ロシア毒殺未遂 体制の暗さが重苦しい
中日新聞 社説 2020年9月18日
底知れぬ闇の深さを覚える。ロシアの反体制派指導者ナバリヌイ氏を毒殺しようとしたとみられる事件だ。プーチン政権に歯向かう人を狙う事件が相次ぐ。真相解明をロシア当局に求める。
ナバリヌイ氏はロシアの空港で紅茶を飲んだ後、搭乗した国内線の機内で意識を失い入院した。家族らの強い求めでベルリンに搬送され治療を受けている。ドイツ当局は体内から軍用神経剤「ノビチョク」系の毒物が検出されたとして、ナバリヌイ氏に対する殺人未遂事件だと断定した。
ロシア極東ハバロフスク州では七月以来、人気のある州知事が殺人容疑で逮捕されプーチン大統領に解任されたことに抗議するデモが続いている。
八月に入るとロシア隣のベラルーシでも、ルカシェンコ大統領の退陣を迫る抗議デモが燃え上がった。プーチン体制に反旗を翻したハバロフスクの動きに触発されたとも指摘される大衆蜂起だ。
ナバリヌイ氏の事件はこうした社会情勢下で起きた。今月十三日に行われた統一地方選に向けて同氏は活動中だった。動員力を持つナバリヌイ氏はクレムリンにとって目障りな存在だ。
化学兵器禁止条約で禁じられているノビチョクは、二〇一八年に英国で起きた元ロシア情報部員暗殺未遂事件でも使われた。英国はロシア情報部員の犯行と断定した。ロシアは事件への関与もノビチョクの保有も否定した。その毒物が今回、ロシア国内で使われた。
ロシアでは一五年に野党指導者ネムツォフ元第一副首相が暗殺され、盟友の活動家も原因不明の多臓器不全で死線をさまよった。
それ以前には元情報部員のリトビネンコ氏が亡命先のロンドンで放射性物質によって殺害され、英国の独立調査委員会はプーチン大統領の関与を指摘した。
リトビネンコ事件の直前には、チェチェン戦争の暗部を暴いた女性記者ポリトコフスカヤ氏も暗殺された。
プーチン政権はいずれの事件でも関与を否定し、真相はうやむやのままだ。こうした凶悪犯罪を放置してきたに等しい。
ナバリヌイ氏の事件でも同じことが繰り返されてはならない。募る疑念をプーチン政権が晴らそうとするなら、徹底捜査して真相を解明する必要がある。
二十年余続くプーチン体制は重苦しい暗さを身にまとっている。それがどれほど国の対外イメージを損ねているだろうか。
◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用です