<少年と罪 「A」、20年>第2部 (1)共感
中日新聞 2017/6/25 朝刊 31面
英雄視 ネットで今も 自身の不遇 14歳の凶行に重ね
少年Aが土師淳君を誘い、殺害した通称「タンク山」=神戸市須磨区で
光を遮る黒いカーテンで閉ざした窓と、壁に張ったアニメのポスター。フリーライターの菅野久美子(35)は中学時代、自宅二階の一室で引きこもり生活を続けていた。薄暗い部屋で膝を抱える日々。でも「有頂天になった」瞬間がある。ちょうど20年前、1997年6月28日だった。
階下の居間のテレビが騒がしかった。神戸連続児童殺傷事件の急展開。逮捕された容疑者は、同学年で14歳の「少年A」。アナウンサーが早口でまくしたて、隣に座った母親は恐怖でおびえていた。「やってくれた」。菅野は興奮した。
宮崎市のニュータウンで育った。厳しいしつけで暴力を振るう母と、自分に無関心な父。中学でいじめに遭い、不登校になった。世の中は「監獄」。絶望感から自暴自棄になり、車道に飛び出して自殺を試みた。自分の境遇と、メディアが伝えるAの姿が重なった。
何より、Aが神戸新聞社に送った犯行声明にある「透明な存在であるボク」との一文に引きつけられた。「私も、その一人」。家にも学校にも居場所がない自分と同じ。犯行を「義務教育への復讐」と主張したAは、菅野の代弁者であり、英雄だった。小遣いで事件の関連書籍を買い求め、インターネットで情報を集めた。
「世の中をひっくり返してくれた。救われた」
いま、孤独死や児童虐待を取材する菅野は、当時の思いをこう振り返る。大学に入って親元を離れ、取材にのめり込むようになり、Aへのあこがれは消えた。
だが事件後、急速に普及したネットの世界で、Aはひそかに注目を集め続けていた。
Aを「王様」と呼ぶ掲示板が現れた。かつての菅野のようにAを賞賛する言葉があふれ、いまも約200人の「ファン」の書き込みが並ぶ。犯行声明など、Aの発言を自動配信するプログラム「bot」(ボット)も登場した。受信者は延べ3600人超。専門家は「異例の多さと指摘する。
利用者には、事件を直接は知らない世代の若者も多い。Aを礼賛する掲示板を使う神奈川県の20代男性も、その1人。ネットでAを調べ、自分と「事件から漂う空虚感が共鳴した」と書き込んだ。
男性は思春期に、自分の性的関心が他人と違うことを知り、疎外感を持つようになった。Aの犯行声明にある「実在の人間として認めて頂きたい」との言葉に魅了された。吸い寄せられるように、新幹線や夜行バスで神戸の事件現場を3度も訪ねた。「学校生活の苦しさなど、Aの犯行声明には普遍性がある。今後も共感を抱く人は出る」
こうした心境について、実際にAから眼への回答を得た新潟青陵大教授の碓井真史(社会心理学)は「虐げられていると感じている人が、Aを革命家のように英雄視したり、自分との共通点を見いだしたりしている。被害者がを見ずに」と指摘する。「人を殺してみたいと考える若者がネットのAに刺激されたり、子どもが過激な言動を刷り込まれたりする恐れがある」
その懸念は的中した。神戸事件から17年後の2014年、Aのボットを利用していた少女が、知人女性を殺害した。19歳の名古屋大学生(当時)だった。 (文中敬称略)
*社会を震撼させた神戸連続児童殺傷事件で「少年A」が逮捕されてから、まもなく20年。Aと同様に「人を殺したかった」という身勝手な動機による未成年者の犯罪が続いている。Aをカリスマ視する少年少女もいる。なぜ、残虐な事件の犯人に引かれる若者が出るのか。いまも社会に漂う少年Aの「影」を追う。
◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖宥子)
――――――――――――――――――――――――
◇ 神戸連続児童殺傷事件20年 妙な少年・・・極秘マーク 捜査指揮した当時の兵庫県警刑事部長が回顧(中日新聞 2017/6/25)
◇ 「酒鬼薔薇君、大好き♪ 少年法マンセー!」心に魔物を育てた名大女子学生の履歴書 『週刊新潮』 2015年2月12日号
◇ 名古屋老女殺害容疑の女子学生 ツイッターに「酒鬼薔薇聖斗」、麻原彰晃、加藤智大らの名前…
------------------------------------------
◇ 【ぬぐえぬ影 連続児童殺傷20年】《酒鬼薔薇聖斗くん32歳の誕生日おめでとう♪》殺人願望、元少年Aの影響色濃く
............