【異論暴論】正論10月号 わが反ポピュリズム論 ポピュリストの典型は小沢氏
産経ニュース2012.9.4 07:38
読売新聞グループ本社会長の渡辺恒雄氏の近著『反ポピュリズム論』(新潮新書)が順調に版を重ねている。ここで、渡辺氏は国民の不満のはけ口となるような大衆迎合的政策を訴える政治家が支持を集める状況に強い危機感を表明している。
『正論』のインタビューに対して、「いまポピュリストの典型と言える政治家は小沢一郎さんじゃないですか。橋下(徹)君は、まだ小沢さんの半分程度のポピュリストだ」と渡辺氏は答え、ポピュリストが政権を取ったら「国はつぶれるよ」と警告を発する。
混乱を極める政治を正常にするには、自民党も民主党も異分子を切ったうえで、中道的な保守勢力が結集すべきだと持論を展開。「自民党も民主党も割れたらいいんだよ。自民からはとても保守とは言えない十人程度に出てもらう。民主党からは小沢派が大量に離脱してよかった」
そのキーマンとして、民主党については野田佳彦首相を挙げるが、自民党については「無理して言えば」と保留をつけながら、名前を口にする…。(桑原聡)
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〈来栖の独白 2012/9/4 Tue.〉
これ(↑)は酷い。インタビューに対するナベツネさんの真意は、俄かに量り難い。
『反ポピュリズム論』は、発刊早々、私も読んだ。渡邉氏はポピュリストの典型として橋下徹氏を挙げている。アドルフ・ヒトラーに擬して橋下氏を批判する。渡邉氏の論文「日本を蝕む大衆迎合政治」(『文藝春秋』)に対する、ツイッター上での橋下氏の烈しい反論もあったから、渡邉氏の筆も熱を帯びてくるようだった。
小沢一郎氏については、むしろ好印象を綴っている。小沢氏の洞察、状況把握能力を高く評価し、「小沢という人はさすが政治達者な人だと思ったものだ」「鳩山・菅ニ代の民主党政権の混乱ぶりを経験した今日、小沢さんがどれほど正しいことを言っていたかがわかる」と言っている。
上の【異論暴論】は、肯えない。
◆ 「今なら党内も私の思うようになるが、時間が経てば経つほど私の指導力はなくなっていく」小沢一郎氏 2012-08-18 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
渡邉恒雄著『反ポピュリズム論』新潮新書2012年7月20日発行
p39~
つまり、橋下氏が彗星のごとく現れたのは、民主党と自民党が不毛な対立を繰り返し、さらに、衆院は与党、参院は野党が多数を占める衆参ねじれ現象も加わって「何事も決められない政治」を続けているせいだと言っても過言ではあるまい。
しかし、そのような既成政党の政治に対する不満のはけ口が特定の政治家に求心力を持たせる現象は、ヒトラーの例をみてもわかるとおり、政治的にはきわめて不健全な結果をもたらすことは歴史が証明している。
特に私が危うさをおぼえたのが、橋下氏が「朝日新聞」紙上で次のような発言をしていたからだ。
p40~
「選挙では国民に大きな方法性を示して訴える。ある種の白紙委任なんですよ」(「朝日新聞」2012年2月12日付朝刊)
私はこの発言をとらえて、先に触れた「文藝春秋」の論文「日本を蝕む大衆迎合政治」でこう記した。
この発言から、私が想起するのは、アドルフ・ヒトラーである。第1次世界大戦の敗戦により、莫大な賠償金を課せられ、国民の間に既成政党への不満と閉塞感が渦巻いていたドイツに、忽然と登場したヒトラーは、首相になった途端「全権委任法」を成立させ、これがファシズムの元凶となった。橋下氏の「白紙委任」という言葉が失言ではないのだとすれば、これは非常に危険な兆候だと思う。この点は、はっきりと彼に説明を請うべきだろう。(「文藝春秋」2012年4月号、101ページ)
この論文を公表して(略)発売から8日経った3月18日になって、橋下氏はツイッターを使って激しく反論してきた。(略)
p43~
まず、本当に橋下氏の言うように「選挙が公正に行われる限り、権力の独裁はあり得ない」のだろうか。
簡単に肯定はできない。ヒトラー率いるナチスは1932年7月の選挙で議会第1党になり、1933年1月にヒトラー内閣が誕生した。立法府に諮ることなく法律を制定できる権限をヒトラー政権に与える全権委任法も同年3月、ナチ以外の政党も賛成して圧倒的な多数で成立した。もともと4年間の時限立法だったにもかかわらず、第2次世界大戦の敗戦でヒトラー政権が瓦解するまで更新を繰り返し、ヒトラーの独裁体制を支える制度的支柱となった。
当時世界で最も民主主義的な憲法を持ち、言論の自由も保障されたワイマール体制下で、ヒトラーが合法的に独裁体制を築いたことを思い起こせば、橋下氏の挙げる「任期制」や「公正な選挙」「メディアの存在」だけで、“ヒトラー的なもの”を生む危険を完全に排除できるとは思えない。
私は橋下氏がヒトラー的だと言いたいのではない。ポピュリズムの蔓延によって強いリーダーの登場を待望する風潮が高まる中、朝日新聞が橋下氏のインタビュー記事で横見出しを使って強調した「選んだ人間に決定権を与える。それが選挙。ある種の白紙委任」という発想は危険ですよ、と警鐘を鳴らしたのであり、橋下氏の反論は、メディアのチェック機能を過大視している。(略)
p44~
一度に140文字までしかつぶやけないツイッターが典型であるが、ネット上の情報が危ういと思うのは、どれも断片的かつ瞬間的であることだ。ワンフレーズ・ポリティクスにはうってつけの環境だが、同時に非常に危険な状態でもある。その瞬間、瞬間で大衆の心を捉えるワンフレーズを言えば、すべてのメディアがそれで塗り潰され、次の瞬間には忘れ去られて、個々の出来事の体系的な意味づけはなされない。橋下氏と私の“論争”も、ポピュリズムの弊害に関する部分はまったく話題にならず、「渡辺氏の方こそ独裁」の部分だけが繰り返しツイートされ、ネット上に拡散してしまっている。
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p79~
野中さんと小沢さんによる自自連立は成功したが、その9年後の2007年、私が再び橋渡し役を務めた大連立工作が失敗に終わったのは何故か。
結論からいえば、福田康夫首相の「慎重さ」と、小沢民主党代表の「過信」が、悪い形で重なり合ってしまったのだと思う。
福田さんの前任の安倍晋三首相で臨んだ2007年7月29日の参院選は、旧社会保険庁の年金記録漏れや相次ぐ閣僚不祥事による辞任などから急速に国民の支持を失い、獲得議席が37という惨敗を喫した。それに対して小沢さん率いる民主党は60議席と大躍進。非改選議席を合わせた両党の議席は民主109、自民83となり、自民党は1955年の結党以来はじめて参院第1党の座から滑り落ちた。
p81~
X氏の電話は「小沢さんが大連立をやるべきだといっている」というものだった。(略)
X氏との大連立の準備は、安倍内閣がすでに死に体だったので、福田さんを「ポスト安倍」の最右翼とにらんで、8月下旬から具体的に動いた。(略)
p82~
福田さんが自民党総裁選で麻生さんを破り、後継首相の座を手にしたのは9月23日である。しかし実際は、これよりかなり以前の段階に小沢さんと福田さんは大連立で基本合意に達していた。むしろこの時点では、小沢さんの方がずっと前のめりだった。(略)
p83~
小沢さんは、福田さんの返事を不承不承受け入れて、当面の組閣はできるだけ小幅にとどめ、実質的に安倍「継承内閣」とするよう求めた。そのうえで、こう伝えてきた。
「今は参院選で勝った直後だ。だから今なら党内も私の思うようになるが、時間が経てば経つほど私の指導力はなくなっていく」
この伝言を聞いたとき、小沢という人はさすが政治達者な人だと思ったものだ。残念ながら、小沢さんが危惧したとおりになってしまった。このとき福田さんが決断していれば、大連立は実現していたに違いない。
この後も福田さんの慎重主義は続いた。(略)
p84~
ともかく小沢さんの矢のような催促と、福田さんの相次ぐ引き延ばしとで、私は「もうここで一切手を引こう」と何度思ったことか。(略)
しかし、このときのやりとりでも、小沢さんは「万事急がねば与野党対決ムードが高まり、党内の主戦論を抑えられなくなる」と気にしていた。事実、直近の世論調査で自民党と民主党の支持率が27%で並び、民主党内では「総選挙でも勝てる」というムードが蔓延していた。(略)
p86~
会談を終えた小沢さんは民主党本部に意気揚々と戻り、そこではじめて居並ぶ民主党幹部を前に代表選連立構想を披歴した。
一方、首相官邸に戻った福田さんは、「政策を実現するするための体制を作る必要があるということで、新体制を作るのでもいいのではないかと話をした」と記者団に語り、会談が大連立目的であることを公式に認めた。
しかし内心は不安だったのだろう。この直後、私は福田さんから電話を受けている。
「話は全部うまく行ったんですが、本当に民主党はこれでまとまるんですか」
私が「小沢さんが大丈夫と言っているんだから、大丈夫でしょう」と言っても、福田さんは「本当に大丈夫かどうか、もう一度念押ししてください」と頼むので、X氏に電話をして小沢さんに確かめてもらったら、X氏の返事も「絶対大丈夫」だった。それから1時間も経たないうちに、大連立構想は民主党の役員会で否決され、すべてパーになった。
後で聞いたところでは、民主党役員会では、「衆院選で勝って政権をとらないとだめだ」の大合唱だったという。それで小沢さんもプツンと切れてしまい、ご破算にしてしまった。(略)
p88~
税と社会保障の一体改革のこと以上に残念でならないのは、民主党が政権に就く前に行政経験を積んで統治能力を磨く機会が、永遠に失われてしまったことだった。
小沢さんは構想挫折後の記者会見(2007年11月4日)で、大連立をめざした理由についてこう語った。
「民主党はいまださまざまな力量が不足しており、国民からも『自民党はだめだが、民主党も本当に政権担当能力があるのか』という疑問を提起され続け、次期衆院選勝利は厳しい情勢にある。国民の疑念を払拭するためにも、あえて政権運営の一翼を担い、政策を実行し、政権運営の実績を示すことが、民主党政権を実現する近道だと判断した」
この小沢さんの率直な発言に対し当時、民主党の多くの議員が「侮辱だ」と激しく反対した。しかし、鳩山・菅ニ代の民主党政権の混乱ぶりを経験した今日、小沢さんがどれほど正しいことを言っていたかがわかる。
◆ 橋下維新 選挙資金「100億円」スポンサーの実名/橋下氏「衆院定数を半減」すり寄る国会議員に“踏み絵” 2012-08-27 | 政治
大阪維新の会 大口後援者にマルハン、ソフトバンク、パソナ
NEWSポストセブン2012.08.27 07:00
橋下徹・大阪市長率いる大阪維新の会が次期衆議院選挙の準備を本格化させつつある。
9月12日に「大阪から国を変える!!」をスローガンに地元で大々的な政治資金パーティを開き、その後、維新候補たちが全国遊説に乗り出す予定だ。
総選挙を戦うには軍資金が必要だが、すでに大口スポンサーの名前も挙がっている。
橋下氏は大阪府知事時代から大阪カジノ構想を推進し、今年2月には松井一郎・大阪府知事とともに香港のカジノ運営会社CEOと会談、「任期中に誘致の道筋をつけたい」と協力を要請した。さらに記者会見(5月24日)でも、「先進国でカジノがないのは日本くらい。カジノは観光や集客のツールになるだけではなく、うまく使えば所得税制に代わるか並ぶくらいの所得の再配分機能を果たす重要なツールになる。国会議員にそういう発想はないんですかね」と持論を展開してみせた。
維新の会の情報収集をしている民主党関係者が語る。
「カジノ構想に熱心な企業が京都のマルハン。全国にパチンコ店やボウリング場、ゲームセンターなどを展開する年商2兆円という遊技場最大手で、マカオのカジノに出資したり、カンボジアに銀行まで設立している。
しかし、日本では国の規制が強くてカジノの実現にはハードルが高い。そこでマルハンがカジノに理解のある橋下維新の会の国政進出を支援するという情報がある。Jリーグ・大分トリニータに十数億円出したスポンサーとしても知られる資金力豊富な企業だけに、維新の会の人気に、大口スポンサーが結びつけば大変な脅威になる」
マルハンと橋下氏には接点がある。橋下氏が府知事時代に発足したカジノ構想の研究会「大阪エンターテイメント都市構想研究会」の会員企業には大手広告代理店や鉄道会社、電機メーカー、建設会社と並んでマルハンが参加している。
さらに、今年5月に溝畑宏・前観光庁長官(現・内閣官房参与)が大阪府特別顧問に就任したが、溝畑氏はカジノ構想の推進者で、大分トリニータ社長時代からマルハンとのパイプが太いことで知られる。
その溝畑氏はマルハンの維新支援情報についてこう語る。
「橋下氏とは私が観光庁長官になる前からのおつきあいで、今回、松井府知事から大阪を元気にしたいという要請があって全面協力しようと顧問に就任しました。マルハンの韓昌祐・会長にもJリーグの時から随分お世話になっています。韓会長のもとにはいろんなところからスポンサーの要請が日に何件も来ているようです。
とはいえ、一代であれだけの事業を築き上げた方だから、(支援するかどうかの判断は)相当シビアだと思いますね。維新の会のこともあくまでニュートラルに見ているのではないでしょうか。少なくとも、私がマルハンと維新の会をつないだというのは誤解です」
マルハン経営企画部は、「大阪エンターテイメント都市構想研究会には娯楽産業の振興を目的に参加している。チャレンジする人を応援するというのはわが社の社風ですが、維新の会を社として応援しているということではない。会長や社長が個人的に支援しているかどうかまでは把握しておりません」と回答した。
一方、橋下氏自身はこの間、有力経済人と政策について意見交換をしてきた。ソフトバンクの孫正義・社長はツイッターで橋下氏にエールを送ってきたことで知られるが、橋下氏は今年1月に上京した際、孫氏や宮内義彦・オリックス会長らと会談し、エネルギー政策や大阪府市改革で意見交換したことが報じられている。橋下氏が大阪府知事選に出馬した2008年当時に堺屋氏とともに応援した経済人にはパソナの南部靖之・社長もいる。
宮内氏は小泉内閣の総合規制改革会議議長として郵政民営化を推進した人物で、孫氏と南部氏は安倍晋三・元首相のブレーン経済人として知られる。
安倍氏は維新の会と連携して政界再編を志向する動きを見せているが、背景には、「安倍氏を中心とする上げ潮派(経済成長重視派)は橋下氏とブレーン人脈や支援者が重なっている。上げ潮派はいまや野党自民党の中でも反主流派だけに、日の出の勢いの維新の会と組むことで政界の主導権を回復し、スポンサーを維持したいという思惑がある」(自民党町村派議員)という指摘があることも見落とせない。
※週刊ポスト2012年9月7日号
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「衆院定数を半減」 維新の会
東京新聞2012年8月27日 朝刊
橋下徹大阪市長は二十六日、松山市で開いた中村時広愛媛県知事との対談で、自ら率いる大阪維新の会が次期衆院選公約「維新八策」に、衆院定数半減を盛り込むことを表明した。「四百八十人の衆院議員を二百四十人に半減すると維新としてしっかり出していく」と述べた。
国会議員の給与にあたる歳費や政党交付金もそれぞれ三割カットする方向。数値目標を掲げて「身を切る」改革を前面に押し出し、議員定数削減に手間取る既成政党との違いを強調する狙い。
ただ、具体的手順や小選挙区と比例代表の配分など詳細な説明はなかった。「一票の格差」解消のため大規模な区割り見直しも必要になるとみられ、実現は容易でなさそうだ。
橋下氏は同会が立ち上げる新党への合流を希望する現職国会議員との公開議論を九月上旬に実施すると表明。「『一緒にやろう』と言ってくる国会議員は多いが、半減すると言えば、ほとんどみんな消え去っていく。国会議員に聞く」と述べ、議員選別の“踏み絵”にする意向も示した。
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〈来栖の独白2012/8/27Mon.〉
衆議員定数を半減して、政治に民意が十分に反映されるだろうか。
民主党政権にも困ったものだが、選んだ(政権交代させた)のは国民だ。その国民が今度は橋下維新を選ぶのか。「パンとサーカス」が、いよいよ姿を現してきた。その姿を見ないことには、国民は悟れないか・・・。
・月刊『文芸春秋』2012年3月号(1975年論文「日本の自殺」再掲載)より
『日本の自殺』p20~
ローマ市民の一部は1世紀以上にわたるポエニ戦争その他の理由で土地を失い経済的に没落し、事実上無産者と化して、市民権の名において救済と保障を、つまりは「シビル・ミニマム」を要求するようになった。
よく知られている「パンとサーカス」の要求である。かれらは大土地所有者や政治家の門前に群がって「パン」を求め、大土地所有者や政治家もまたこれら市民大衆の支持と人気を得るためにひとりひとりに「パン」を与えたのである。このように働かずして無料の「パン」を保障されたかれら市民大衆は、時間を持て余さざるを得ない。どうしても退屈しのぎのためのマス・レジャー対策が必要となる。かくしてここに「サーカス」が登場することとなるのである。(略)
だがこうして無償で「パンとサーカス」の供給を受け、権利を主張するが責任や義務を負うことを忘れて遊民化したローマの市民大衆は、その途端に、恐るべき精神的道徳的退廃と衰弱を開始したのである。(~p23)
◆政党政治が崩れる~問責国会が生む失望感===透けるポピュリズム
論壇時評 金子勝(かねこ・まさる=慶応大教授、財政学)2011/02/23Wed.中日新聞
歴史の知識を持つ人にとって、今日の日本政治には政党政治が崩壊する臭いが漂っている。約80年前の大恐慌と同じく、今も百年に一度の世界金融危機が襲っており、時代的背景もそっくりだ。
保坂正康「問責国会に蘇る昭和軍閥政治の悪夢」(『文藝春秋』3月号)は、昭和10年代の政治状況との類似性を指摘する。
保坂によれば、「検察によるまったくのでっち上げ」であった「昨年の村木事件」は、財界人、政治家、官僚ら「16人が逮捕、起訴された」ものの「全員無罪」に終る昭和9年の「帝人事件」とそっくりである。それは「検察の正義が政治を主導していく」という「幻想」にとらわれ、「いよいよ頼れるのは軍部しかいないという状況」を生み出してしまった。
ところが、「民主党現執行部」は「小沢潰しに検察を入れてしまうことの危険性」を自覚しておらず、もし小沢氏が無罪になった時に「政治に混乱だけが残る」ことに、保坂は不安を抱く。さらに「問責決議問題」は「国家の大事を政争の具にした」だけで、「事務所費問題」も、国会を「政策上の評価ではなく、不祥事ばかりが議論される場所」にしてしまった。
保坂によれば、「最近の政党が劣化した原因」は「小泉政権による郵政選挙」であり、その原形は「東条内閣は非推薦候補を落とすため、その候補の選挙区に学者、言論人、官僚、軍人OBなどの著名人を『刺客』としてぶつけた」翼賛選挙(昭和17年4月)に求めることができるという。そしてヒトラーを「ワイマール共和国という当時最先端の民主的国家から生まれたモンスター」であるとしたうえで、「大阪の橋下徹知事」が「その気ならモンスターになれる能力と環境があることは否定できない」という。
保坂とは政治的立場が異なると思われる山口二郎も、「国政を担う2大政党があまりにも無力で、国民の期待を裏切っているために、地方政治では既成の政治の破壊だけを売り物にする怪しげなリーダーが出没している。パンとサーカスで大衆を煽動するポピュリズムに、政党政治が自ら道を開く瀬戸際まで来ている。通常国会では、予算や予算関連法案をめぐって与野党の対決が深刻化し、統治がマヒ状態に陥る可能性もある」(「民主党の“失敗” 政党政治の危機をどう乗り越えるか」=『世界』3月号)という。
山口も同じく、「小沢に対する検察の捜査は、政党政治に対する官僚権力の介入という別の問題をはらんでいる。検察の暴走が明らかになった今、起訴されただけで離党や議員辞職を要求するというのは、政党政治の自立性を自ら放棄することにつながる」とする一方で、「小沢が国会で釈明することを拒み続けるのは、民主党ももう一つの自民党に過ぎないという広めるだけである」という。
そのうえで山口は「民主党内で結束を取り戻すということは、政策面で政権交代の大義を思い出すことにつながっている。小沢支持グループはマニフェスト遵守を主張して、菅首相のマニフェスト見直しと対決している」と述べ、民主党議員全員が「『生活第一』の理念に照らして、マニフェストの中のどの政策から先に実現するかという優先順位をつけ、そのための財源をどのように確保するかを考えるという作業にまじめに取り組まなければならない」と主張する。そして「菅首相が、財務省や経済界に対して筋を通すことができるかどうか」が「最後の一線」だとする。
しかし残念ながら、菅政権は「最後の一線」を越えてしまったようだ。菅政権の政策はますます自民党寄りになっている。社会保障と税の一体改革では与謝野馨氏を入閣させ、また米国の「年次改革要望書」を「グローバルスタンダード」として受け入れていくTPP(環太平洋連携協定)を積極的に推進しようとしている。小泉「構造改革」を批判して政権についたはずの民主党政権が、小泉「構造改革」路線に非常に近づいている。
まるで戦前の二大政党制の行き詰まりを再現しているようだ。戦前は、政友会と民政党の間で政策的相違が不明確になって、検察を巻き込みつつ、ひたすらスキャンダル暴露合戦に明け暮れて国民の失望をかい、軍部の独裁を招いた。現在の状況で総選挙が行われて自民党が勝っても、政権の構成次第では様相を変えた衆参ねじれ状態になり、また野党が再び問責決議を繰り返す状況になりかねない。
このまま政党政治が期待を裏切っていくと、人々は既存の政党政治を忌避し、わかりやすい言葉でバッシングするようなポピュリズムの政治が広がりかねない。何も問題を解決しないが、少なくとも自分で何かを決定していると実感できるからである。それは、ますます政治を破壊していくだろう。
いま必要なのは歴史の過ちに学ぶことである。それは、たとえ財界や官僚の強い抵抗にあっても、民主党政権はマニフェストの政策理念に立ち返って国民との約束を守り、それを誠実に実行する姿勢を示すことにほかならない。
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動画を紹介します。
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2012-9.01 Nabetune氏出演!
http://p.tl/Hgvo 短縮URL
(長さ 29:15)
9月1日 放送内容
“ナベツネ”こと読売新聞グループ本社代表取締役会長・主筆の渡邉恒雄氏が緊急出演!
発足から1年を迎える野田内閣の評価は…。そして政界で最もラブコールを送られる橋下徹大阪市長をどう評価する?これからの政治のあり方とは…。
政治記者歴60年の渡邉恒雄氏が、今の政治を一喝する。
ゲスト;読売新聞グループ本社 代表取締役会長・主筆 渡邉恒雄氏
http://www.tv-tokyo.co.jp/shinsho/backnumber/bn/201208/30.html
本日は思いもかけない動画、びっくり、嬉しいです♪
『週刊ニュース新書』は先週土曜日は見なかったですが、在宅していればよく見る番組です。田勢さんは感じ悪い(無愛想)ですけど(笑)。
ご案内の動画でも、ナベさんはあの幻の「大連立」に触れていましたね。あれが成功していれば、この日本にも、小沢さんにも、まるで違う世界が開けていたのです。ナベさんもよほど残念だったのでしょう。それで、つい言及するんですね。鳩山・菅政権にも怒っていますね。著書と同じで、メディアにも怒っていますね。
「小沢さんは終わった」と云うナベさんの言葉に弱く頷く私がいます。ああ、でも、ナベさんは86歳、小沢さんは70歳ですが小沢氏には病気があります。
動画、ほんとうにありがとう。感謝です。