倍政権がこれまでの憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行ったことを紹介し、「日本の平和と安全を一層確かなものにしていくうえで歴史的な重要性を持つものだ」と意義を強調しています。
 小野寺防衛大臣は閣議のあとの記者会見で、「東シナ海を巡る問題や北朝鮮のミサイル発射などがこの1年間に起きているなか、どのように日本の安全を守っていくのかという内容を記述した。中国については、一方的に防空識別圏を設定し日本だけでなく国際社会が懸念を有していることを淡々と記述している」と述べました。
 そのうえで小野寺大臣は「中国とは、日中両国の防衛当局者が緊急時に連絡を取り合う『海洋連絡メカニズム』の運用開始を含む不測の事態を避けるための対話の努力をする必要がある。北朝鮮については、拉致問題や核、それにミサイル開発の解決に向けた日米韓3か国の連携が重要だ」と述べました。
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2014年版防衛白書の詳報
 大阪日日新聞 2014年8月5日 11:40
 2014年版防衛白書の詳報は次の通り。
【安全保障環境】
 ▽国際社会の動向
 日本を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増している。領土や主権、経済権益などをめぐる純然たる平時でも有事でもないグレーゾーン事態が増加する傾向にある。日本周辺を含むアジア太平洋地域における安全保障上の課題や不安定要因はより深刻化している。一国のみでは対応が困難だ。
【北朝鮮】
 ▽核・ミサイル開発
 北朝鮮は体制を維持する上で不可欠な抑止力として核兵器開発を推進している。弾道ミサイルの性能や信頼性に自信を深めている。軍事能力強化や外交的観点から弾道ミサイル開発に高い優先度を与えている。日本に対する攻撃などの挑発的言動とあいまって、日本の安全に対する重大かつ差し迫った脅威となっている。米国に対する戦略的抑止力を確保したと過信・誤認をした場合、地域における軍事的挑発行為の増加、重大化につながる可能性もあり、強く懸念すべき状況となり得る。
 ▽内政
 金正恩第1書記の叔父にあたる張成沢国防委員会副委員長処刑の影響による忠誠心競争の激化などによって、北朝鮮が安易に軍事的挑発行動に走る可能性も生じつつあり、不確実性が増したとも考えられる。
【中国】
 ▽全般情勢
 東シナ海や南シナ海をはじめとする海空域で活動を急速に拡大、活発化させている。特に海洋における利害が対立する問題をめぐり、力を背景とした現状変更の試みなど、高圧的とも言える対応を示している。地域、国際社会の安全保障上も懸念される。中国初の国産空母の建造を進めている。
 ▽国防費
 過去26年間で約40倍、過去10年間で約4倍。国防費として公表している額は実際に軍事目的に支出している額の一部にすぎない。
 ▽防空識別圏
 東シナ海の現状を一方的に変更し、事態をエスカレートさせ、不測の事態を招きかねない非常に危険なもので強く懸念している。
【ロシア】
 ▽クリミア編入
 力を背景とした現状変更はアジアなどにも影響を及ぼすグローバルな問題。
 ▽軍事活動
 日本周辺で軍改革の成果の検証を目的としたとみられる演習を含め、ロシア軍の活動が活発化している。太平洋艦隊の海軍歩兵が冷戦終結後初めて千島列島(クリール諸島)で上陸訓練を実施した。
【軍事技術の動向】
 ▽ハイテク
 先進諸国は無人化技術やステルス技術などの研究開発を重視している。
【安全保障政策】
 ▽武力行使3要件
 14年7月1日の閣議決定で、日本に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある場合に、必要最小限度の実力行使は憲法9条の下の自衛の措置として許されるとされた。抑止力の向上と地域、国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献することを通じて、日本の平和と安全を一層確かにしていく上で、歴史的な重要性を持つ。
 ▽国家安全保障戦略
 「国防の基本方針」に代わるものとして13年12月に初めて策定。長期的視点から国益を見定め、日本がとるべきアプローチを導き出した。
 ▽新防衛大綱・中期防衛力整備計画(中期防)
 機動展開能力の整備を重視した「統合機動防衛力」を構築する。離島への侵攻があった場合に速やかに上陸、奪回するための水陸両用作戦能力を整備する。新型輸送機オスプレイ17機、無人偵察機3機などを導入。
【領土・領海を守る態勢】
 ▽緊急発進
 13年度の航空自衛隊機による緊急発進(スクランブル)は前年度比243回増の810回で、1989年度以来24年ぶりに800回を超えた。冷戦期に匹敵。中国機とロシア機への発進が95%超。中国機に対する回数がロシア機を上回った。
 ▽離島防衛
 「水陸機動団」を18年度までに新編する。着上陸部隊、海上から直接上陸できる水陸両用車の運用部隊、火砲により上陸を支援する部隊などから構成し、3千人規模の離島防衛専門部隊とする。
 ▽サイバー防衛隊
 サイバー攻撃に対応するため14年3月に新編した。サイバー攻撃の兆候を早期に察知し、未然に防止する情報収集装置などを整備する。
【日米安保体制】
 ▽日米同盟
 アジア太平洋地域での米軍のプレゼンス(存在)は非常に重要。在日米軍は不測の事態に対する抑止力として機能している。同盟強化はこれまで以上に重要になっている。
 ▽日米防衛協力指針(ガイドライン)
 周辺国の軍事活動の活発化や国際テロ組織など新たな脅威に対応するため、13年10月の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)でガイドラインの見直し作業を14年末までに完了させることで合意した。
 ▽オスプレイ
 オスプレイの米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)への配備によって、在日米軍全体の抑止力が強化され、地域の平和と安定に大きく寄与する。災害発生時にも優れた能力を発揮することが期待される。
 ▽米軍再編
 普天間飛行場の県内移設に向けて事業を着実に進めている。KC130空中給油機を岩国飛行場に移駐。
【防衛力の能力発揮のための基盤】
 ▽防衛装備移転三原則
 従来は武器輸出三原則によって慎重に対処してきたが、14年4月に閣議決定した防衛装備移転三原則の下で、これまで以上に平和貢献に寄与していくとともに、同盟国・米国や関係国との防衛装備・技術協力をより積極的に進める。
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中国軍の「輿論戦」警戒 新型潜水艦ミサイル「核戦力向上」 防衛白書
 産経ニュース 2014.8.5 12:07 
 小野寺五典(いつのり)防衛相は5日の閣議で平成26年版防衛白書を報告し、了承された。中国が昨年11月に海空軍など7部門に報道官を新設して軍の動向を情報発信していることに関し、「軍事力の透明性向上に資する動きとも考えられる一方、『輿(よ)論戦』強化の動きとも考えられる」と指摘し、国内外の世論に影響を及ぼし支持を得ようとする中国軍の情報戦に警戒感を示した。また、集団的自衛権行使を容認する閣議決定について「歴史的」と評価した。
 安倍政権が武器禁輸政策を撤廃して打ち出した防衛装備移転三原則などを紹介し、安全保障政策の転換を明記した。
 白書は今年5、6月の中国軍機による自衛隊機への異常接近事案について「中国国防部は日本側が『危険な行為を行った』などと事実に反する説明を行っている」と中国を批判した。中国が昨年11月に東シナ海上空に一方的に設定した防空識別圏についても「現状を一方的に変更し、事態をエスカレートさせ、不測の事態を招きかねない非常に危険なものだ」と指摘した。
 中国の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)については「射程約8000キロとみられる新型のJL2の開発が行われている」と記述。その上で「JL2を搭載するための原子力潜水艦(SSBN)の建造および就役が行われている。JL2が実用化に至れば中国の戦略核戦力は大幅に向上する」と分析した。
 北朝鮮情勢をめぐっては、今年3月の中距離弾道ミサイル「ノドン」の発射について「北朝鮮西岸から東に向けて朝鮮半島を横断する形で発射され、弾道ミサイルの性能や信頼性に自信を深めている」と指摘した。今年になって発射が相次いでいる短距離弾道ミサイルに関しては「射程を延長したスカッドERを配備しているとみられる。射程は1000キロに達するとみられ、わが国の一部が射程に入る可能性がある」と警戒を示した。
 さらに、北朝鮮が弾道ミサイルの長距離化や核兵器の小型化・弾道化を同時に実現することを想定し、「米国に対する戦略的抑止力を確保したとの認識を一方的に持つ可能性がある。北朝鮮が過信すれば、軍事的挑発行為の増加・重大化につながる可能性もある」と憂慮した。
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◇ 防衛装備移転三原則(武器輸出)変更で積極輸出へ 武器国際展示会「ユーロサトリ」に日本企業13社 2014-06-12 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉 
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“平和に寄与する”武器輸出認める新原則決定 2014-04-02 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉 
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 『自立する国家へ!』田母神俊雄×天木直人 2013-04-29 |  
 (抜粋)
第二部
p101~
■「専守防衛」は自主防衛とはいえない
 日本人に反省と謝罪を促した日本国憲法のもう1つの弱点は、「軍を持たない」と宣言したことにあった。これによって日本は、自衛隊という外国から見れば紛れもない軍ができた後も、その言い訳のように自衛隊は武器の使用を極度に制限された。原則的に、相手から攻撃されるまでは武器を使用できないことになったのである。p102~
 しかも、そうした歪んだ自衛隊の形を、戦後の左翼教育によって日本の一定数の世論が良しとしていたこと、それから、長く続いた自民党政権時代でも、常に野党第1党の座にあった社会党などが自衛隊を違憲と断定していたこともあって、自衛隊をまともな形に正すことはできなかったのである。
 その間の1970年代には、当時の中曽根防衛庁長官が防衛白書の中で「専守防衛」といったあたりからこの言葉が一人歩きを始める。そして、日本が攻撃のための武器を持つことさえいけないことであるかのような風潮さえ生まれた。
 そして、アメリカはそうした風潮に乗って「攻撃はアメリカに任せておけ」とばかりに日本にもっぱら防御システムを莫大な金で買わせるようになり、攻撃面はすっかりアメリカ依存になってしまったのである。
 評論家などの中にも、「それでいいではないか」という人がいるが、それは軍事力とは何かを知らないもの言いである。
 軍事力というものは、攻撃と防御がバランスよくセットになってはじめて軍事力なのである。外国から見たら防御一辺倒の軍事力など怖さはない。いくら最新鋭の防御システム(ペトリオット・ミサイルなど)を備えていようとも、「あの国は守りは強いが攻めは弱い」と認識したら、その国に怖さを感じるだろうか。
p102~
 軍事的な怖さがないということは、抑止力が働かないということに等しい。つまりは危険性が増すわけだ。そういう意味で、「実際に戦ったら恐い」とどれほど相手に思わせることができるかが、その国の軍事力であり、安全保障力であるといえるのである。
p104~
■自主防衛への道に日米共同開発が立ちはだかった
 戦前の日本は世界が驚くようなゼロファイター=零戦や多くの戦艦をつくった国であったから、戦後になっても武器・兵器を自前で製造する技術は保持していた。しかし戦後はGHQの統制下に置かれ、軍事力を保有することはできず、当然、武器を自前で開発、製造することは禁じられた。
p105~
  しかし朝鮮戦争の勃発によりアメリカは日本の再軍備の必要性に迫られ、我が国は警察予備隊の発足により再軍備を始めることになった。そのとき武器の多くをアメリカから買わされることになった。
  しかし当時は我国の政治家も官僚も一人前の独立国になることを目指していたから、日本は武器を自前で開発、製造しなければならないと考えていたのである。(略)
 しかし、1980年代半ばの中曽根総理の時代になって、国産化への道が突如として塞がれる。私が航空幕僚監部の防衛課にいた時代である。
 その頃、F1で培った日本の技術はかなりのレベルに達しており、F1の後継機としてF2の開発も国産体制でやろうとしていた。エンジンだけアメリカから買ってきて機体は日本でつくるという、F1同様の体制である。(p106~)こうした日本の体制に対し、アメリカは横槍を入れてきたのだ。
  「F2は日米共同開発でやろうじゃないか」
  アメリカは日本政府に申し入れ、これを受け入れ、鶴の一声を発したのがロン・ヤス関係といわれ、アメリカべったりだった当時の中曽根総理であった。続く竹下総理がこれを引き継ぎ、1988年、日米共同開発が決まったのである。
  アメリカの意図は、日本に自前の武器・兵器をつくらせないことが一点、そしてもう一点は、日本の軍事技術をいただくことであった。
  当時の日本の技術力はかなり高いレベルにあった。
p107~
■アメリカの戦略は「日本を自立させない」こと
 湾岸戦争(1991年)のときに話題となったのが、レーダーに掛からない性能を持つという「ステルス戦闘機」であったのを覚えている人は多いだろう。
p108~
  実はあれにも日本の技術が使われていた。宇部興産がつくったチラノ繊維という合成繊維で、レーダーに映らないというステルス性能はこれがないと確保できない。日本はこんな優秀な技術も持っていたのだが、日米共同開発によって日本の優れた技術はアメリカに根こそぎもっていかれる、という事態が続くことになったのである。
p109~
■ソフト支配が対米依存度を高める
 その後、次第に世界はデジタル化し、武器・兵器に最先端のコンピューターシステムが導入されると、この日米共同開発は日本にとって余計に厄介な仕組みになっていく。つまり、戦闘機でもミサイルシステムでもすべてがソフトウェアによって動くわけだから、どのような工作でもできてしまうわけだ。
 たとえば、莫大な金額を払って買ったミサイルであっても、それが5年後にきちんと作動するかどうか実はわからない。
 アフガン戦争のとき、トマホークを装備していたイギリスの潜水艦が、撃とうとしたら撃てなかったという話がある。トマホークはGPSを使ったシステムでターゲットまで正確に誘導する巡航ミサイルだが、コンピューターが発射指令を出してもトマホークが反応しなかったという。システムソフトのバージョンが変わってしまっていたのだ。イギリスの陸軍少将に直に聞いた話だから間違いない。
 それが意図的であったかどうかはともかく、ソフトが支配する世界では、そういうことは簡単に仕組むことができる。(p110~)アメリカから買った武器・兵器は、アメリカの継続的支援がなければ使い続けることはできないのである。
 つまり、アメリカの兵器を日本にどんどん買わせれば、アメリカの日本への支配力はどんどん強くなる。日本から見れば、対米依存がどんどん高まるわけである。
 アメリカがイージス艦やミサイル防衛システムを売り込み、日本政府が莫大な予算をつけてそれを購入するというのがこのところの流れだが、これは武器が増えたことで、かえって対米依存を高めてしまうという、バカなことをくり返しているのである。そして、こうしたことを推し進めるためにアメリカと日本政府がやっていること、それが北朝鮮の脅威をことさら強調することなのだ。
 「北朝鮮がまたミサイルを撃ちそうだから、日本は最新の防衛システムで防衛力を強化しておいたほうがいい」
 こんな親切心を振りかざしながらアメリカは売り込んでくる。(略)
p111~
  ただし、だからといって、私は特別にアメリカが汚いとは思わない。自国の国益のために友好国と交渉するのも国際常識であり、どの国でもやっていることだからだ。本当は、日本の政治家や官僚がそうしたアメリカの意図を認識しながら、日本の国益のためにうまく立ち回るべきで、それができていないことのほうが問題なのである。
  ところが歴代政府の多くは、アメリカに追随することが政権の延命につながるということを優先し、ほとんどまともな交渉をしてこなかった。アメリカと対等になることを目指したり、アメリカに頼らない道を探ろうとした政治家はいたが、彼らは皆、志半ばで挫折した。アメリカによる情報戦(場合によっては日本のマスコミも加担した情報戦)によって追い落とされたと思われるケースがほとんどで、日本の親米派が陰で足を引っ張ったと思われるようなケースもあった。
  ともかく、対米自立への道を考える時、アメリカは基本的にそれを阻止しようという戦略をもって、先手先手で動いてくるのが戦後の歴史。その象徴といえるのが日米安全保障条約であり、非核三原則なのである。
p116~
■核武装論者が受け入れた「非核三原則」
  最近では私のように公然と日本の核武装を提言する人も増え、「きちんと議論しよう」という人も増えたが、ひと昔前までは、核武装論をタブー化するような風潮があったものである。
  それは日本が被爆国であったからではなく、「非核三原則」なるものが存在していたことが大きい。
  「広島・長崎が被爆し、多くの犠牲者を出したから、戦後の日本人は核アレルギーが強くなった」という人がいるが、それは違う。戦後になって東西冷戦が始まり、米ソの核戦争が過熱し、中国も核実験に成功する流れの中で、1960年代前半頃までの日本国民には核武装を支持する声はかなりあった。
  そんな中、1964年に総理となった佐藤栄作氏は元々、核武装論者であったが、総理になる直前に中国の核実験成功を聞いてその思いをなお強くし、アメリカに「日本も核武装をさせてほしい」と打診したといわれる。
p117~
  しかし、アメリカはこれに強く抵抗した。結局、佐藤総理は、日本が核武装をしない代わりに「日本がアメリカの核抑止力を必要とする時、アメリカはそれを提供する」ことを約束したことで核武装論を引っ込めた。
  1967年の国会答弁の中で初めて「非核三原則」を口にした佐藤総理は、72年には「核の脅威に対してはアメリカの核抑止力に依存する」として、沖縄を含めた非核三原則を閣議決定してしまったのである。
  核武装論がタブー視されるようになったのはそれ以降のことだ。佐藤総理が非核三原則を口にした当時の日本の世論に、これを良しとする声はさほどなかったが、それ以降の日本では次第に、核武装論を口にする者は危険人物の扱いをされるようになっていった。
  つまり、核武装論者であった佐藤総理自身が、日本の核武装論を封じてしまったようなものだ。
p118~
  日本では、「専守防衛で核武装もしない平和憲法がある平和主義の日本だから世界で価値を認められている」といった根拠のない論調がいまだにあるが、それはまるで違う。むしろ逆で、核武装国になれば嫌でも存在感が増すのである。
  核兵器を持っている核武装国こそが、戦後の国際世界を牛耳ってきた。「核武装国になれば国際社会での発言力と安全度が増す」ことは、国際社会では常識中の常識である。だからこそ世界の多くの国が、あわよくば核武装国になれないものかと狙っているのだ。
  国連の常任理事国であるアメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国。核武装国でない国は1つもない。他にインド、パキスタン、そしてイスラエル、北朝鮮も核武装国だが、彼らがなぜ核武装国を目指したのかは、逆を考えてみればわかる。つまり、彼らが核武装国でなかったらどうなっていたかと。
p119~
  どの国も核武装をすることで抑止力を手に入れ、国を潰されないようにしたまでのこと。いま核武装に突き進んでいるイランにしても事情は同じだ。決して気が狂ったわけでも何でもなく、自国の安全のためにもっとも合理的で効果的な方法をとっただけのことである。
  日本では、「核を持たないから平和でいられる」という論調がいまだに幅を利かせているが、世界の常識は180度違う。「核武装すれば国はより安全になる」というのが国際常識なのである。
  なぜなら、核兵器は決して使われることのない兵器で、同じ兵器でも通常兵器とは存在意義が違うものだからだ。(略)
 なぜなら、核戦争には勝者はいないからである。一発の核ミサイルは耐えることのできない被害を及ぼす。
p120~
  お互いに甚大な被害を覚悟しなければならないから、核武装国同士はお互いに手出しができなくなる。つまり核による抑止力は、パワーバランス(数の均衡)をさほど必要としないのである。核兵器出現以降、核武装国同士の戦争は一度も起きていない。
  核兵器は2度と使われることはない。しかし核兵器を持つか持たないかでは大違い。国際政治を動かしているのは核武装国なのである。このことをよくわかっているからこそ、非核武装国は何とか核武装国になれないものかと考え、逆に、既に核武装国になっている国々は、自分たちの価値を下げないために、これ以上、核武装国を増やしたくないと考えるのである。
p140~
  核兵器を所有する大国は、話し合いの末の多数決を拒否するカードを持ち、自国が不利と見るや、すぐさまこのカードを切る。オバマ大統領も本気で核兵器を廃絶させるのなら、アメリカが音頭を取って「せーの」で核廃絶を決議すればいいのだが、そんなことを本気で考えてもいないし、重要な話し合いになればなるほど、どこかの国が国が拒否権カードを切るのがわかっているから、議題にも上らないのが現実だ。
p141~
  ただ、第2次大戦、そして冷戦以後の国際社会がそれまでと変わったのは、腕力の強い者が腕力にものを言わせる、すなわち戦争を仕掛けるのではなく(そういうことも時には起こるが)、大声でものを言い、発言力で相手をねじ伏せるようになったことだろう。それは国連が機能した結果というより、核抑止の効果といえる面が大きい。
 もっとも、ただ大声を出しただけでは、誰も聞いてはくれない。世界の国々の耳を傾かせ、従わせるのに必要なものこそが腕力、すなわち軍事力で、そのために大国は核武装をしているのである。
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