「安達原」の枠枷輪 時を巻き戻す装置  (四・五番目物 鬼女物) 2019/6/28

2019-07-02 | 本/演劇…など

【伝統芸能】
<お道具箱 万華鏡>「安達原」の枠枷輪 時を巻き戻す装置
 2019年6月28日

   
   使う人の側から見た枠枷輪。実際の舞台に出される糸は、象徴としての糸。麻ではないことが多いようだ

 「見てはいけない」と言われると、心に潜む悪い虫が動いてしまうものだ。
 能「安達原(あだちがはら)」では、旅をする山伏の一行が、老女から見るなと言われた寝室をのぞいてしまう。そこにあったのは、死骸の山。老女は、鬼女だったのだ。安達原というのは福島県の地名で、郡山の少し北あたりである。
 物語の前半に、老女が糸車を回す場面がある。昔を思い出し、己の人生のむなしさを嘆く。切ないけれど、ここが見どころのひとつ。歌を謡いながら糸車をゆっくりと回し始めたら「時間が巻き戻され、幻影が現れているんだな」と想像してみよう。なぜ、巻き戻るかは、のちほど。
 能では、この糸車を枠枷輪わくかせわ)と呼ぶ。糸をつむぐ道具なのだが、どういう工程を担っているのか。染織を研究している東京文化財研究所の菊池理予さんと一緒に国立能楽堂に出かけ、実物を見てきた。
 まず気になるのが糸の種類。菊池さんによると、謡に真麻苧まそう)という言葉があることや、福島は昔から麻の産地であることから、麻の可能性が高いとのこと。 能「安達原」。シテ(上田公威)が手にしているのが枠枷輪。糸枠を回し、大きな枠から糸を巻き取っていく=国立能楽堂提供

   

  作業内容については、取材後に菊池さんが福島県でからむし(苧麻(ちょま))を生産している技術者に確認をしてくれた。「糸車を回す場面は、繊維から糸にした後、つなぎ目がきちんとできているか、余計なクズがついていないか等の点検をする工程だと思う」と菊池さん。糸を「巻き返す」作業をしているから、時を逆戻りさせる装置にもなりえたというわけだ。
 さて、この「安達原」(観世流以外では「黒塚」)は、八月の国立能楽堂で見るチャンスがある。外国人や初心者向けの「ショーケース」という特別企画で、二十五~二十七日の三日連続で上演される。字幕は、日、英、中、韓の四言語。二十七日は午後七時開演。仕事帰りでも間に合いそうですよ。 (伝統芸能の道具ラボ主宰・田村民子)

    ◎上記事は[東京新聞]からの転載・引用です *強調(=太字)は来栖

――――――――――――――――――――――――
『黒塚』の白頭について 能「黒塚」安達が原 


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。