秤の重み 裁判員制度10年 ②量刑 「更生を」 情を反映 2019/5/17

2019-05-19 | 裁判員裁判/被害者参加/強制起訴

<秤(はかり)の重み 裁判員制度10年> ②量刑 「更生を」情を反映                       

2019/5/17 朝刊                               

 裁判長が読み上げた判決には、執行猶予が付いていた。被告の女はじっと聞き入っている。裁判員の一人として名古屋地裁の法廷にいて、その様子を見守った男性。自分たちが導きだした寛大な結論にあらためて「よかった」と納得したという。

 口論の末に80代の父親を突き飛ばし、頭にけがを負わせて死なせたとして女が傷害致死罪に問われた裁判。猶予付き判決は、検察、弁護側とも控訴せず、後に確定した。

 被告は当初から事実を認めており、1審の裁判員裁判で争われたのは量刑だ。酌むべき事情を認め、執行猶予を付けるかどうか。

 被告は長年、両親の自営業を手伝っていた。事件の4,5年前からは自営業の手伝いだけでなく、両親の介護にも追われた。週の大半は朝から晩まで、両親と過ごすことに。兄姉はいるが、ほとんど関わらず、被告が一人で引き受けていた。そんな中、仕事を巡るささいないさかいをきっかけに事件は起きた。

 公判での被告人質問。

 両親からもらう月給は数万円で、自身の生活もぎりぎりだった。なぜ、そこまでして力を貸したのか。「両親の生きがいだったので。手伝ってあげたかった」「兄姉には頼めなかったのか」と問われると「それぞれ家族があり、巻き込んではいけないと思った」と答えた。

 証人として出廷した兄姉は、寛大な判決を求めた。「恨む感情はない。社会復帰の手助けもする」「介護を任せて負担がかかったと反省している。妹を加害者にしてしまった」。聞きながら、被告はすすり泣いた。

 複数の関係者によると、裁判員たちが量刑を話し合う場で、プロの法曹家として議論をまとめる立場にある裁判官は、類似事件の量刑例を示した。これに従えば、実刑でも不自然ではなかった。

 裁判員の男性はこう振り返る。「証人になった家族が被告のことを考えているとかんじた。(親の介護という)社会問題も含まれている。実社会で更生させたいと家族が望むのなら、それを支えたい、執行猶予を付けたいと思った」  裁判員裁判の判決は、従来のプロの裁判官による裁判と比べると、性犯罪などを例外に、執行猶予を付ける傾向がみられる。

 2009年の裁判員制度導入前に起訴され、プロの裁判官が08~12年に下した判決と、裁判員が09~12年に下した判決を比べると、強姦致死傷(現・強制性交等致死傷)罪で懲役5年超とした判決は、54・3%から75・6%に上昇した。一方、殺人罪の執行猶予付き判決は4・9%から8・2%に増えた。

 裁判員たちは被害者が心身に深い傷を負う性犯罪を強く憎む一方、同情すべき点は素直に受け入れるとも考える。愛知大法学部の小島透教授(刑法)は「裁判官は他の事件とのバランスを見るが、裁判員は目の前の事件の妥当性を中心に考える」と指摘する。

 被告に判決が言い渡された法廷。裁判長は最後に「裁判員と裁判官から伝えたいことがあります」と被告に語りかけた。「一人で抱え込まず、家族にも助けを求めてほしい。甘えてかまわない」

 被告は穏やかな表情になり、深く頭を下げた。

  * * *

 高裁での破棄率 18年は12%

 1審で一般市民の裁判員が決めた判決を、プロの裁判官だけで審理する高裁(控訴審)で破棄する割合は、2018年が12%。裁判員制度が始まる前、プロの裁判官が言い渡した1審判決が高裁で破棄された割合は17・6%(06~08年)だった。裁判員の判断は、かつてプロの裁判官が地裁で導いた結論よりも高裁で支持されている。

 ただ、裁判員制度導入後の破棄率の変化を見ると、制度開始翌年の10年は5・1%だったのが、14年には11・5%で初めて10%台に。それ以降は17年の9・3%を除き、毎年10%を超えている。

 裁判員裁判に詳しい菅野亮弁護士(千葉県弁護士会)は「一時と比べれば、裁判員の判断を尊重する必要性を低く見るようになったのではないか」と指摘する。

   ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)

----------------------

秤の重み 裁判員制度10年  ①死刑 迷い今も「本当は」 2019/5/16

-------------------

死刑執行、続く苦悩=裁判員制度導入10年 住田紘一元死刑囚は自ら控訴を取り下げ、執行された JIJI.COM 2019/5/6

............

 


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。