不況なのに「対外援助」するワケ

2009-04-20 | 国際

新聞案内人 2009年04月20日
 古城 佳子 東京大学大学院総合文化研究科教授
不況なのに「対外援助」するワケ
 世界的な不況の中、各国は国内経済の立て直しに追われているが、この不況の影響は国際政治においても不安定な要因となっている。
 最貧国と言われる国々は国際社会からの援助によって貧困からの脱出を図ろうとしているが、世界的な不況は各国の対外援助を消極的にしかねない。
 最貧国の多くは紛争国が多く、国際社会からの援助が先細るようなことがあれば貧困の深刻化は紛争の悪化を引き起こすだろう。
○パキスタンの危機は世界の危機
 貧困と紛争との関係が懸念されている国の一つがパキスタンである。
 パキスタンは、政情不安に加え、昨年からの急激な経済の悪化に直面し、IMFの融資を受けている。イラン、アフガニスタン、インドと国境を接しているパキスタンの経済危機は、自国の政情不安や隣国の安定に影響を与える可能性が大きいだけでなく、アフガニスタンの紛争を悪化させ、テロを助長し国際社会の安定を損なう危険をもたらす。
 このような中、東京で、31カ国、18の国際機関が参加したパキスタン支援国会合が4月17日に開催された。
 支援国会議は総額50億ドル以上の支援策をまとめることができた。国際社会が予想以上の額の合意を結ぶことができたということは、成功だったと評価して良いだろう。
 あらたにす3紙も、翌日の朝刊一面でこのパキスタン支援国会合のことを取り上げた。
 朝日新聞は「パキスタン支援―安定への道のりは長いが」、読売新聞は「パキスタン支援 アフガンとともに安定を図れ」とする社説も掲載している。日本経済新聞は19日朝刊に「テロ封じパキスタンへの関与続けよ」との社説を載せた。
○巨額援助を国民はどう思うだろう
 このような記事は、読者にはどのように読まれるのであろうか。一般に、国際情勢に関する記事には関心が薄いということが言われる。
 北朝鮮のミサイル発射のように、国民に直接的な危機感を抱かせるような近隣で起こる事件には関心は高いだろうが、遠い国への援助には関心が低いのではないだろうか。
 しかし、不景気に直面している現在、日本が約束した支援額10億ドルは、かなりの額として感じられるはずである。
 先のG20金融サミット(4月、ロンドン)では、各国は世界経済の安定のため大幅な財政支出が求められた。
 日本も、景気回復を目的とした追加経済対策として15兆4000億円という、かつてない規模の財政支出を打ち出したばかりである。巨額の追加経済対策を策定するに際し、財政赤字の深刻化が懸念され、景気回復後の消費税の引き上げも取りざたされている。
 このような状況の下、人々の頭をよぎるのは、先進国中最悪の財政赤字に直面し、国内で困っている人も多いのに、なぜ外国に援助しなければならないのか、という素朴な疑問ではないだろうか。
しかし、このような時こそ、日本が保健、教育、ガバナンスの向上など、非軍事的な分野が中心となる資金援助において、パキスタン支援に貢献する意義は、日本外交の方針を世界に示す上で大きいと言える。
 かつて、日本は「チェックブック外交」と国際的な批判を受けたとして、日本の外交を見直すべきという議論が高まった。
 資金を出すだけではだめだ、という議論は、ややもすると自衛隊をめぐる議論になりがちであった。しかし、チェックブック外交が問われなければならないのは、資金の出しっ放しではなく、それがどのように有効に使われているのかという視点であろう。
○支援が貧困層に届くことが重要
 パキスタン支援は、支援額は決定したものの、それがパキスタンの貧困解消、政情安定に結びつくか否かは、かなり不透明である。援助を必要としている人々が恩恵を受けるか否かはパキスタン政府次第である。
 ヨーロッパ諸国では、この点を懸念する声が強いようである。巨額の援助が、目的に適うような使用を促すしくみを、援助する側とパキスタン政府で協議する必要があろう。この点において、多額の費用を拠出する日本政府が貢献できることを期待したい。
 今後2年間にわたりパキスタン支援は実行されるそうだ。新聞報道においても、額の決定の報道だけでなく、支援金がどのように使用されるのかについての報道も引き続き行ってもらいたい。
 それは、国民が「なぜ対外援助をしなければならないのか」ということを、真剣に考えるための情報提供になるのではないだろうか。


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