<少年と罪>第3部 塀の中へ再び [5]満期釈放者は仮釈放者より再犯率が高い(中日新聞2017/8/21 )

2017-08-21 | 少年 社会

<少年と罪>第3部 塀の中へ再び[5] 
2017/8/21 朝刊 謝罪へ導く仮釈放を
 目の前に、娘を殺した男がいる。十三年前の法廷と変わらず、目を伏せたままだ。永谷博司(66)=愛知県西尾市=は怒りを抑えられなくなった。
 2013年2月、名古屋地裁豊橋支部。1999年の「西尾ストーカー殺人事件」で長女英恵(はなえ)さん=当時(16)=を亡くした父親の博司は、妻恵子(63)と傍聴席にいた。17歳で娘を殺害した加害男性が、出所後の12年に再び起こした「通り魔傷害事件」の公判を

見届けるためだ。
 「大事件を起こして注目されたかった」「また事件を起こすかも」。反省とはほど遠い発言が繰り返される。閉廷後、その場を去ろうとする姿を見て、博司は傍聴席で立ち上がった。
 「俺の顔を覚えとるか! こっちを向け!」
 響く怒号。だが彼が振り向くことはなかった。
 ストーカー殺人で10年間の服役を終え、満期釈放されていた。博司は「人の命を奪って10年は短すぎる」と不満を抱いていた。再び罪を犯した加害者に怒りを覚えた。同時に「なぜ再犯を防げなかったのか」とも疑問が膨らんでいった。
 通り魔事件の後、夫妻はインターネットで犯罪白書を調べた。分かったのは「満期釈放者は仮釈放者より再犯率が高い」という事実。最新統計では、仮釈放者が5年以内に再び刑務所に戻る割合は29%だが、満期釈放者は50%に上る。「犯罪者は長く刑を受けてほしい」と、厳罰を望んできた夫妻の気持ちが揺らいだ。
 仮釈放者は刑期を終える前に保護観察下で社会へ戻り、保護司の指導などを受ける。一方、満期釈放者は法の裁きを終えたことになり、出所後は保護観察が付かない「自由の身」だ。元法務省職員で龍谷大学教授の浜井浩一(57)=犯罪学=は「刑務所に入る期間が長いほど、社会に戻って不適応を起こす。結果として再犯率が上がる」と指摘する。
 葛藤の末、博司は遺族として講演に招かれると「受刑者にもっと仮釈放を経験させてほしい」と訴えるようになった。「加害者を娘と同じ目に遭わせてやりたい」との思いが、決して消えたわけではない。だが、結果を見れば、懲役刑を科すだけでは加害者は変わらず、過ちが繰り返されてしまったのだ。
 受刑者のほとんどは、いずれ社会に戻ってくる。博司はいま、服役期間が多少は短くなっても「周りの目が届く中で社会に慣れる期間が必要。それが被害者を増やさないことにつながる」と考える。
 よく晴れた今月9日。娘が殺されて18年となる日に、夫妻は自宅近くの事件現場で花を手向けた。手を合わせると、長く、あっという間でもあった日々が頭の中を巡る。
 民事判決が加害者側に命じた9千9百万円の賠償金は、30万1千円しか支払われていない。振り込みは10年前に途絶え、その後に加害男性本人から現金書留が1度、送られただけ。彼と、面と向かって言葉を交わしたことさえない。
 更生とは何か。博司は思う。「まずは真剣に謝罪をすること。それが立ち直りへの出発になる」。夫妻はいまも、加害男性を待っている。
 (一部敬称略)=終わり

  *上記事は中日新聞からの書き写し(=来栖)
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〈来栖の独白〉
>刑務所に入る期間が長いほど、社会に戻って不適応を起こす。結果として再犯率が上がる
 漠としたことを云っている。<不適応>というが、更生は、加害者一人でなされるものではない。社会が自らの偏見を捨て、罪を犯した人を排除せず、受け入れなければだめだ。 
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<少年と罪>第3部 塀の中へ再び [4]「居場所」と「支える人」の存在が、更生への一歩 (中日新聞2017/8/20 )
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