共謀罪の足音

2008-08-28 | 社会

 『欲望という名の電車』や『エデンの東』を手がけ、マーロン・ブランド、ジェームス・ディーンを発掘したアメリカの映画監督エリア・カザンは、その一方で「タレコミ屋」の後半生を生きなければならなかった。1950年代はマッカーシズムと呼ばれた赤狩り=反共旋風が吹き荒れ、ハリウッド関係者の中の共産党員や同調者が密告され、当局に売られる不信と嫌悪の時代だった。
 人間はなぜ権力の前にひれ伏して仲間や友人を裏切るのか。なぜ情報提供者になったのか。多くの関係者の証言や資料をふんだんに駆使して、その心理的葛藤や周囲との関係などを解き明かしているのは、『ハリウッドの密告者ー1950年代アメリカの異端審問』(論創社)だ。
 この長大な1冊は『ネーション』誌の編集長だったヴィクター・S・ナヴィスキーの『ネーミング・ネームズ』の翻訳だが、これを過去のアメリカで起きた事件として片付けるわけにはいかない。日本にも国家権力が個人の政治信条や生き方を調査して密かに監視した時代があり、訳者の三宅義子は、これからもあり得ないなどと能天気ではいられないことを教えている。2006年に国会で、相互監視を促す共謀罪法案が審議されていたのだ。(不信時代)

【大波小波】 中日新聞夕刊2008/08/28

http://www.k4.dion.ne.jp/~yuko-k/adagio/kyohbohzai.htm


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