トヨタ改修延べ1000万台 中国でもRAV4不良
2010年1月29日 中日新聞朝刊
トヨタ自動車の米国リコール(無料の回収・修理)問題で、トヨタは28日、中国で生産・販売したスポーツタイプ多目的車(SUV)「RAV4」にもアクセル不良があるとして、中国当局に約7万5000台のリコールを届け出た。同じアクセル部品を使った車両のリコールは米欧などを含め計約465万台。昨秋の米フロアマット問題での自主改修を加えると、世界全体で延べ1000万台を超える空前の改修規模になる。
一連の問題で改修を要する1000万台は、トヨタ単体の2009年世界販売実績の698万台を大きく上回る。リコール対象車は米欧から南米や中東にも輸出されており、影響がさらに拡大する恐れがある。
新たに中国でリコールを届け出たRAV4は、米国などで不具合が見つかった部品と同じアクセル部品を使用している。トヨタは今回、米国230万台、欧州200万台、カナダ27万台を対象にリコールを実施するが、世界最大市場の中国への拡大で、品質の信頼性と販売への打撃が懸念される。
リコールに伴う費用負担については、アクセルを設計、製造した米部品メーカーと今後協議する。トヨタは今回の大規模リコールとは別に、昨秋に浮上した米フロアマット問題で、レクサス車などの自主改修を進めている。11月に決めた改修対象は米国とカナダで8車種、計446万台だったが、27日に「カローラ」など5車種、計109万3000台を追加した。
改修が必要になった対象車の判明分は、アクセル不良によるリコールが8車種、計約465万台、マット問題による自主改修は13車種、計約555万台。うち、主力の「カムリ」「カローラ」など6車種がいずれの対応にも重複しており、延べでは21車種、計約1020万台になる。
【解説】
トヨタ自動車が海外市場で同時多発の車両改修を抱え込んだ。昨年秋に浮上した米フロアマット問題に続くアクセル不良のリコール(無料の回収・修理)は、震源の米国から欧州、カナダ、さらに世界最大市場の中国にも拡大。延べ1000万台を超える空前の規模に膨らんだ。
トヨタは今回の米国での大量リコールを、改善策の決定前に発表した。リコールは通常、改修する部品を用意してから公表、実施するが、米国とカナダでは対象車種の生産・販売の一時停止にも踏み切り、トヨタは一連の対応を「異例の早さ」と強調している。
顧客への周知と安全確保を優先させた点は、米当局の一定の理解を得ている。しかし、安全性の根幹にかかわるアクセル部分の問題が、主要国でさみだれ式に明らかになる現状は深刻だ。日本の販売車種への影響はないとみられるが、業績への影響懸念が急速に広まり、28日の東京株式市場でトヨタ株は続落した。
トヨタは米フロアマット問題で車両欠陥を否定し、対応を顧客サービスの「自主改修」と位置付けた。その後のアクセル不良では欠陥を認め、「リコール」を表明。ただ、定義や解釈上の違いをトヨタが主張しても、車両改修を必要とする実質的な対応は同じで、品質への信頼低下は避けられそうにない。
延べ1000万台の対象車はいずれも、トヨタが急拡大の過程にあった2004年以降に生産された車種だ。部品の納入コスト削減や海外調達に本腰を入れた時期にも重なる。
豊田章男社長は昨年6月の就任時、「身の丈を超えていた」と拡大期を振り返り、規模を追求する経営との決別を宣言した。
同時に「顧客第一」「品質」を最優先する姿勢を示したが、世界の自動車メーカーに前例がない大規模リコールをどう乗り切るか。顧客への徹底した説明責任が問われている。(経済部・青柳知敏)
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“米企業化”が皮肉な結果に トヨタ改修対象700万台
産経ニュース2010.1.30 20:58
米国部品メーカーから調達したアクセルペダルの欠陥を指摘されたトヨタ自動車のリコール(回収・無償修理)問題で、自主改修を合わせた改修対象車が700万台以上となり、昨年のトヨタの世界販売台数(698万台)を上回ることが30日、分かった。1980年代の日米自動車摩擦を機に始まった日系自動車メーカーの米国生産だが、現地調達の部品を増やして「米企業」として溶け込もうとした方針が、皮肉な結果を生んだ面もありそうだ。
一連の不具合問題では、アクセルペダルが戻りにくくなる可能性から米国で約230万台、カナダで約27万台、中国で約7万5千台をリコール。トヨタが29日発表した欧州分(最大180万台)を含めると、計450万台に迫る。欧州でのリコール対象車は、2005年2月から今年1月に製造されたカローラやヤリス、RAV4などだ。
これとは別に、ペダルがフロアマットに引っかかって暴走する恐れがあるとして北米で取り組んでいる自主改修分(約555万台)を合わせると改修対象は延べ約1千万台。ただ、約260万台のリコール車の相当数が自主改修と重なるという。
米ケンタッキー州などに工場進出を果たしたトヨタが米部品メーカーからの購入拡大を進めたのは、米製部品を使わなければ「輸入されるトヨタ車と変わらない」といった批判を浴びたからだ。
トヨタが品質管理を重要課題としていたことは事実で、5年前から「CF(カスタマーファースト)活動」と呼ばれる品質向上プログラムを開始。系列部品メーカーを巻き込んで、2年前にはリコール件数を半分以下に、対象となる台数をほぼ3分の1まで落としている。
落とし穴となったのは海外での急激な事業拡大だ。ゼネラル・モーターズ(GM)の経営不振が本格化する中で増産を急ぎ、「良い品をつくる本来の『トヨタ流』から外れた」(トヨタ関係者)。国内系列メーカーと同じ品質管理を現地企業に徹底できなかった理由にも「気の緩み」(アナリスト)が影を落としたとみられる。
トヨタの社内には「日本側と米側のコミュニケーションが良くない」(自動車業界関係者)との指摘も出ている。現地主導の対応を優先し、危機管理がおろそかになったとすれば部品の不具合による「ほころび」と片付けられない課題となりそうだ。
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トヨタのリコール問題、部品共有化がはらむ危険 競争力に深刻な事態
産経ニュース2010.1.29 21:18
安全性と高い品質で世界中から信頼されてきたトヨタ自動車が、北米と中国で発表した大量リコール(回収・無償修理)問題。米国の部品メーカー1社から採用したアクセルペダルの設計に欠陥があり、同じ部品を共有化していたことから異例の規模となった。急ピッチで海外事業を拡大する戦略のつけが吹き出した格好で、トヨタの競争力の「源泉」が揺らぎかねない深刻な事態に陥った。
問題が見つかったのは、米部品メーカー、CTSが設計・製造した「フリクションレバー」と呼ばれるアクセルペダルの付け根にある部品。トヨタはCTS製のペダルを米国やカナダ、中国、欧州で販売した車に採用していた。現在、欧州各国の当局と今後の対応について協議しており、リコール対象車はさらに増える見込みだ。昨年11月、フロアマット問題で発表した約426万台の自主改修分と合わせると、重複を考慮しても対象台数は昨年のトヨタの世界販売台数の698万台を上回る可能性もある。
国内自動車主要メーカーのうちCTS製のペダルを採用しているのは、トヨタのほか日産自動車、ホンダ、三菱自動車の計4社。ただ、ペダルはメーカーごとに設計されており、トヨタのものとは形状や材料が異なるという。
関係者によると、トヨタの場合、ペダルの図面作製や素材選定などはCTSが担当し、トヨタが採用したという。今後、リコール費用に応じた補償を求めるが、トヨタは「設計の不備を見抜けなかった責任はある」としている。トヨタが国内で生産している部品はグループの部品メーカーから購入しており、国内の消費者に影響はない。
米国に進出した国内自動車メーカーは、1980年代後半から90年代にかけての日米自動車摩擦で、米国から部品の現地調達率の低さを批判された。さらに低価格の小型車に強みのある韓国メーカーの追撃を受けた。そこで、海外の部品メーカーとの取引を増やす一方、より多くの車種で部品を共有し、コストを削減してきた。海外メーカーとの厳しい競争の中で、トヨタが失墜した信頼を取り戻すの道は険しい。(鈴木正行)
◆トヨタ「世界800万台回復」 米で8車種の販売一時停止(リコール対象)=トヨタ株下落
2010年1月29日 中日新聞朝刊
トヨタ自動車の米国リコール(無料の回収・修理)問題で、トヨタは28日、中国で生産・販売したスポーツタイプ多目的車(SUV)「RAV4」にもアクセル不良があるとして、中国当局に約7万5000台のリコールを届け出た。同じアクセル部品を使った車両のリコールは米欧などを含め計約465万台。昨秋の米フロアマット問題での自主改修を加えると、世界全体で延べ1000万台を超える空前の改修規模になる。
一連の問題で改修を要する1000万台は、トヨタ単体の2009年世界販売実績の698万台を大きく上回る。リコール対象車は米欧から南米や中東にも輸出されており、影響がさらに拡大する恐れがある。
新たに中国でリコールを届け出たRAV4は、米国などで不具合が見つかった部品と同じアクセル部品を使用している。トヨタは今回、米国230万台、欧州200万台、カナダ27万台を対象にリコールを実施するが、世界最大市場の中国への拡大で、品質の信頼性と販売への打撃が懸念される。
リコールに伴う費用負担については、アクセルを設計、製造した米部品メーカーと今後協議する。トヨタは今回の大規模リコールとは別に、昨秋に浮上した米フロアマット問題で、レクサス車などの自主改修を進めている。11月に決めた改修対象は米国とカナダで8車種、計446万台だったが、27日に「カローラ」など5車種、計109万3000台を追加した。
改修が必要になった対象車の判明分は、アクセル不良によるリコールが8車種、計約465万台、マット問題による自主改修は13車種、計約555万台。うち、主力の「カムリ」「カローラ」など6車種がいずれの対応にも重複しており、延べでは21車種、計約1020万台になる。
【解説】
トヨタ自動車が海外市場で同時多発の車両改修を抱え込んだ。昨年秋に浮上した米フロアマット問題に続くアクセル不良のリコール(無料の回収・修理)は、震源の米国から欧州、カナダ、さらに世界最大市場の中国にも拡大。延べ1000万台を超える空前の規模に膨らんだ。
トヨタは今回の米国での大量リコールを、改善策の決定前に発表した。リコールは通常、改修する部品を用意してから公表、実施するが、米国とカナダでは対象車種の生産・販売の一時停止にも踏み切り、トヨタは一連の対応を「異例の早さ」と強調している。
顧客への周知と安全確保を優先させた点は、米当局の一定の理解を得ている。しかし、安全性の根幹にかかわるアクセル部分の問題が、主要国でさみだれ式に明らかになる現状は深刻だ。日本の販売車種への影響はないとみられるが、業績への影響懸念が急速に広まり、28日の東京株式市場でトヨタ株は続落した。
トヨタは米フロアマット問題で車両欠陥を否定し、対応を顧客サービスの「自主改修」と位置付けた。その後のアクセル不良では欠陥を認め、「リコール」を表明。ただ、定義や解釈上の違いをトヨタが主張しても、車両改修を必要とする実質的な対応は同じで、品質への信頼低下は避けられそうにない。
延べ1000万台の対象車はいずれも、トヨタが急拡大の過程にあった2004年以降に生産された車種だ。部品の納入コスト削減や海外調達に本腰を入れた時期にも重なる。
豊田章男社長は昨年6月の就任時、「身の丈を超えていた」と拡大期を振り返り、規模を追求する経営との決別を宣言した。
同時に「顧客第一」「品質」を最優先する姿勢を示したが、世界の自動車メーカーに前例がない大規模リコールをどう乗り切るか。顧客への徹底した説明責任が問われている。(経済部・青柳知敏)
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“米企業化”が皮肉な結果に トヨタ改修対象700万台
産経ニュース2010.1.30 20:58
米国部品メーカーから調達したアクセルペダルの欠陥を指摘されたトヨタ自動車のリコール(回収・無償修理)問題で、自主改修を合わせた改修対象車が700万台以上となり、昨年のトヨタの世界販売台数(698万台)を上回ることが30日、分かった。1980年代の日米自動車摩擦を機に始まった日系自動車メーカーの米国生産だが、現地調達の部品を増やして「米企業」として溶け込もうとした方針が、皮肉な結果を生んだ面もありそうだ。
一連の不具合問題では、アクセルペダルが戻りにくくなる可能性から米国で約230万台、カナダで約27万台、中国で約7万5千台をリコール。トヨタが29日発表した欧州分(最大180万台)を含めると、計450万台に迫る。欧州でのリコール対象車は、2005年2月から今年1月に製造されたカローラやヤリス、RAV4などだ。
これとは別に、ペダルがフロアマットに引っかかって暴走する恐れがあるとして北米で取り組んでいる自主改修分(約555万台)を合わせると改修対象は延べ約1千万台。ただ、約260万台のリコール車の相当数が自主改修と重なるという。
米ケンタッキー州などに工場進出を果たしたトヨタが米部品メーカーからの購入拡大を進めたのは、米製部品を使わなければ「輸入されるトヨタ車と変わらない」といった批判を浴びたからだ。
トヨタが品質管理を重要課題としていたことは事実で、5年前から「CF(カスタマーファースト)活動」と呼ばれる品質向上プログラムを開始。系列部品メーカーを巻き込んで、2年前にはリコール件数を半分以下に、対象となる台数をほぼ3分の1まで落としている。
落とし穴となったのは海外での急激な事業拡大だ。ゼネラル・モーターズ(GM)の経営不振が本格化する中で増産を急ぎ、「良い品をつくる本来の『トヨタ流』から外れた」(トヨタ関係者)。国内系列メーカーと同じ品質管理を現地企業に徹底できなかった理由にも「気の緩み」(アナリスト)が影を落としたとみられる。
トヨタの社内には「日本側と米側のコミュニケーションが良くない」(自動車業界関係者)との指摘も出ている。現地主導の対応を優先し、危機管理がおろそかになったとすれば部品の不具合による「ほころび」と片付けられない課題となりそうだ。
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トヨタのリコール問題、部品共有化がはらむ危険 競争力に深刻な事態
産経ニュース2010.1.29 21:18
安全性と高い品質で世界中から信頼されてきたトヨタ自動車が、北米と中国で発表した大量リコール(回収・無償修理)問題。米国の部品メーカー1社から採用したアクセルペダルの設計に欠陥があり、同じ部品を共有化していたことから異例の規模となった。急ピッチで海外事業を拡大する戦略のつけが吹き出した格好で、トヨタの競争力の「源泉」が揺らぎかねない深刻な事態に陥った。
問題が見つかったのは、米部品メーカー、CTSが設計・製造した「フリクションレバー」と呼ばれるアクセルペダルの付け根にある部品。トヨタはCTS製のペダルを米国やカナダ、中国、欧州で販売した車に採用していた。現在、欧州各国の当局と今後の対応について協議しており、リコール対象車はさらに増える見込みだ。昨年11月、フロアマット問題で発表した約426万台の自主改修分と合わせると、重複を考慮しても対象台数は昨年のトヨタの世界販売台数の698万台を上回る可能性もある。
国内自動車主要メーカーのうちCTS製のペダルを採用しているのは、トヨタのほか日産自動車、ホンダ、三菱自動車の計4社。ただ、ペダルはメーカーごとに設計されており、トヨタのものとは形状や材料が異なるという。
関係者によると、トヨタの場合、ペダルの図面作製や素材選定などはCTSが担当し、トヨタが採用したという。今後、リコール費用に応じた補償を求めるが、トヨタは「設計の不備を見抜けなかった責任はある」としている。トヨタが国内で生産している部品はグループの部品メーカーから購入しており、国内の消費者に影響はない。
米国に進出した国内自動車メーカーは、1980年代後半から90年代にかけての日米自動車摩擦で、米国から部品の現地調達率の低さを批判された。さらに低価格の小型車に強みのある韓国メーカーの追撃を受けた。そこで、海外の部品メーカーとの取引を増やす一方、より多くの車種で部品を共有し、コストを削減してきた。海外メーカーとの厳しい競争の中で、トヨタが失墜した信頼を取り戻すの道は険しい。(鈴木正行)
◆トヨタ「世界800万台回復」 米で8車種の販売一時停止(リコール対象)=トヨタ株下落