フジコ・ヘミングさんが亡くなった

2024-05-06 | 本/演劇…など

中日春秋

  中日新聞 2024.05.06 Mon

 進化論のダーウィン、哲学者のルソー、ノーベル平和賞のマザー・テレサ、短編小説のオー・ヘンリー、画家のエドワード・ホッパー…▼一つ道を志し、成功を夢見ながらもなかなか芽の出ない人にとっては励まされるリストかもしれない。この方々、いずれも世間に評価されるようになったのは人生の半分を過ぎてからだそうだ。苦労を耐え忍んだ末、遅くに咲く花もある▼この人の名もリストに大きく加えておく。ピアニストのフジコ・ヘミングさんが亡くなった。92歳。世間の評判を取ったのは60代からである。▼「長い人生において辛いことは数え切れないほどありました」(『耳の中の記憶』)。指揮者のバーンスタインに見いだされ、成功を目の前にしながら風邪をこじらせ、聴力を一時的に失う。成功は遠のいた。苦しい生活の中でも1日数時間の練習を欠かさなかったという。困難にも歩き続ける。遅咲きの秘訣はそれなのだろう。▼「機械的にではなく、歌うように弾きなさい」。幼い日に師事したピアニストのレオニード・クロイツァーの教え。歌うようなピアノはその人が波乱の人生の中で味わった悲しみと喜びまで響かせていたのだろう。「完璧じゃなくてもかまわない」。生きていくことを励ます音色だった。▼絶望の日々にもネコを飼ってからは泣くことはなくなったそうだ。今、ネコに囲まれていらっしゃる。

 ◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用、書き写し(来栖)


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