[なぜシリアは空爆されるのか? 日本よ、本当の外交に目覚めろ] 伊吹太歩の時事日想

2013-09-05 | 国際

伊吹太歩の時事日想:なぜシリアは空爆されるのか? 日本よ、本当の外交に目覚めろ
2013年09月05日 06時45分 更新 [伊吹太歩,Business Media 誠]
 ここ最近、世界のトップニュースはやはりシリアだろう。大量破壊兵器である化学兵器を使ったとして米国が軍事介入することになりそうだからだ。中東の安定の鍵を握るシリアを親米国家にしたいとずっと考えてきた米国。オバマ大統領は9月1日、9日から再開する米議会の承認を得た上でシリアを空爆すると発表した。
 すると安倍晋三首相はすぐにこうコメントした。「米国をはじめ国際社会としっかり連携を取りながら(シリア情勢が)少しでも改善していくよう対応していきたい」(参照リンク)
 この言葉を額面通りに受け取るなら、日本は米国の対シリア武力行使には関知しないことになる。なぜなら、国際社会は武力行使に関わらないからだ。
■結局、安倍首相は米国の武力行使を支持するだろう
 国連は決して武力行使にゴーサインを出さないし(ロシアと中国が反対するから)、米国が一緒に攻撃すると考えていた英国は議会が武力介入を否決した。ドイツも米国に協力しない。唯一フランスは米国に協力する可能性がある(ただフランス世論は大反対しているのでどうなるかまだ分からない)。
 結局は米国がほぼ単独に近い形で、シリアを攻撃することになりそうだ(米大手メディアには、議会に判断を委ねるのはギャンブルだとする向きもある)。国際社会は不在になるので、安倍首相も武力行使を支持しない方向に傾く……なんてことになるはずもなく、結局、米国寄りの安倍首相は最後には「米国の決断を支持する」、つまり「武力行使を支持する」ということになるだろう。
 とにかくまたしても米国が単独主義で突っ走る可能性が高い。だが日本はそろそろ、米国の根拠の乏しい「武力行使」に対して冷静に反応し、日本しかできない外交で違った存在感を示すべきではないだろうか。
■化学兵器の使用疑惑は2012年初頭からあった
 なぜ、シリアは空爆されなければいけないのか? 2年半も内戦状態が続いている「シリア内戦」について、できる限り簡潔にすべてが分かるよう説明したい。
 チュニジアとエジプトで起きた「アラブの春」が周辺国に広がる中、シリアでは2011年3月に反政府運動が始まった。バシャル・アサド大統領率いる政府と反アサド勢力がお互いを攻撃し合い、これまでに10万人といわれる死者を出している。さらに暴力を逃れるために隣国のトルコやレバノン、イラクなどに難民があふれ、その数は170万人にも達する。
 攻撃の応酬が続く中、2012年になって化学兵器が使われたという話が出始めた。アサド政権も反アサド勢力も化学兵器を持っている。結局、化学兵器もどちらが使っているのか分からない状況が続いた。そして2012年夏、オバマ米大統領は化学兵器の使用を「最後の一線」と呼び、使ったら武力行使すると脅した。
 そして2013年8月21日、何者かが(政府軍か反アサド勢力かは分からない)首都ダマスカス近郊に化学兵器による攻撃を行ったことで、米政府は「最後の一線」を越えたと判断、「武力行使だ!」となったのだ。
 ちなみに反アサド勢力にはさまざまな組織があり、国外のテロリスト、例えば国際テロ組織であるアルカイダ系などもいる。彼らの目的はアサド政権を崩壊させるだけでなく、シリアをイスラム国家にすることだ。反アサド勢力の中にそんな集団もいるため、米国は少し前まで反アサド勢力に対して大々的に協力できなかった。
■米国は発言力を維持するために引けなくなった
 今回、化学兵器が使用されたという報道で、安倍首相は「日本政府としてはシリアで化学兵器が使用された可能性が極めて高いと考えている。化学兵器使用はいかなる場合でも許されるものではない」と語った。
 だがこれは当たり前のことを言っているに過ぎない。結局のところ、問題は化学兵器が使われたかどうかではなく、「誰が」使ったのかということだからだ。米国は「最後の一線」なんて余計なことを言ってしまったから、今になって後に引けない。攻撃しなければならない。そうしないと核兵器開発中のイランなど他の国への発言力が弱まる。
 じゃあ、米国が支援を表明している反アサド勢力が使ったのだとしたら、米国は反アサド勢力を攻撃するのだろうか? 答えはノーだ。だからこそ無理にでもアサドの仕業にしなければならず、アサド政権に責任があると言い張っている。なぜなら、さまざまな事情でアサドに有利になることなど、できっこないのだ。例えば、シリア領土の一部を占領している親米国家イスラエルの手前だ。
 ともかく、そんな怪しい状況のシリアで米国は空爆を実施することになる。かなり米国寄りである安倍首相は、オバマがシリア空爆に乗り出したら、迷うことなく支持を表明するだろう。かつて小泉純一郎首相が、結局ウソだった「イラクにおける大量破壊兵器の存在」で米国に同調したように。
■日本よ、本当の外交に目覚めたらどうか?
 筆者は「日本は米国を支持すべきではない」と考えている。なぜならば日本という国はシリア人からも尊敬の眼差しで見られているからだ。彼らは経済的・文化的な側面から信頼感すら抱いている。こうした見方は世界的に共通しており、第二次大戦で日本人が踏み荒らした東南アジアの国々も同じように感じている。極めて数少ない例外は、中国と韓国、そして北朝鮮だけだ。
 実は内戦が発生する前、アサドは米国の経済制裁などで疲弊した経済を立て直すために、水面下で米国寄りに動いていた。例えば9.11米同時多発テロ以降は、テロ組織などの情報提供をCIAに行っていた(結局はそれに米国が誠意を持って応えなかったので、反米であるイランの経済支援に頼るようになってしまったのだが)。
 日本はこうしたシリアの状況を逆手に取り、経済的な支援などでシリアへの影響力を高めることもできたはずだし、内戦勃発後、「戦争はしない」日本が欧米とシリアの間に立つこともできただろう。もちろんそれには中長期的な分析とそれを実現しようとする外交官の資質、そして長いプロセスが必要になる。でもそんな役回りが世界中でできるのは、日本を含めた数少ない国しかないともいえる。
 それを自覚して、世界中で日本のプレゼンスを高めるために、本当の外交を日本には行ってもらいたいものである。「日本とならば」と話をしてくれる国は、シリアをはじめ世界中にたくさんあるのだから。
<筆者プロフィール>伊吹太歩
 出版社勤務後、世界のカルチャーから政治、エンタメまで幅広く取材、夕刊紙を中心に週刊誌「週刊現代」「週刊ポスト」「アサヒ芸能」などで活躍するライター。翻訳・編集にも携わる。世界を旅して現地人との親睦を深めた経験から、世界的なニュースで生の声を直接拾いながら読者に伝えることを信条としている。
 *上記事の著作権は[Business Media 誠]に帰属します
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