ドバイショックで浮き足立つ 鳩山政権の軽すぎるノリが危ない

2009-12-05 | 政治
岸 博幸(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)Diamond Online  2009年12月04日
 日銀が急遽金融緩和策を発表しましたが、最近の民主党政権の経済運営を見ていると、いよいよ迷走し始めたようにしか思えません。そこで今週は、この問題を考えてみたいと思います。
軽い経済運営
 それにしても民主党政権の経済運営は“軽い”と言わざるを得ません。これまでの3ヶ月弱を見ても、そもそも経済財政担当大臣である菅副総理が経済運営の司令塔の役割を事実上放棄する一方で、藤井財務大臣が円高容認発言をしたり、亀井金融担当大臣がモラトリアム宣言をしたりと、各人が好き勝手をやっている印象でした。
 特に、11月下旬になって菅副総理が突然のデフレ宣言をしましたが、これもおかしな話です。デフレという認識を示すならばそれへの対応策も同時に示すべきなのに、対策は一切なしで状況認識だけを表明するという、ちょっと素人じみた行動でした。
 そうした中、先週ドバイ・ショックが起きて円高と株安が一気に進むと、唐突に第2次補正予算の議論が盛り上がり、当初は3兆円弱と報道されていた財政出動の規模が7兆円に増えたかと思ったら、唐突に日銀が10兆円の資金供給という“量的金融緩和”を決定したのですが、正直、この“政府・日銀一体での場当たり的な対応”には目を覆いたくなります。
危機は今に始まったことではない
 そもそも、既にだいぶ前の段階から日本経済には危険信号が灯っていました。鳩山政権が発足した9月以降ドバイ・ショックまでの株価の推移を見ると、同じ経済危機の影響を受けている欧米の株価がだいたい7~8%上昇しているのに対し、日本の株価だけは同率下がっていたのです。
 これは、日本経済のパフォーマンスもさることながら、鳩山政権の経済運営に市場が懸念を持っているからに他なりません。海外の市場関係者は、政権の経済運営に関する予見可能性の低さを指摘しています。バラマキ政策で財政規律は大丈夫なのか、経済を成長させるのか、という二つの政策不信です。
 それなのに、行政刷新会議の事業仕分けが行われている最中は内閣全体がそれにかまけて、政治的ショーアップが終わってドバイ・ショックが起きた途端に、浮き足立ったように第2次補正予算だ金融緩和だとなるのですから、これでは市場の信頼を得られるはずがありません。
改めて分かったこと
 鳩山政権の経済運営の稚拙さは今に始まったことではありませんが、今回の第2次補正予算と金融緩和を巡る動きを見ていて、改めて二つのことが分かりました。
 第一は、政府はマクロ経済運営の責任を放棄しているということです。本来財政出動の規模は、需給ギャップの規模の把握、デフレ克服や成長率の目標など、マクロ経済に関する現状把握を踏まえて決められるべきものです。
 しかし、流布している7兆円という数字は、そのようなプロセスの結果として出てきたとは思えません。民主党が3兆円を主張し、国民新党が11兆円超を主張し、その二つの数字を足して二で割ったようなものです。かつ、実質的な財政出動は4兆円のようですが、報道されている補正予算の中身を見ると、自民党政権時代の景気対策の延長の陳腐なものばかりです。大騒ぎして春の第一次補正予算から減額したカネの使い道がこの程度では、残念と言わざるを得ません。
 第二は、日銀は政治的に動く、でも能力は著しく低いということです。日銀は10月にCP買い取りを終了したばかりです。ドバイ・ショックで突如デフレや円高が始まった訳ではありません。それなのに、政権が騒ぎ出してプレッシャーがかかり出すと判断を変更して、日銀総裁が総理と会う前に市場が評価しない申し訳程度の金融緩和を打ち出すというのでは、一国の中央銀行としてはレベルが低過ぎるのではないでしょうか。
 この二つの事実から、改めて日本経済の危機的状況を実感せざるを得ません。もうこれはほとんど人災です。まだ世界第二の経済大国のはずの国の財政政策と金融政策の双方の司令塔が、この程度のレベルなのですから・・・。
 政権の中には、その辺も含めて真っ当な問題意識を持ち、正しい財政金融政策の方向性を主張する政務三役の方もいらっしゃるのに、所管が違うというだけでそれが実際の政策に反映されないのは、残念でなりません。同時に、政策のミスという人災の被害を受けて年越えできない中小零細企業がたくさん出てきそうであることは、気の毒でなりません。
 政権に媚を売るアナリストなどの中には鳩山政権の経済政策を評価する人もいるようですが、以上の事実だけからも、まだ政権としての経済運営は評価できるレベルにありません。それでなくても来年前半の日本経済はマイナス成長が予想されますので、そこに政策側の人災が加わると、来年の日本経済はとんでもないことになる可能性があります。
 いずれにしても、政権のハネムーン期間は今月で終わります。メディアの見方も、市場の評価も一層厳しくなるでしょう。ただ、まだ間に合うはずですので、鳩山政権には頑張っていただき、是非日本経済を正しい形で立て直してほしいものです。

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