2020年5月6日 朝刊
図書館、再開へ難題 「知る自由」保障と感染防止
新型コロナウイルス特措法に基づく緊急事態宣言を受け休館している全国の図書館など文化施設について、政府が全都道府県を対象に、対策を施した上での再開を容認する方針を示した。連休明けには、各自治体で、具体的な検討が進む見通し。図書館司書らは、情報の入手を支えるという本来の使命を果たしたいと考える一方で、感染防止策を徹底することの難しさに頭を悩ませる。
「開くんだよね」「いつになるの?」。名古屋市昭和区の鶴舞中央図書館には五日、再開を待つ市民からの問い合わせ電話が相次いだ。対応にあたった同館奉仕課の加藤晴生課長は「まだ市としては、何も決定していない。対策本部会議の判断を待ちたい」と、困惑したように話す。
市の図書館は、四月半ばから全二十一館が完全休館中。外出自粛要請が解除されない中での再開には、懸念も付きまとう。不特定多数が同じ蔵書を手にし、長時間滞在する利用者も多い。通常は貸し出しだけでなく、新聞やインターネットの閲覧、調べ物の対応など多様な要望に応えているが「どのサービスを行うか、慎重に検討しなければ」と加藤課長は話す。
椅子を減らしたり、入館者数を制限したりと、密度を下げる工夫が必要となる可能性もあるという。「返却された本を一ページずつ消毒することも、現状では不可能。どう対応すべきなのか、まだ分からない」
同市守山区にある志段味図書館の藤坂康司館長も「市民のために本を使えるようにはしたい。でも感染防止の措置との両立が難しい」と明かす。
利用者の中には、生活に必要な基本情報を館で得る人もいる。「長く休館が続けば、収入や環境による情報格差が生じる可能性は必ずある」と、心配してきた。「再開の話は、役割の重要さに目を向けてもらったという意味だとは思う。悩ましいが、対応していきたい」と話した。
88%休館 サービス苦慮
長期休館によって、図書館の制度をめぐる課題も浮かび上がっている。
全国には三千を超える公共図書館がある。図書館の横断検索サイトを運営するカーリル(岐阜県中津川市)などが連休直前に、ウェブサイトを持つ館を調べたところ、確認できた千六百二十六館のうち88%が休館していた。休館中は「ほとんど何のサービスもできない」(志段味図書館の藤坂康司館長)状態が続く。
情報提供の手段としてはインターネットの活用も考えられるが、電子書籍を貸し出す館は、まだごく一部。タイトル数も少なく、利用は限られている。
金城学院大の薬師院はるみ教授(図書館情報学)は「図書館は、読書や学習の権利を万人に平等に保障するための施設。だが、実は、それを支える制度がない」と指摘する。電子書籍の導入や緊急時の対応について「全国で一定水準が担保できるよう法整備などが必要だ」と話している。
(谷口大河、中村陽子)
◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用です