【秋葉原無差別殺傷事件 第2回公判】2010.2.1 証拠調べ からの続き
《休廷を挟み、証人尋問が始まる》
裁判長「証人の方にお入りいただきたい」
裁判長「名前や年齢はカードに書いた通りでよろしいですか。宣誓書を朗読してください」
証人「良心に従って隠さず偽らないことを誓います…」
検察官「聞き取りにくい場合は質問する側が悪いので、遠慮なく聞き返してください。あなたは事件の目撃者ですね」
証人「はい」
検察官「奥様と小さなお子さんと暮らしていらっしゃいますね」
証人「はい」
検察官「この日は、後で秋葉原で(家族と)合流する予定で先にいらっしゃっていたんですよね」
証人「はい」
検察官「目撃したのは合流する前ですか」
証人「はい」
検察官「それでは目撃直前からお聞きします。何をしていましたか」
証人「(秋葉原にあるチェーン牛丼店)吉野家で昼食を食べていました」
検察官「食事後はどこに行きましたか」
証人「店を出て歩道を歩いてから、どういえばよいのか…」
検察官「事件の現場に向かったんですか」
証人「はい」
検察官「中央通りと(神田)明神通りの交わる交差点ですが、通りの名前は知っていますか」
証人「(通りの名前を)聞けばわかります」
検察官「この日も中央通りは歩行者天国でしたか」
証人「はい」
検察官「現場の地図を指し示したいのですが」
《法廷の大型モニターに事件現場の地図が映し出される》
検察官「吉野家の場所から確認します。この地図だと、中央通りの左側のビルのところにある『秋葉原中央通り店』で間違いないですか」
証人「はい」
検察官「この店を出て、地図でいうと、上に向かったんですか」
証人「はい」
検察官「歩道を歩いたんですか」
証人「はい」
検察官「明神通りを横断したんですね」
証人「はい」
検察官「目撃したときのことをお聞きします。明神通りを横断したときのことで覚えていることを教えてください」
証人「昼食をとった後、交差点に歩いていきました。中央通り側は赤信号だったので歩道で待っていました。そのとき、午後から家族と合流するために妻に携帯電話で連絡していましたが、青に変わったので歩き始めました」
検察官「明神通りの信号は赤だったんですよね」
証人「はい」
検察官「信号待ちをしていた車はいましたか。この地図だと左ですが」
《左右のモニターに地図上の交差点を指し示す検察官の指が映し出される》
証人「左にいました」
検察官「さて、明神通りを横断中、何がありましたか」
証人「突然、轟音(ごうおん)とともに、どういえば…左手で携帯を持っていましたが、左から何か来るような雰囲気があり、『あっ』という、押し出されるような感じになり、こけそうになりました」
検察官「轟音ですか?。『ゴー』という音ですか?」
証人「ちょっと…。今は車とわかるんですが、結構大きな音という感じで…」
検察官「音の響きはどんな感じですか」
証人「『ゴー』に近い感じだと思います」
検察官「他に横断していた人の記憶はありますか」
証人「前方に3、4人黒っぽい服を着た若い人がいたので、右から(私が)抜かしていきました」
検察官「そのときに、体のバランスが崩れた感じですか。そのときの状況を見ましたか」
証人「見るというよりも、後ろを通過したもののせいで左肩が前に出る感じでよろめいたんです」
裁判長「今動作したのは首と右肩が、右後方を向いてひねるような感じですか」
証人「風に押されたみたいな感じで、前につんのめって顔と体が後ろをむいた感じです」
裁判長「自然と後ろを見た感じということですね」
証人「はい」
検察官「思わず右後方を見た地点はどこですか。地図に書いていただけますか」
証人「自分がよろめいた位置ですか」
検察官「そうですね、カタカナでマルワ(○の中にワ)と書いてください」
検察官「(事故現場の交差点の横断歩道を8割ほど渡った)そのとき、何を見ましたか」
証人「シルバーで荷台に『××レンタカー』(法廷では実名)と書かれたトラックが、交差点の真ん中から走っていくのを目視しました」
検察官「トラック以外に何か見ましたか」
証人「前輪と後輪の間に頭を私の方に向けた状態で人が1人いました」
検察官「他には何を見ましたか」
証人「助手席の窓ごしに、フロントガラスに人が張り付いている状況が目視できました」
検察官「車の下にいた人は動きましたか」
証人「車の下で回転しながら、上下にはねながら、いました。車の前輪を追い越して、下の人が車より前に転がっていきました」
検察官「あなたが見たときのトラックの速度はどうでしたか」
証人「周りに実際走っている車がなかったので比べるのは難しいですが、60キロくらいは出ていたのではないかと思います」
検察官「車の運転はされますか」
証人「毎日しています」
検察官「車のエンジン音とかを覚えていますか」
証人「エンジンはうなったままでした。最初は交通事故だと思いましたが、トラックのエンジンがうなったままだったので、私はトラックがそのまま行くと、ひき逃げ事故じゃないかと思いました。逃げられてしまってはまずいなと思いました」
検察官「トラックを見たときの(あなたの)体勢はどうでしたか」
証人「最初はひざをついていましたが、視界から消えるときには立っていました」
検察官「トラックがどうするか気にしましたか」
証人「視界から消えたので、このまま逃げられたら困ると思って目で追いました。トラックの進行方向を見たところ、トラックが停車して運転席側の扉が動くのが確認できました」
検察官「ドアが開いたのを確認した、ということでいいですか」
証人「そうです。トラックが止まったので、運転手が救護に向かうと思いました。(それで)倒れている人のところに行こうかなと思い、向かいました」
検察官「交差点で倒れている人は何人いましたか」
証人「2人は確実に覚えています」
検察官「2人のことで覚えていることはありますか」
証人「1の人に近づいたときに、南の方からも女性が近づいてきました。1の人のところに行ったときに、私が見ても助からない状況が見受けられました。それで、2の人のところに行こうとしましたが、2の人のところにも何人か救護の人がいたので、とりあえず第2の事故が起きないように交通整理でもしようと思って元の位置に戻っていきました」
検察官「1の人の様子はどうでしたか」
証人「1の人のところに行ったときに、耳から血が出ていて、ほとんど呼吸がないような状況でした。どういえばいいのでしょうか…。本当に…」
《検察官は「分かりました」とだけ答え、質問を変えた》
証人「車は停止線を越えて止まっていました。(車の前部分は)横断歩道にはかかっていません」
検察官「交通整理をしようとしたとき、どんなことがありましたか」
証人「車の通行が不可能だったので、信号待ちの車をUターンさせて戻ってもらおうと、『どう見ても通れないからUターンしてくれ』といいました。周辺に落ちている傘をうまくよけてもらいながらUターンしてもらって、車を誘導しました」
検察官「(車をUターンさせたときに)声を聞いたとかいうことはありますか」
証人「そのあと、方角的には地図の右側(東側)ですが、『刺された』という第一声を聞きました」
検察官「他には何か聞きましたか」
証人「えー、『刺された』という言葉を、2、3回くらい、現場で誰かが叫んでいました。そのとき、交差点の右側、横断歩道がありますが、その近辺で、私にはガードマンに見えましたが、そのガードマンの人がこっちを見ながら、しゃがんでいく姿が目視できました」
《「ガードマン」は、実際には加藤被告に刺されて重傷を負った警察官だ。検察官はそれを証人に確認したあと、警察官の位置を地図に示すよう促した。証人は赤ボールペンで、警察官の位置に「3」の印をつけ、自分の位置も印で示した。》
検察官「その警察官は、刺されたと言っていたのですか」
証人「いや、ちょっとそこまで分かりませんが、『3』の方角から『刺された! 刺された!』という言葉が聞こえてきました」
検察官「警察官の様子はどうでしたか」
証人「私の方角を向きながら、座り込んでいるような感じでした」
検察官「他に何か、声を聞いたり、人を見たとかいうことはありますか」
証人「えー…。その時に、まずこの状態で、私は交通事故と判断していたので、『刺された』ということに関して、理解できませんでした。レンタカーのトラックで交差点に走ってきたので、引っ越しか何かで地方から来た人が、東京の道が分からずに、赤信号に突っ込んで、事故を起こしたのかと…。引っ越しなので、(運転手は)カッターナイフか何かを持っているかもしれないので、事故に動転して、カッターナイフ程度のもので、人を刺しているのか、という感じを受けていました」
証人「『刺された』の言葉のあとに、交差点の真ん中から『あいつ、あぶない! あいつ、あぶない!』という言葉が、2、3回発せられました」
検察官「声の主を見ましたか」
証人「黄色い服を着ていました」
《検察官に促され、証人は地図に黄色い服の人物の位置を地図に書き込んだ。歩行者天国だった交差点の南側は封鎖されていたが、そのすぐ内側だ》
検察官「黄色い人の体の向きはどうでしたか」
証人「私が見たときには、私の方を向いていましたが、その前に黄色い人が、地図上の左側(西側)から、『3』の方へ歩いていくのを見ました。その途中で『あいつ、あぶない』という言葉を出していました」
検察官「『あいつ』が誰か、見ましたか」
証人「そのとき、人が何人か立っている中に、1人『ぽつん』という感じで、人がいるのを見ました」
証人「この後、(人物は)私の視界から1回、消えました。その後、私の目の前に来ました」
検察官「歩いていましたか、走っていましたか」
証人「私の目の前に来たときには、足を肩の程度に広げて、右手を前に突き出して、私の方に迫ってきました」
検察官「距離的に、最大でどれくらいまで接近しましたか」
証人「ほとんど1メートルもない程度です」
検察官「何か持っていましたか」
証人「その時初めて分かりましたが、黒いナイフを持っていました。カッターナイフではなかったです」
検察官「見れば分かりますか」
証人「分かります」
《検察官が、再び透明なケースに入ったダガーナイフを取り出し、確認を求める。証人は「まあ、これですね」と答えた》
検察官「その人物はナイフを持って、あなたに対してどうしましたか」
証人「私の腹の方向に、何度か、刺そうという感じで、突きつけてきました」
検察官「あなたはどうしましたか」
証人「その時(ナイフと気付く以前は)、私はカッターナイフ程度と思っていたので、左手を出して飛びかかれば、これだけ周りに人がいるので、どうにかなるかと思いました…思いました。左手を前に出しながら、ナイフに向かって踏み出したんですが、相手の行動の方が早く、踏み出したときには、相手は私の右の方向に行ってしまい、すれ違ってしまった感じです」
証人「ナイフといっても、それほど強力と思っていなかったので、押さえつければどうにかなる、としか思っていませんでした」
検察官「刺されても取り押さえられると思っていたのですか」
証人「はい。(ナイフで左手を刺されても)頭を押さえつければ、これだけ人がいるので、少なくとも取り押さえられるだろうと思い、飛びかかりましたが、相手の動きが速く、私の右側に行ってしまいました」
検察官「ナイフを持った者が移動した後、どういうことがありましたか」
証人「細かくジャンプしながら、南の方へ向かっていきました。直後に私の隣にいた人が『刺された、刺された』と何度もいっていました」
《ここで証人の男性は検察官に促され、「刺された」と話していた被害者の位置を「5」と書き込む。》
証人「その人はベルトの上の部分を抑えながら『刺された』と何度もいっていました。だけど、私が見たときは血が出ていなくて、普通に会話していたので、『大丈夫ですか、座った方がいいですよ』と声をかけました」
検察官「『5』の人はあなたが勧めた通り座りましたか」
証人「何回か言ったら、座りかけたのですが、そのとき、携帯電話の販促の方(販売促進PR要員)だと思いますが、緑のジャンパーを着た人が布を持ってきたので、私は『5』の人を預け、ナイフの人物を追いかけていきました」
検察官「あなたが見た(ナイフの)人物は声を上げていましたか」
証人「全然上げていませんでした」
検察官「あなたは『5』の人の処置を託してどうしましたか」
証人「まず『ナイフをどうにかしなければならない。人がたくさんいる駅に行ったら大変なことになる』と思いました。『ナイフだったら商店街に置いてある液晶テレビとかで防ぐこともできる』と思い、身を守るものを探しながら、(ナイフの者を追って)中央通りの真ん中を歩いて南の方へ向かいました」
検察官「その後、あなたはナイフの者を見ましたか」
証人「見ました」
検察官「再びナイフの人物を見た位置を、『う』の字をまるで囲って書き込んでください」
検察官「そのとき、ナイフの人物は何をしていましたか」
証人「ナイフをかざしながら警察官と闘っていました。警察官は至近距離で向き合いながら、黒い警棒で対峙(たいじ)していました。(ナイフと警棒が当たる)『カンカンカンカン』という音が何度もしました」
検察官「あなたは(警棒を持っている人が)警察官だと分かりましたか」
証人「服装で分かりました」
検察官「ナイフの人物は警察官に何をしようとしていましたか」
証人「警察官を刺そうとしたり、切り付けようとしたりしているように見えました」
検察官「時間的にはどのくらい見ていましたか」
証人「1、2秒…5秒くらいの感じでした」
検察官「現場では、あなたは至近距離でナイフの人物を2回見たことになりますね」
証人「はい、そうです」
検察官「あなたはナイフの人物を(再び)見れば分かりますか」
証人「分かります」
検察官「法廷にいる被告がナイフの人物に間違いありませんか」
証人「間違いないと思います…」
検察官「あなたはナイフの人物を当日も(警視庁の)万世橋署で見ましたか」
証人「はい」
検察官「そのときの記憶で、(万世橋署で)見た人物とナイフの人物は同じでしたか」
証人「同じでした」
検察官「話を戻します。あなたは警察官とナイフの人物が闘っている姿を見た後、どうしましたか」
証人「被害がこれ以上は広がらないだろうと思い、交差点に戻ろうとそちらに向かいました。そうしたら途中で中央通りの横側に人が集まっていました。そこからは『(救命のための)AED(自動体外式除細動器)を持ってこい』『布で覆え』という声が聞こえてきました。そちらに行ったら真っ赤な血の海があって…」
証人「私はAEDを探しましたが、どこにあるのかも分からない。どうすればいいのかも分からなくなってしまいました。それで、現場の状況をそのままにしておけないと思い、5番の方のところへ戻っていきました」
《「5番」とは、被害者の1人で、亡くなった松井満さん=当時(33)=とみられる。公判中に示された事件現場地図で、立っていた場所を「5」のマークをつけて説明したため、便宜上、「5番」と呼ばれている》
検察官「誰か倒れていましたか?」
証人「人が…倒れていました。倒れていた方をお店の人が介護して、『がんばれ』と声をかけていました。でも、倒れている人は、声を発しない状態でした」
検察官「あなたが見た光景は、どのようなものでしたか?」
証人「実際に行ったことはありませんし、写真や映像でしか見たことがありませんが、あれは『戦場』そのものでした」
検察官「結局、あなたが事件の状況(の全体像)を把握したのはいつのことですか」
証人「この事件が大きかったというのが分かったのは、家族が上野駅でもらってきた新聞の号外をみてからです。5番の方が亡くなったのは、後から聞きました」
検察官「たくさんの方が亡くなったことを知り、どう思いましたか」
証人「周りにあれだけの人がいて、なぜこんなに犠牲者が出たのか…。もう少し勇気を持って、犯人を取り押さえられれば、後の人も助かったかもしれない。ずっとそう思っています」
検察官「犯人がどうこうではなく、被害者を救えなかったあなたが自責にかられたということですか」
証人「正直、それがあって夜も眠れなくなって…。仕事の途中に取り乱したことがありました」
検察官「職場や家族への影響もあったのですか」
証人「結局、1人も助けてあげられなかった。突然思いだして、仕事も手につかず、悔しい気持ちになることもありました」
検察官「事件があった日から、現場に行ったことはありますか」
証人「実は、今日…。事件があったあの時以来、行ってなかったのですが…」
証人「すみません…。今日、現場に行って、おわびをしてきました」
検察官「現場には花が供えられていましたよね。それを見て、どう思いましたか」
証人「どうしてあんなことが、ここで起こらなければならなかったのか。みんなで協力して、1人の人間を取り押さえられなかったのか。犠牲者を救えなかったと思いました」
検察官「あなたは、何度も警察署で事情聴取に応じ、今日も法廷で協力していただきました。それは、どういう思いからなのですか」
証人「もう少し、その場にいた自分が何かできなかったのか。1人でも2人でも救えたんじゃないのか、とずっと思っていました。だから、今日は最後の使命なのかな、と思ってきました」
《ここで、検察官は改めて被害者の確認をするため、現場の状況を写した写真を男性に示す。》
検察官「ここに座り込んでいる男性。この方は、あなたがガードマンと思いこんでいた警察官の方ですね」
証人「はい」
検察官「ここにしゃがみ込んでいる人がいます。これが5番の方ですね。ここには、あなたも写ってますね。背中を向けている」
証人「はい。そうですね…」
《検察側の証人尋問は終わった。次に弁護人が質問に立つ。》
弁護人「『ゴー』って音がしたとのことですが、何かに物が当たるような音はしませんでしたか」
証人「全然気付きませんでした」
弁護人「あなたが、(フロントガラスに)衝突したのを見た人が、地面に倒れていた被害者ですか」
証人「どっちがどっちか分かりません」
弁護人「その(衝突した)人は、(倒れていた人とは)別の人だったということはありませんか」
証人「そうですね」
弁護人「フロントガラスに衝突した人がどうなったか見てないですか」
証人「見ておりません」
弁護人「あなたは前輪と後輪のタイヤの間に人を見たとおっしゃったが、(その)地面にいた人に、タイヤが乗り上げるところを見ましたか」
証人「最初に前輪と後輪の間に人がいてその後、人が前輪を越えて前にいました。車が乗り越えたのか、人が動いたのかは分かりません。左前輪の下を抜けていきました」
弁護人「車が(倒れていた)人の上を乗り(越えて)、車がバウンドしたところなどは見ましたか」
証人「車が人を乗り越えたっていうのは、目視しています」
弁護人「交差点の中央で車から人が降りてくるのを見ましたか?」
証人「扉が開くのが見えています」
弁護人「あなたの調書の中では、降りてきたのは男か女かは分からなかったようですが」
証人「一番最初のころは人影が降りたような雰囲気もあったが、人が降りてきたというより扉が開いたことのほうがイメージに残っています」
弁護人「人が刺されたときに、(はじめて)犯人がいるのが分かった?」
証人「そうです」
弁護人「(被害者が)刺されたところは見ていない」
証人「見ていません。刺された瞬間は見ておりません」
弁護人「犯人が気付いたら目の前にいた?」
証人「はい」
弁護人「犯人がナイフを突き出してきた」
証人「はい。2回って感じじゃなく、小さく跳ねながら前に向かってくる感じでした」
《裁判長が身を乗り出して尋ねる。「跳ねながらですか?」》
証人「若干跳ねながら前に突き出してくる。こう。何回もしながら」
弁護人「右手だけで」
証人「はい」
弁護人「そして視界から消えた。あなたが前に出て、犯人とすれ違った感じですか」
弁護人「交差点の中の様子を説明してください」
証人「騒然としちゃって。交差点の中は直後には救護している人、周りを囲んでいる人がいて…。『危ない』という声の後は、人があふれてパニックというか…」
弁護人「犯人が何か叫んだりしていたことはありますか」
証人「ありません。なかったから、(犯人に気付かない)被害者が刺されたのかもしれません」
弁護人「キャーとか絶え間なく聞こえてきたのですか、それとも静かな雰囲気でしたか」
証人「自分が覚えているイメージになってしまいますが、いろんな声が飛び交っていました。文字にならない悲鳴に近い声が。そんな感じでしか覚えていません」
弁護人「あなたが見たとき、もう警察官と犯人とは闘っていたのですか」
証人「はい」
弁護人「犯人が(取り押さえられた)路地に入るのは見ましたか」
証人「見ておりません」
弁護人「警察官は犯人を殴ったりはしていましたか」
証人「していません」
弁護人「警察官はむしろ防戦していた?」
証人「防戦していました」
弁護人「そのときの表情は覚えていますか」
証人「まばたき一つせず、前を見すえているという感じでした」
弁護士「対峙(たいじ)していたとき、声を出していましたか」
証人「ありません」
裁判長「証人の方、長時間お疲れさまでした。以上で尋問を終わりますので、書類に署名をしてください」
◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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