産経ニュース 2016.3.19 10:00更新
【栃木女児殺害事件公判・第3週】勝又被告「取調官に良い印象を持たせたかった」
平成17年に起きた栃木県今市市(現日光市)の女児殺害事件で殺人罪に問われた栃木県鹿沼市、無職、勝又拓哉被告(33)の裁判員裁判は、3月15日の第11回公判で、吉田有希ちゃん=当時(7)=の殺害を全面的に認めて詳細に供述する取り調べの録音・録画が再生された。被告人質問は11~16日と続き、17日には任意性に関する中間論告があった。
■取り調べの録音・録画
映像が再生された取り調べのやり取りの一部。
《被告が殺害を全面的に認めた26年6月11日の取り調べ》
検事「人の道だよ。逃げちゃ駄目。有希ちゃんを殺したのは君だね。拓哉君」
被告「はい(うなずく)」
検事「君だね」
被告「はい(うなずく)」
検事「君が殺したんだね」
被告「はい(泣きながらうなずく)」
検事「心の底から言えているか」
被告「はい」
検事「償う気持ちになってくれたか」
被告「はい」
検事「本当に立ち直る気になったか。弁護士にも言えるか」
被告「今日言いたいと思う」
検事「有希ちゃんはどこで殺した」
被告「現場で」
検事「違うんじゃないか」
被告「現場で間違いない」
検事「どうやって有希ちゃんを下ろした。騒がなかったか」
被告「騒がなかった」
検事「ずっとか」
被告「ずっと」
検事「どうやって下ろした」
被告「だっこみたいな感じで(身ぶりを加える)」
検事「どうやって抱えた」
被告「こうやって、両手を脇下に入れて抱えた。(身振りを加えて)有希はこっちを向いていた(自分の方を指す)自分の方を向いていた」
検事「ナイフはどこにあった」
被告「助手席のダッシュボードにあった」
検事「いつ手にした」
被告「有希ちゃんを下ろす前」
検事「ナイフを持ったまま有希ちゃんを下ろした?」
被告「持ったまま」
検事「ナイフはどっちの手に持った」
被告「右手」
検事「どんなナイフ」
被告「バタフライナイフ」
検事「有希ちゃんを寝かせたのか」
被告「立たせた」
検事「どうやって立たせた」
被告「左手で肩の方を支えて(身ぶり手ぶりを加える)」
検事「どうやって刺した」
被告「抱えて刺した(左手を上げたまま、右手で刺す動作をする)」
検事「何回刺した」
被告「5回ぐらい」
検事「そこから」
被告「倒れ始めて、また何回か刺した」
検事「何で何回も刺した」
被告「(有希ちゃんが)早く楽にならないかと思って…。あと何回か刺せば、死んで楽になるんじゃないか。苦しませないようにと思った」
検事「どうしてナイフで刺そうと思ったか」
被告「(息が荒くなる)顔を見られているし、車も見られているし、アパートも見られているし、万が一しゃべられたら姉と母、妹たちが困ることになる。このまま殺すしかないと思った」
検事「有希ちゃんを殴ったことはあるだろう」
被告「ない」
検事「今話して、どういう気持ちだ」
被告「すごい楽になった」
検事「弁護士にちゃんと話せるか」
被告「もう決心した」
検事「どうして決心できた」
被告「人の道の方が楽だと思った。もう逃げたくないと思った」
《取り調べの録音・録画は連日再生された。26年3月2日の取り調べ》
検事「有希ちゃんが『えっ』って驚くような感じで車に乗ったと言ったよね。助手席に?」
被告「後ろだった」
検事「乗せてどこに向かった」
被告「覚えてない」
検事「山とか行かなかった?」
被告「うん。山みたいな所っていうか、山だね」
検事「案内できる? 覚えてないの?(被告はうなずいて『ふー』と声を出す)拓哉さ、頑張ってるよ君は」
被告「ふーはー。(顔を上下させ)ごめんなさい。ほんと、今日これ以上…」
検事「(返り血などで)手とか洗う必要あんじゃない」
被告「トイレ…公衆トイレ…分かんない」
検事「公園のトイレ? サービスエリアの?」
被告「ああー。これ以上無理。ちょっと厳しい、厳しい…」
《3月14日》
検事「遺体を捨て、常磐道にはどっから乗った」
被告「一番可能性があるのは水戸(IC=インターチェンジ)から那珂(IC)まで行ったか、那珂から日立南(太田IC)まで行ったか…」
検事「どっちの可能性が高い」
被告「水戸から那珂の方が可能性高い。出たときの記憶と、何か合致すると思うから。まっすぐ行くと左が山のトンネルとか、右側の看板とか」
検事「そこの那珂ICは事件のとき以外行ったことないの?」
被告「使わない」
《3月19日》
検事「君、今日は額の右をすってる痕があるけどどうした?
被告「壁にぶつけた」
検事「自分で?(被告がうなずく)いつやったの」 被告「取り調べ中に」(検事は傷の痕について質問を重ねたが、被告は無言)
3月11日
謝罪手紙、警察官は書き直し指示を否定、被告は「嘘をついている」
第9回公判では10日に続き取り調べの録音・録画が再生された。勝又被告が商標法違反事件で起訴され、勾留中だった26年3月2~28日の計7日間、宇都宮地検で男性検事が任意で取り調べた際の映像で計約55分。被告が直接、有希ちゃんを殺害したとする証言はないが、殺害を前提した現場への足取りやわいせつ行為について供述する場面もある。被告は同年2月18日午前、この検事に対して殺害を初めて自白、供述調書にサインしたとされるが、録音・録画されているのは同日午後から。
3月2日の映像では「殺害した際に返り血を浴びたはずだ。洗ったのか」と問われ、勝又被告は「公衆トイレに寄った」と答えた。どの日の映像も被告は泣きじゃくりながら沈黙するシーンが多く、同7日には、検事が「しゃべらないで罰せられるのと、しゃべって罰せられるのはどっちがいいんだ」と大声を出す場面もあった。
また、今市署の留置担当だった警察官が出廷、「殺人事件を母親に謝罪する内容」と検察側が主張する手紙の書き直しを指示したことを否定した。勝又被告は3日の被告人質問で「班長と呼ばれていた看守」に当初書いた手紙の一部を黒塗りされ、「詳しく書いたら駄目だ」と口頭で書き直しを指示されたと証言した。この日出廷した警察官は「黒塗りや書き直しの指示はしたか」との検察官の質問に「していない」と答えた。警察官は、勝又被告から「間違ったので便箋を補充してほしい」との申し出があり、新しい便箋を2回渡した経緯を証言。
一方、午後の被告人質問では、勝又被告が、出廷した警察官を書き直しを指示した看守だと認め、「あの人は嘘をついていると思う」と答えた。検察官が「何でそんな嘘をつくと思う」と質問すると、「事件のことに触れている手紙がまずいから」と答えた。
被告人質問では、勝又被告が、遺棄現場から立ち寄ったコンビニエンスストアや手を洗った公衆トイレなどの自白を「厳しい取り調べをかわすため」の嘘だったと淡々と述べた。殺害を自白した後の26年4月に「第三者が殺害した」と供述を変遷させたといい、被告は「作り話であまり覚えていないが、話をしたら刑事が優しくなった」と述べた。
3月14日
警察官、「刑軽く」自白誘導を否定。
第10回公判では、3人の警察官が出廷。「自白をすれば刑が軽くなる」という自白の誘導や自白の強要、暴力行為などをいずれも否定した。勝又被告は、警察官から「懲役20年で出てきたらまだ50歳だから人生やり直せる」と諭されたことを証言しているが、出廷した警察官は「心配事がないか聞いたら、弁護士から量刑について聞いたことを確認したいという趣旨だった」と勝又被告が持ち出した話として否定した。
被告人質問もあり、殺人容疑で逮捕後の26年6月の取り調べについて、弁護人が「なぜ調書にサインしたのか」と聞くと、被告は「検事に『時間延ばしをしている』と言われた。これ以上、時間を延ばしたら、前みたいに厳しい取り調べが始まると受け止めた」と答えた。
また、殺人容疑で逮捕後、警察官による取り調べの録音・録画が再生された。
26年6月3日、逮捕直後の弁解録取では、被告が数分間の沈黙の末、「弁解することはない。間違いない」と述べた。取り調べの警察官に「弁解することはないってことでいいのかな」と念押しされ、「ごめんなさいしか…」と小声で答えた。警察官が「今、言えることは吉田有希ちゃんへのごめんなさいの気持ちだけです」と補完して弁解録取書を作成、被告は無言で署名した。
しかし、同日夜は一転して容疑を否認。「殺してない。弁護士に殺していないなら殺していないと正直に言った方が良いと言われた」と主張を翻した。
その後、勝又被告は「今は言えないけど待ってほしい」「調書はまだ取れない。あと2、3日待って」と供述を拒む。一方で警察官が「スタンガンを有希ちゃんのどこに当てたの」と質問すると、左手で自分の首の右側を指したり、わいせつ行為や有希ちゃんのランドセルの処分方法などを詳細に供述して再び容疑を認め、主張を二転三転させている様子が映し出された。
3月15日
身ぶり手ぶり交え、殺害状況を供述する被告
第11回公判では、録音・録画された男性検事による取り調べの映像の中で、被告が有希ちゃんの殺害を全面的に認め、身ぶり手ぶりを交えて詳細に供述する場面が映し出された。26年6月11日の映像は、検察側が自白の任意性の立証に向け、最も重要と位置付けている。再生された映像では、検事に「殺したのは君だね」「心の底から言えているか」と念押しされた勝又被告は泣き始め、「はい」と何度もうなずいた。
勝又被告は「車の助手席のダッシュボードにあったバタフライナイフで刺した」と述べ、有希ちゃんを車から下ろす際の手順や、有希ちゃんの体を左手で支え、ナイフを持った右手を正面に突き出す動作をして、殺害状況を再現。有希ちゃんが倒れる様子も説明した。被告が最後に「(話すことができて)楽になった」「もう逃げたくないと思った」と述べ、供述までに葛藤があったとうかがわせる場面だった。
法廷で映像が再生される間、勝又被告は淡々として表情をゆがめることもなく、時折メモを取るなどしていた。弁護人は映像が流れる前に「この検事はアンカー的な役割。過去の取り調べと断絶していない点を考慮して見てほしい」と裁判員らに訴えた。
3月16日
「刑軽くするため」供述変遷理由を説明する被告
第12回公判。被告人質問では、取り調べを担当した刑事や検事によって供述を変遷させた理由を「有罪になったとき、刑が軽くなるようにと思った」と述べ、相手に良い印象を持たせるため話を合わせたと説明した勝又被告。26年6月11日の取り調べで、有希ちゃん殺害を全面的に認めた理由について「検事に『もう自白も必要ない』と言われ、自白しないと刑が重くなると思った」と説明した。
また、証人として出廷したDNA鑑定などを担当する警察庁職員は、有希ちゃんの遺体から被告のDNA型が検出されていないことについて「(遺体に付いた)被害者の血液量が多いと、血液を含まず検査するのは難しい。(付着した別人の)DNA型は検出できない」と証言した。
3月17日
自白の任意性めぐり中間論告・弁論。いよいよ佳境に
争点となっている被告の自白の任意性をめぐり中間論告・弁論が行われた。検察側は、26年6月、殺人容疑で被告が逮捕された後、検事が取った自白調書を立証の柱として証拠請求しており、論告で「被告は検事の真摯(しんし)な説諭に心を動かされて自白し、調書の訂正や削除を求めるなど自分の意思も主張している」とした。一方、弁護側は「被告は強制的な取り調べから逃れたいと思い、利益誘導によって刑を軽くしようと嘘の自白をした」として、調書に任意性はないと訴えた。
また、被告人質問では、被告は供述を変遷させた理由を、「取調官に良い印象を持たせたかった」との主張を繰り返した。取り調べの中では「遺体遺棄現場は殺害現場とは違うのでは」と指摘された際、はっきりと否定しており、裁判官はこの点、「殺害現場が違っても刑は変わらないのでは」と質問すると、被告は「自宅と言っても警察の捜査で一発で分かると思うし、あと言えるのは現場くらいしかないと思った」と説明した。
また、有希ちゃんの通っていた小学校は被告自身の出身校で、「出身校だから興味があった。ニュースとかを見た」として、供述にはニュースなどの影響があることを示した。裁判員は、法廷で計7時間以上再生された取り調べの録音・録画を見ていた際の気持ちを尋ね、被告は「何でそのとき(無罪の主張を)はっきりと言わなかったんだろう」と後悔を口にした。
◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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◇ 今市事件裁判 第2週(2016/3/4~3/10)「自白の任意性争点」証人尋問・被告人質問・取り調べ録画再生
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