企業も正社員の雇用を維持することを優先して考えた結果が、内定切りになっている。

2009-01-07 | 社会

<日本の選択点>内定取り消し 若者にツケ いいのか
 私大生・吉田健太郎さん(22)=仮名=は、あの瞬間のことを忘れられない。昨年十一月十七日午後八時。横浜市の自室で「内定切り」の電話を受けた時のことだ。
 「声も出ない。涙も出ない。訳が分かりませんでした」
 二〇〇七年秋から就職活動を始め、二十社ほど受けた。昨年四月、日本綜合地所から内々定を受けた。最終面接では「君には営業力があると感じた。期待してます」と太鼓判を押されていた。
 絶頂からどん底へ。昨年十二月、同じように内定を取り消された学生二人と日本綜合地所で団体交渉を行ったが決裂。会議室を後にした吉田さんは雨が降る中、立ち尽くした。
 両親からは「済んだことは仕方ない。前に進め」と励まされた。友人は気を使い吉田さんの前では就職の話をしない。
 年が明けた今、留年を決意。一〇年の就職に向けた活動を再開した。卒業旅行はキャンセルした。 景気の低迷は、大学生の人生を狂わせた。昨年上半期、好調な経営を想定して企業は前年以上の内定者を出した。その学生から、昨年末で七百六十九人の内定取り消しが報告され、今も増えている。第二次就職氷河期の到来だ。
 七百六十九人は氷山の一角にすぎない。私大四年の香山孝子さん(22)=仮名=は、昨年四月に中堅不動産会社から内定を得た。しかし七月中旬、会社から手紙が来た。「経営が厳しくなったので初任給をお約束できません」
 八月下旬に本社へ出向くと幹部が内定辞退を求めてきた。「絶対辞退しません」と部屋を飛び出した。結局、同社はその後、経営破たん。統計上は七百六十九人の中に入らないが、苦しみは同じだ。 学生時代にはもう着る必要がないと思っていたリクルートスーツに再び袖を通した香山さん。「なんで、まだこんなことしてるの」。駅のトイレに駆け込んで泣いた。
 二十二歳で泣き寝入りを強いられる彼らには誰もが同情する。しかし、効果的な救済の動きは見えてこない。吉田さんは学校に報告したが「実際、何もしてくれなかった」。
 労組もあまり頼りにならない。労組は、既に採用された社員で構成する。内定者の採用確保が正社員解雇につながる恐れを感じれば、学生を救おうという思いも、なえてしまう。企業も正社員の雇用を維持することを優先して考えた結果が、内定切りになっている。
 会社の中核となる正社員の雇用を優先に考えるのはやむを得ないことなのか。内定学生も正社員と同様に処遇すべきなのか。与えられるパイが不況により縮小する中で、日本が迫られる選択だ。中日新聞2009年1月7日

http://www.k4.dion.ne.jp/~yuko-k/adagio/kan-amamiya.htm


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