認知症男性の事故責任巡り最高裁で弁論
NHK NEWS WEB 2016/2月2日 17時07分
9年前愛知県で、徘徊していた認知症の男性が電車にはねられ死亡した事故を巡り、JRが対応にかかった費用の賠償を男性の家族に求めている裁判が最高裁判所で開かれました。JRが「家族には、はいかいを防ぐ義務があった」と主張したのに対して、家族側は「一瞬も目を離さずに見守るのは不可能だ」と反論しました。
平成19年、愛知県大府市のJR共和駅の構内で、はいかいしていた認知症の91歳の男性が電車にはねられて死亡しました。JR東海は、列車に最大で2時間程度の遅れが出たとして、対応にかかったおよそ720万円の賠償を介護していた家族に求め、1審は男性の妻と長男に請求どおりの賠償を命じましたが、2審は同居していた妻にだけおよそ360万円の賠償を命じ、双方が上告しています。
最高裁判所で開かれた弁論でJRは、上告の理由について「長男は同居していなかったが、介護の方針を実質的に決めていた。2人には、はいかいを防ぐ監督義務があったのに対策を怠っていた」と主張しました。一方、家族の弁護士は「監督義務を負わせると、家族の負担は一層過酷になる。家族が一瞬も目を離さずに見守るのは不可能だ」と反論しました。判決は来月1日に言い渡されることになり、認知症の人が事故を起こした場合の家族の責任について、最高裁がどう判断するか注目されます。
■認知症男性の長男「実情に理解を」
事故で亡くなった認知症の男性の長男は「1審と2審の判決は、認知症の人と家族にとってあってはならない内容で、この判決を残してはならないという思いで裁判を続けてきました。最高裁判所には、認知症の人たちの実情や社会の流れを理解し、思いやりのある温かい判決をお願いします」というコメントを出しました。
■介護する家族ら「裁判所は家族の負担考え判断を」
認知症の高齢者を介護する家族からは、はいかいによる事故で家族に賠償責任を負わせることになれば生活が立ち行かなくなるといった不安の声が上がっています。
川崎市に住む赤塚信子さんは(63)、認知症の母親のヨシさん、91歳を自宅で介護しています。夕方になると荷物をまとめて家から出ようとする母親のはいかいを防ぐため、赤塚さんは玄関の鍵は2か所にかけ、家の中にいても常に母親の姿を確認するようにしています。それでも目を離した隙に母親が外に出ることがたびたびあり、去年10月には自宅から2駅ほど離れた場所で警察に保護されました。赤塚さんの自宅は、歩いて15分ほどの所に駅があり交通量も多いことから母親が事故に巻き込まれてしまうのではないかと不安が募るようになったといいます。赤塚さんは、「介護している家族は常に緊張状態で、万が一母親が事故に遭って賠償責任を負わされたら、さらに追い詰められ生活が立ち行かなくなってしまう。このままでは母親を家に縛り付けておくしかないと考えざるをえず裁判所には、家族の負担を考えたうえで判断してほしい」と話していました。
■JR東海「コメント控える」
JR東海は「裁判が係争中でありコメントは差し控えさせていただきます」としています。
■裁判の焦点は「家族の対策」
裁判では、亡くなった男性の家族がはいかいを防ぐ対策を十分に行っていたかどうかが大きな焦点になっています。裁判の資料などによりますと、亡くなった91歳の男性は、当時85歳の妻と2人暮らしで、長男の妻も自宅に通って介護していました。男性は、はいかいして行方が分からなくなったことが事故の前に2度あったため、家族ははいかいのおそれがあることを警察に伝え、男性の服や靴に連絡先を記していました。また、自宅の玄関を通ると妻の部屋で音が鳴るようにセンサーを設置していました。
しかし、男性は事故の直前、自宅と棟続きになっている事務所にいて、妻がまどろんだ僅かな隙に事務所の出入り口から外に出たとみられています。事務所の出入り口にもセンサーがありましたが、以前、たばこを販売していた時に客が来たことを知らせるために設置したもので、事故の当時は電源を切っていました。裁判では、監督する立場の人が義務を果たしていた場合は賠償責任を免れるという民法の規定が適用されるかどうかが争われ、2審の判決では事務所のセンサーを切っていたことなどから、「責任は免れない」と指摘されました。
これに対して家族側は「男性がゴミ拾いなどの簡単な作業をする時は事務所の出入り口を通ることが多く、そのたびにセンサーが鳴るのは高齢の妻には負担が重い」などと反論していて、対策が十分だったかどうかが裁判の大きな焦点になっています。
■鉄道会社「多くは個別事情にかかわらず賠償求める」
鉄道会社は人身事故の原因が相手方にあると判断した場合、個別の事情にかかわらず原則、賠償を求めることが多く、裁判所の判断によっては今後の対応に影響する可能性があります。
このうち首都圏で8路線を運行している東急電鉄では、昨年度、ホームからの転落や踏切事故など41件の人身事故が起きました。事故が起きると別の鉄道会社などに振り替え輸送を依頼する費用や事故の処理に当たる人件費など高額の費用がかかることが多く、相手方の原因で損害が発生したケースでは原則、賠償を求めているということです。一方で、ホームに転落防止用の柵やドアを設置するなど対策を進めていますが、事故をなくすのは難しいとしています。
NHKが今回の裁判を前に全国の大手鉄道会社22社にどのような場合に相手方に賠償を求めるか聞いたところ、裁判の原告のJR東海も含め14社が、相手方に原因があると判断した場合は、個別の事情にかかわらず原則、賠償を求めると答えました。
JR東海は事案によって対応を変えない理由について、「恣意的(しいてき)に判断してはならないと考えている」と説明しています。このほかの会社のうち1社は「方針は公表できない」としていますが、残りの7社は、「事故の状況などを踏まえて個別に判断する」と答え、事案によって賠償を求めていることを明らかにしました。
認知症の人の事故を巡る今回の裁判は、最高裁判所の判断によっては今後の鉄道会社の対応に影響する可能性があり、判決の内容が注目されています。
◎上記事は[NHK NEWS WEB]からの転載・引用です *強調(太字・着色)は来栖
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◇ 認知症徘徊男性の列車事故訴訟 二審判決を見直しか 最高裁…弁論、2016年2月2日に開くことを決定
認知症徘徊の列車事故訴訟、二審判決を見直しか 最高裁
朝日新聞デジタル 河原田慎一 2015年11月10日18時32分
認知症で家を出て徘徊(はいかい)中に列車にはねられて死亡した愛知県大府市の男性(当時91)の遺族に対し、JR東海が約720万円の損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第三小法廷(岡部喜代子裁判長)は10日、当事者の意見を聞く弁論を来年2月2日に開くことを決めた。
二審の結論を変える際に必要な弁論が開かれることから、男性の妻の監督義務を認めて約360万円の支払いを命じた二審判決が、何らかの形で見直される公算が大きい。弁論を経て、判決は早ければ年度内にも言い渡される。第三小法廷は、責任能力がない人が起こした不法行為に、親族の監督義務がどこまで及ぶのかについて、判断を示すとみられる。
「要介護度4」と認定されていた男性は2007年12月、徘徊中に愛知県内のJR東海道線共和駅の構内で列車にはねられて死亡した。訴訟では、男性と同居していた事故当時85歳の妻と、横浜市に住む男性の長男の2人に、男性を見守る監督義務があったかが争点となった。
13年8月の一審・名古屋地裁判決は、男性を見守ることを怠った妻の過失のほか、長男にも監督義務があったと認め、JR東海の請求通り約720万円の支払いを2人に命じた。一方、昨年4月の二審・名古屋高裁判決は、妻の監督義務を認めた上で、賠償額については約360万円に減額した。長男に対する請求は退けた。
この判決に対し、妻とJR東海の双方が上告していた。(河原田慎一)
◎上記事は[朝日新聞デジタル]からの転載・引用です *強調(太字・着色)は来栖
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◇ 上田哲・長門栄吉裁判長「アホ判決」(名地裁・高裁)91歳の認知症夫が電車にはねられ、85歳の妻に賠償命令 2014-05-28
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◇ 認知症の親が加害者になってしまったら、賠償をどのように負わなければならないのか
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