中国の「ASEAN分割統治」 WEDGE Infinity

2013-03-02 | 国際/中国/アジア

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集
中国の「ASEAN分割統治」
WEDGE Infinity 2013年02月27日(Wed)岡崎研究所
 シンガポールの東南アジア研究所上席研究員のイアン・ストーリー(Ian Storey)が、1月22付WSJの論説で、南シナ海問題につきASEANで見解が一致することは望めず、本年の議長国ブルネイのもとでも進展は期待できない、と述べています。
 すなわち、ASEANの議長国を今年務めるブルネイには同情を禁じ得ない。中国政府の強硬策は、ここ数年、南シナ海の領土問題をめぐって利害関係が必ずしも一致していないASEAN加盟国間に、分裂を生じさせている。その結果、ASEANの議長国を務めるのは、従来よりも困難なこととなった。
 中国は増大する経済力と軍事力をもとに、隣国に対して中国の要求を呑むよう強要し、既に、昨年の議長国カンボジアは、これに屈している。中国は、ASEANを、地域における「中心的存在」と認め、今後もASEANを評価していくであろうが、こと南シナ海問題に関する限り、中国の対ASEAN戦略は、分裂させ支配する、分割統治である。
 ASEAN関連のフォーラムにおいて、領有権問題が表面的にしか取り上げられず、ASEANが、南シナ海の問題のような重要な安全保障に関する問題に対処できないとなれば、米国はASEANに対する関心を失い、中国がASEANの主たる対話国となってしまうかもしれない。
 南シナ海における紛争は不可避というわけではなく、海上における偶発的な衝突を回避することで、2013年についても現状を維持することができようが、今年の議長国ブルネイのもとでも、大きな前進を期待するべきではない、と言っています。
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 南シナ海問題をめぐる中国とASEANの関係は、論説の指摘する通りです。中国によるASEANに対する分割統治の有効性に大きな変化があるとすれば、それは、ASEANが全会一致の原則を変える場合でしょう。しかし、全会一致の原則変更の問題は、以前からASEANで議論されてきていますが、どのような多数決(3分の2か、4分の3かなど)にするかといったことなど、核心的な事項について、詰めた議論をするに至っていません。
 論説は、海洋安全保障問題におけるASEANの機能不全ゆえに米国がASEANに対する関心を失うかもしれない、と懸念していますが、ASEANの戦略的重要性を考えれば、そのようなことにはならないように思われます。ASEANは、米国にとっても、日本にとっても、極めて重要な存在です。日米が連携しながら、ASEANとの関係の深化に努めることが、中国による分割統治戦略に対抗する上で肝要です。
 ただ、二期目のオバマ政権は、一時的にせよ、アジア復帰政策を軽視したり後退させたりする可能性が排除できません。仮にそうなった場合、日本が地域で果たすべき役割は、一層重くなることになります。
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中国 増長する威圧経済外交~南シナ海紛争/「永遠の摩擦」覚悟を~東シナ海の尖閣諸島 古森義久 2012-08-11 | 国際/中国/アジア 
 ワシントン・古森義久 中国、増長する威圧経済外交
 産経ニュース2012.8.11 07:47[緯度経度]
 中国が経済パワーを他国に対し安全保障や政治の目的に威嚇的に使う「威圧経済外交」への警告が、米国側から発せられるようになった。今後の国際関係でも新たな震源となりそうな中国のこの戦略はすでに日本をも経済のムチの標的にしたという。
 米側の識者がこの中国の「威圧経済外交」の最新かつ最大の実例として指摘するのは、先月の東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議で議長国カンボジアが中国からの圧力で同会議の共同声明を葬ってしまったケースである。
 ワシントンの大手研究機関「戦略国際問題研究所(CSIS)」の上級研究員で中国の戦略や外交の専門家ボニー・グレーサー氏が「中国の威圧的な経済外交=懸念すべき新傾向」と題する最新論文で警告を発した。同氏は1990年代以来、歴代政権で国防総省や国務省の対中政策の顧問を務めたベテランの女性研究者である。
 同論文は中国がこの10年、総額100億ドル以上、昨年度だけでも米国の援助の10倍を超える額の経済援助をカンボジアに与え、今回のASEAN外相会議の舞台となったプノンペンの「平和宮殿」の建設資金をも提供したことを記し、「中国はカンボジアのこの対中経済依存を利用して、ASEAN外相会議では共同声明に南シナ海に触れる記述を一切、含めないようにすることを強く要請し、カンボジアはそれを実行した。その結果、同会議は発足以来45年間、初の共同声明なしとなった」と総括していた。
 同論文は中国の威圧経済外交の対象としてさらにフィリピンを挙げる。フィリピンは今年4月、南シナ海の中沙諸島スカボロー礁の領有権をめぐり中国と対立。両国が同礁海域に艦艇を送りこんだが、フィリピン政府が6月にすべての艦艇を同海域から引き揚げたのと対照的に、中国は数隻を残した。その背景には中国政府がフィリピンからのバナナ、マンゴーなどの果物の輸入の検疫措置を異常に厳しくし、中国人観光客のフィリピン訪問を禁止したことでフィリピン側の経済が大きな打撃を受け、財界が自国政府に領有権問題での中国への譲歩を訴える経緯があったという。
 グレーサー氏の論文は同様の事例として2010年9月の中国政府の対日レアアース(希土類)輸出停止をも指摘した。尖閣諸島海域への中国船侵入に端を発した日中衝突で中国側は経済手段を使って、日本側の政策を変えさせるという政治目的を図ったというのだ。
 同論文がさらに強調したのは、中国がノーベル平和賞をめぐってノルウェーに露骨な経済圧力をかけたことだった。同年10月、中国はノーベル賞委員会がノルウェー政府とは別個であるにもかかわらず、同政府に同平和賞を中国の民主活動家の劉暁波氏に与えないことを求め続けた。その要求がいれられないとみた中国はノルウェー産サケの自国への輸入を新規制の発動で大幅に削減した。その結果、翌年のノルウェーの対中サケ輸出は60%も減ってしまったという。
 こういう事例はみな中国政府が政治や安保面で他国の政策を自国の主張に沿って変えることを求めるために、経済手段を威嚇的に使うという威圧経済外交を明確にしている。中国は貿易でも援助でも投資でも、経済面でのグローバルな活動を急速に広めている。その種の活動を本来、経済とはまったく無関係の領有権や政治的な紛争での相手国攻撃の手段として平然と使うというわけだ。となると、中国との経済取引はいつも慎重に、ということとなる。
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ワシントン・古森義久 「永遠の摩擦」覚悟を
産経ニュース2012.7.14 15:14[緯度経度]
 「俺のものは俺のもの、お前のものも俺のもの。南シナ海での領有権問題を扱うのに、公正な態度だといえますか」
 こんな発言がフィリピン外務省の海洋問題担当代表のヘンリー・ベンスルト氏から出た。6月末のワシントンでの「南シナ海での海洋安全保障」と題する国際会議だった。主催は米側の大手研究機関「戦略国際問題研究所(CSIS)」である。この会議の特色は南シナ海で中国の領有権拡大の標的となった諸国の代表の発言だった。中国の海洋戦略攻勢が国際的懸念を高める表れである。
 同じ会議でベトナム外交学院のダン・ディン・クイ院長も発言した。
 「中国は結局は南シナ海全体を自国の湖にしようというのです。南シナ海紛争はその産物なのです」
 フィリピンが主権を宣言する南シナ海の中沙諸島スカボロー礁の領有権を主張する中国は最近、艦艇を送ってフィリピン側を撃退した。この環礁はフィリピンの主島ルソンから250キロだが、中国本土からは1350キロの海上にある。ベンスルト氏の言もこの落差を踏まえての中国批判だった。
 ベトナムは実効統治してきた西沙諸島から1974年1月に中国海軍の奇襲で撃退された。当時の南ベトナムの政権が米軍の離脱で最も弱くなった時期だった。クイ氏もそんな歴史を踏まえると中国の南シナ海制覇は自国の海よりも湖に、と評したくなるのだろう。
 中国の海洋攻勢はプノンペンでの東南アジア諸国連合(ASEAN)主体の一連の国際会議でも主題となった。日本にとっても尖閣諸島の日本領海への中国漁業監視船の侵入は大きな挑戦となった。この監視船は米側では中国当局が準軍事任務の先兵とする「5匹のドラゴン」のひとつとされる。
 こうした膨張を続ける中国に対し日本側では尖閣の実効支配を明確にする措置に反対する声も聞かれる。朝日新聞は東京都の購入に反対し、なにもせず、もっぱら「中国との緊張を和らげる」ことを求める。外務省元国際情報局長の「尖閣は日本固有の領土という主張を撤回せよ」という意見までを喧伝(けんでん)する。
 しかし「中国を刺激するな」的なこの種の主張は中国側の尖閣奪取への意欲を増長するだけである。この種の融和は尖閣が日本領であることを曖昧にするのが主眼だから、それだけ中国の主張に火をつける。そもそも緊張の緩和や融和を求めても、中国側の専横な領有権拡大を招くだけとなる現実は南シナ海の実例で証明ずみなのだ。
 米国海軍大学校の「中国海洋研究所」のピーター・ダットン所長は中国の海洋戦略の特徴として「領有権主張では国際的な秩序や合意に背を向け、勝つか負けるかの姿勢を保ち、他国との協調や妥協を認めません」と指摘した。「中国は自国の歴史と国内法をまず主権主張の基盤とし、後から対外的にも根拠があるかのような一方的宣言にしていく」のだともいう。だから相手国は中国に完全に屈するか、「永遠の摩擦」を覚悟するか、しかないとも明言する。
 ダットン氏はそのうえで次のように述べた。
 「中国が東シナ海の尖閣諸島に対してはまだ南シナ海でのような攻勢的、攻撃的な態度をとっていないのは、紛争相手の日本が東南アジア諸国よりも強い立場にあるからです。同盟国の米国に支援された軍事能力の高さや尖閣領有権の主張の論拠の強さには南シナ海でのような軍事行動や威嚇行動に出ても有利な立場には立てないと判断しているといえます」
 だが中国は現在の力関係が自国に有利になれば、果敢な攻勢を辞さないということだろう。となると、日本側のあるべき対応も自然と明白になってくる。 *強調(太字・着色)は来栖 
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「南シナ海問題でフィリピンが提訴 尖閣も参考に」WEDGE Infinity 2013-03-02 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉 
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“理不尽”中国とどう向き合うべきか 南シナ海・中沙諸島スカボロー礁/フィリピン特命大使を直撃 2012-08-02 | 国際/中国
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