2016年04月06日(水) 週刊現代
地下指令室にこもる弱虫・金正恩~100人のボディガードと毎夜の「喜び組」 暗殺の恐怖に脅える独裁者
週刊現代編集次長:近藤大介
強気、強気で攻めるアジア最貧国の若き独裁者だが、その一方で贅沢三昧の生活も捨てたくない。準戦時体制に入ったいま、金正恩第一書記はどこで何を考えているのか。「平壌奥の院」をレポートする。
■米韓の「金正恩斬首作戦」
北朝鮮の「恫喝外交」が止まらない。
3月21日午後3時20分頃、北朝鮮は日本海に面した咸興近郊から、短距離弾道ミサイル5発を発射し、約200km離れた日本海に着弾した。3月3日に6発、10日に2発、18日にも中距離弾道ミサイルを2発、日本海に向けて撃ち込んでいる。
折しもアメリカと韓国は、3月7日から4月30日まで、30万以上の軍人が参加する史上最大規模の合同軍事演習を実施中。演習では、アメリカ軍の原子力空母ジョン・C・ステニス、原子力潜水艦、F22ステルス戦闘機、ステルス戦略爆撃機、空中給油機など、最新兵器が勢揃いしている。
今回の米韓合同軍事演習では、昨年策定された新作戦計画「5015」を、初めて取り入れた。北朝鮮の重要拠点に対する先制攻撃作戦や、金正恩第一書記への「斬首作戦」など、いつでも実戦に移行できる訓練を展開中だ。
これに対し北朝鮮は、冒頭のように度重なるミサイル発射で反抗の姿勢を示している。また、朝鮮労働党機関紙『労働新聞』は3月20日、「朝鮮人民軍の陸海空3軍が合同で、敵地への上陸演習と敵軍からの上陸防衛演習を実施し、金正恩最高司令官が、現場で勇ましく指揮を執った」と報じた。
続いて、22日付同紙は、「敬愛する金正恩同志が長距離ロケット砲の演習を現地視察し、射撃命令を下した」と、大仰に記した。
だがその実態は、見せかけとはほど遠いようだ。
私はあるルートを通じて、現役の朝鮮労働党幹部の証言を得た。この人物は次のように述べた。
「わが軍は燃料不足が深刻で、全軍がほとんど、『戦闘定量』(開戦から1週間分の燃料)しか蓄えがない。特に空軍が、厳しい状況に置かれている。
パイロットの飛行訓練が、年間10時間以下しかできていないのだ。南(韓国)が、年間200時間以上行っていることを思えば、心許ない。仕方ないので、画面を見ながらシミュレーションをやっている」
この幹部によれば、2月に北朝鮮内外を震撼させた「李永吉総参謀長粛清事件」も、こうした朝鮮人民軍の内部事情が関係していたという。
「(2月8日の)旧正月の前に、李永吉総参謀長は、朝鮮人民軍の現状を、金正恩第一書記に報告した。その際、『わが軍にはもう、(米韓合同軍事演習への)対抗策がありません』と正直に述べた。それを聞いた金正恩第一書記が激昂し、李永吉を引っ捕らえさせて、直ちに処刑してしまったのだ」
これが「李永吉粛清事件」の真相だった。総参謀長は、総政治局長、人民武力部長と並ぶ「軍3大ポスト」の一角で、120万朝鮮人民軍の戦闘の総責任者である。
後任の総参謀長には、人民保安部長(警察庁長官)などを歴任した82歳の李明秀陸軍大将が任命された。現役世代では、金正恩第一書記の軍に対する非現実的な「要求」を満足させられる幹部がいなかったのである。
■地下270mの司令室
別の元朝鮮人民軍の亡命者によれば、勇ましい振る舞いが連日、北朝鮮の官製メディアで喧伝されている金正恩第一書記は、単に虚勢を張っているだけで、その実態はまったく異なるという。
「現在、金正恩は、暗殺の恐怖に脅える日々だ。アメリカ軍の空爆を恐れて、平壌市中区域の『金正恩官邸』の地下270mに設置した『地下司令室』で、李雪主夫人や二人の娘らと、息を潜めている。
地下司令室は、官邸からエレベータで直行でき、約30人が生活できる。そこには水と食糧、寝台、テレビなどが備わっていて、CNNやNHKなど世界の主要ニュースが見られる。黄炳瑞軍総政治局長らごく限られた幹部が、この地下司令室へ降りて、金正恩に報告を入れているのだ。
もし地下司令室も危機に陥ったら、そこから地下通路が、80km先の港湾都市・南浦まで通じている。金正恩一家は、地下通路をベンツで疾駆して、南浦から国外へ脱出する算段になっている」
金正恩第一書記は、北朝鮮の官製メディアが報じているような軍の現場視察に出る際にも、大仰な警戒を怠らないという。この元軍人の亡命者が続ける。
「金正恩が軍の視察に出る際には、千人規模の護衛要員が同行し、水も漏らさぬ警備をする。そして、1ヵ月以内にカゼを引いた軍人まで除去する。
『81課』(金ファミリーの食事担当)が、視察現場近くの金ファミリー専用の招待所に待機して、平壌で検査済みの食材を調理する。金正恩は招待所以外では、絶対に飲食をしない」
■北朝鮮軍のクーデター計画
この亡命者によれば、それでも過去3年で2回、軍部隊による金正恩暗殺未遂が起こっているという。
「1回目は、'12年秋に朝鮮人民軍の一部が決起したが、失敗に終わった。その時から金正恩は、ボディガードを100人以上に増やした。
2回目は翌'13年4月下旬に、平壌市内を走っていた金正恩を乗せた特殊装備のベンツに、自爆テロを狙った軍の車両が突っ込んだのだ。この時は、22歳の女性交通保安員(婦人警官)李敬心が勇猛果敢に駆けつけ、金正恩は九死に一生を得た。
李敬心は、この善行によって、国家の最高の栄誉である『共和国英雄称号』を授かった。逆に、金格植人民武力部長(国防相)と玄哲海人民武力部第一副部長(副国防相)が、責任を取らされて更迭された」
北朝鮮軍は、装備や訓練で米韓軍に及ばないばかりか、いつでも最高司令官の金正恩第一書記に向かって「暴発」するリスクも秘めているのだ。
このような状況では、いくら米韓合同軍事演習に対抗して、朝鮮人民軍が軍事演習を強行しても、力の差は明らかだ。
韓国政府の情報機関である国家情報院関係者が語る。
「実は、北朝鮮が中距離や短距離ミサイルを次々に発射して威嚇してくるのは、願ってもないことなのだ。なぜなら、そもそも限定された兵器しか有していない朝鮮人民軍の兵力が、さらに損なわれていくからだ。
3月2日に国連安保理が決議した制裁や、わが国が開城工業団地を閉鎖したことで、北朝鮮は今後、ミサイル開発の原資となる外貨を稼ぐのが難しくなった。だから現在、威嚇目的でミサイルを撃ちまくれば、朝鮮人民軍は、もはや恐い軍隊ではなくなるのだ」
こうしたことは、北朝鮮側としても、百も承知のはずだ。
北朝鮮は韓国にどう対抗していくのか。前出の朝鮮労働党幹部が続ける。
「わが軍は現在、『ソウル解放作戦』を喧伝しているが、これは38度線近くの移動式発射台から、『青瓦台』(韓国大統領府)に向けてミサイルを撃ち込む。それによって、平和ボケした南を、パニックに陥らせる作戦なのだ。その後に、いま演習で行っているように、陸と海から南下していく。
われわれは朝鮮戦争の休戦以降、60年以上も貧困生活を強いられている。もはや失うものは何もない。いつ戦争になっても仕方ないと思い始めているし、平壌は南との全面戦争もやむを得ないという雰囲気だ」
■高麗ホテルの専用部屋で
それでは、金正恩第一書記は、韓国との全面戦争を決断するのか。
前出の元人民軍の亡命者は、否定的な見方だ。
「金正恩の思惑は、5月に36年ぶりに開く朝鮮労働党大会で政権の求心力を高めることであって、戦争して自滅の道を歩むことではない。強硬策に出ているのは、そうしないと軍のクーデターに遭うからだ」
金正恩第一書記の少年時代の遊び友達だった「金正日の料理人」藤本健二氏も、否定的だ。
「戦争にはならないと思います。その理由は金正恩第一書記が、生まれながらにして贅沢三昧の生活を送っているからです。
ヨーロッパ直輸入の高級ステーキを毎日平らげ、ボルドー5大シャトーの高級ワインやクリスタルヘッドの最高級ウォッカを毎日がぶ飲みしている。『チーズの王様』エメンタールチーズも大好きだし、タバコだって、カルチェのメンソールを1日200本近くも吸う。
韓国といったん開戦したら、そんな贅沢三昧の生活にもオサラバしなければならなくなる。金正恩第一書記のことは、子供時代からよく知っていますが、オバマ大統領が3月20日に電撃訪問したキューバのように、一刻も早くアメリカと国交正常化を果たしたいだけなのです」
前出の国家情報院関係者も、「金正恩は享楽主義者だ」と語る。
「これはおそらく金ファミリーの遺伝だろうが、金正恩の女遊びは半端でない。金正恩は少し前まで、平壌最高級の高麗ホテルのスイートルームに、『専属部屋』を持っていた。そこに『喜び組』の女性たちを一人ひとり呼びつけ、手込めにしていたのだ。
昨年末に北京公演に行ってドタキャンして話題を呼んだ牡丹峰楽団は、完全な『金正恩楽団』で、玄松月団長は、元金正恩のフィアンセだ。団員の美女軍団も、全員が金正恩の『お手つき』と見て間違いないだろう。これほどの享楽主義者は、戦争など望まないはずだ」
韓国で最も著名な北朝鮮研究者である鄭成長世宗研究所統一戦略研究室長によれば、金正恩第一書記のいま一番の関心事は、韓国との戦争ではなく、溺愛している妹・与正の結婚だという。
「28歳になった金与正は、金正恩第一書記の活動を全般的に補佐する秘書室長を務めていますが、彼女は最近、崔竜海書記の次男と結婚したのです。
故・金日成主席の盟友、崔賢人民武力部長の次男である崔竜海は、軍トップの総政治局長まで務めた金正恩第一書記の側近でした。しかし昨秋、長男が、禁止されている韓国ドラマを見ていたことが発覚し、連帯責任を取らされて、農村の教化所送りとなった。ところが崔竜海は、愛する与正の夫の父親でもあるため、金正恩第一書記が今年に入って、復権させたのです」
だが金正恩第一書記が、韓国との危険なチキンレースをストップさせる気配はない。
いくら指導者にその気がなくても、戦争は偶発的な一発の銃弾からも容易に起こることは、歴史が示す通りだ。世界一若い独裁者を戴く北朝鮮は、いつ暴発してもおかしくない。
<筆者プロフィール>
こんどう・だいすけ/本誌編集次長。『現代ビジネス』コラムニスト。専門はアジア情勢分析。『習近平は必ず金正恩を殺す』『金正恩の正体』他、著書多数
「週刊現代」2016年4月9日号より
◎上記事は[現代ビジネス]からの転載・引用です
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◇ 米軍内での「金正恩暗殺計画」はここまで進んでいる! 『Asagei plus』2016/4/5
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◇ 金正恩氏の元恋人 玄松月さんら、公開処刑 2013/8/20 …背景で囁かれる「夫人の醜聞」説
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