再犯防止 更生へ周囲の支援を
中日新聞【社説】2009年11月24日
罪を犯した者の約半数が再犯である。「犯罪白書」が物語るのは、安定雇用や身の回りの人らによる監督などが、再犯防止のカギとなることだ。社会の安心と安全につなげる更生施策の充実を望む。
法務省の「犯罪白書」によれば、検挙された者の42%、起訴された者の48%が、再犯者である。その数字だけを見ても、再犯防止が刑事政策上、いかに重要かが浮かび上がるだろう。
とくに窃盗は、件数が多く、再犯をしやすい。財産犯だけに、就労状況とは密接にかかわる。初犯で執行猶予判決を受けた者を対象に、その後の再犯の有無を調べた結果をみよう。安定就労者の再犯率は19%だが、アルバイトなど不安定就労だと29%、無職だと34%と高くなる。
動機は「生活費困窮」が大半だ。定職もなく、金に困り、再び犯罪に走る図式が見てとれる。就労支援策は急務といえよう。二〇〇六年度から法務省と厚生労働省が連携して、個別的な就労支援を行ってはいる。職業紹介や雇用促進のための身元保証制度などが実施されたが、就職者数はまだ少なく、さらに力を入れてほしい。
身近な人の存在が、再犯の抑止となっていることも明らかだ。親族や雇用主らが、釈放後に被告人に対する監督を誓約した場合は20%にとどまるが、誓約がない場合は40%と、再犯率は倍増する。
覚せい剤取締法違反の者を調べても、誓約者がいる場合は19%だが、いない場合は45%と顕著に悪化する。監督誓約者ら周囲の協力が、いかに有効で、更生を促すかが分かる。
自立が困難なケースは、福祉的な側面からの支援が必要であることは当然だ。身寄りのない者らの生活基盤づくりに、もっと目配りしてもらいたい。仮釈放者らの生活指導などをする保護観察官、民間の保護司らのマンパワーの強化も重要な課題といえる。
だが、高齢の出所者らを福祉などに結び付ける調整機関「地域生活定着支援センター」の設置は、まだ全国五カ所にとどまっている。民間の更生保護施設も受け入れ態勢は十分とはいえないうえ、国の「自立更生促進センター」も各地で住民の理解が得られないケースが出ている。
犯罪者の社会復帰には壁が立ちはだかる。厳しい不況風が追い打ちをかけて、また犯罪に走る…。この悪循環を断ち切るために、更生への理解を社会全体でもっと深めたい。
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出所後受刑者の生活支援。 高齢者がJR下関駅に放火した事件、犯行動機に「再び刑務所に入るため」2008/08/07
政府は7日、高齢者や障害者など、刑務所出所後に行き場のない受刑者の生活を支援するため社会復帰支援計画を策定した。
出所後の相談にのる「調整担当官」や入居する福祉施設などをあっせんする「支援センター」の新設などが柱だ。生活に困った高齢者などが刑務所に再び入るために犯罪を重ねる事例が増えていることから、政府としての取り組みが必要と判断した。来年度から計画を実施する。
支援計画の具体的内容は、〈1〉調整担当官が受刑者から出所後の居住希望地などを聞く〈2〉担当官から連絡を受けた支援センターが、希望地の福祉事務所や福祉施設に生活保護や入所の交渉を行う〈3〉福祉施設が満員ですぐ入居できない場合は出所者を各地の更生保護施設に一時的に入居させる--など。
法務省は仮出所者らの社会復帰を手助けする保護観察官を増員し、一部を調整担当官として各地の刑務所に最低1人は派遣する。支援センターについては厚生労働省が各都道府県に設置し、社会福祉法人などに業務を委託する方針だ。また、更生保護施設は就労できる仮出所者の入居を前提としているため、政府は更生保護施設が社会福祉士などを雇って高齢者らを受け入れられるよう財政支援する。
法務省と厚労省が2006年に11刑務所で実施した調査では、知的障害がある受刑者の刑務所への平均入所回数は6・8回だった。また、犯罪を10回以上重ねた「多数回再犯者」に占める65歳以上の高齢者の割合は1995年は約8%だったが、05年は約20%と急増している。06年1月に山口県下関市で高齢者がJR下関駅に放火した事件で、検察側は犯行の動機を「再び刑務所に入るため」と指摘するなど、高齢者や知的障害者らの再犯防止が治安上の課題になっている。(読売新聞 08月07日 14:35)
山本譲司著『累犯障害者』獄の中の不条理 新潮社刊
p12~
塀の中での半世紀
下関駅放火事件の福田容疑者についても関心を抱き、いろいろと調べてみた。その結果判明したのは、彼もまた障害者であるという事実だった。
福田容疑者は、過去10回にわたって刑務所に服役していた。実刑判決を受けた罪名は、すべて「放火罪」だ。
福田容疑者は知的障害者だったのだ。1996年、広島で起こした放火事件をめぐる裁判では、精神鑑定がなされ、「知能指数66、精神遅滞あり」と判断されている。
p16~
「刑務所に戻りたかったんだったら、火をつけるんじゃなくて、喰い逃げとか泥棒とか、ほかにもあるでしょう」
そう私が訊ねると、福田被告は、急に背筋を伸ばし、顔の前で右手を左右に振りながら答える。
「だめだめ、喰い逃げとか泥棒とか、そんな悪いことできん」
本気でそういっているようだ。
「じゃー、放火は悪いことじゃないんですか」
「悪いこと」
即座に、答えが返ってきた。当然、悪いという認識はあるようだ。
「でも、火をつけると、刑務所に戻れるけん」