埼玉・女子中学生監禁事件 容疑者ゼミ親友が初告白「アイツは『彼女がいる』と言っていた」
現代ビジネス 2016年04月12日(火) 週刊現代 賢者の知恵
少女を監禁しながら素知らぬ顔で大学に通い、帰省もするという異様な生活を送っていた男にも、親しい友人はいた。いままで頑なに取材を拒んできた親友が、容疑者の「素顔」を本誌だけに語った。
■「報道を見て血の気が引いた」
「『えっ、本当に!?これ、本当なの?』。新聞ではじめてこの事件を知ったとき、指名手配されている犯人の名前を見て、自分の目を疑いました。一瞬全身から血の気が引いたあと、ものすごく取り乱しました。
記事に書かれている卑劣な犯行と、僕が知っている彼の姿。それがまるで一致しなかった。信じられず、記事を3度も読み返した。でも、ふと冷静に考えてみると、彼の名前は相当に珍しい。信じたくなかったけれど、事件を起こした男は、紛れもなく僕が知る、あの寺内でした」
こう語るAさんは、埼玉県朝霞市で中学1年生女子を誘拐し、2年余りにわたって自宅で監禁していた千葉大学生、寺内樺風容疑者(23歳・以下容疑者は略)のゼミの同期生。情報処理やデータ分析を専攻とするゼミだった。入学以来、5年にわたるつきあいで、親友として寺内の素顔を誰よりも知る間柄だ。
これまで、「彼の不利益になることはしたくない」と、メディアの取材に応じてこなかったAさん。今回、「友人として間近で見て来た姿を伝えたい」と、はじめて重い口を開いた。
3月31日、警察は自殺を図って静岡の病院に入院していた寺内の回復を受け、未成年者誘拐の疑いで逮捕した。
捜査関係者が言う。
「この事件は不可解な点が非常に多い。まず、2年のあいだ、毎日のように大学やアルバイトにでかけていた寺内が、一体どうやって被害少女が逃げ出さないように監視・管理していたのか。被害少女は『外から鍵が掛けられていた』と話しているが、いまのところはっきりした痕跡は見つかっておらず、手錠やロープなどで拘束していた様子もない。
また、被害少女にどこまで生活の自由が許されていたのかもわからない。被害少女は『インターネットの使用は許されていたが、閲覧できるのは動画サイトなど一部だけだった』と語っている。しかし、もしSOSを発信しようとすれば、書き込めるサイトは無数にある。寺内はそうした動きをどうやって完璧に封じていたのか。
寺内本人の供述が出揃わない限り、真相を解明するのは容易ではありません」
■あの白い軽自動車でドライブ
寺内が'14年3月から今年2月まで少女を監禁していたのは、千葉市内にある、築30年超のアパート。外壁は何度も塗り直されており、むきだしの配管も錆びて朽ちている。間取りは2Kで、家賃は約3万円。古さゆえだろうか、大学から至近にもかかわらず、住人は留学生がほとんどで、空室も目立つ。
二人が暮らしていた部屋に実際に足を踏み入れた関係者が言う。
「部屋に入った瞬間、カビ臭い匂いが鼻を突きました。洗面所や風呂も薄汚れていて、こんな状態のところに閉じ込められていたなんて、年頃の女の子にはなおさら辛かっただろうと思いました。壁も薄く、少しでも物音を立てれば隣の部屋には筒抜けになる」
だが、すぐとなりの部屋に住む留学生の男性は、悲鳴や物音を聞いたことはなく、被害少女の存在にまったく気がつかなかったという。住人の多くは寺内と面識さえなかった。
この、寺内のアパートについても、Aさんから重要な証言を聞くことができた。
「自宅の場所も知っていましたが、まさかあんな学校の目の前のアパートで、監禁生活を送っていたなんて。寺内を間近で見ていても、中学生を自宅に閉じ込めているような様子は、微塵も感じられませんでした。
部屋に監視カメラを置いているのではないかという報道もあったけど、ゼミの合宿中も、過剰にパソコンやスマホを気にしている様子はなく、やや無理があるように感じます」
しかし、Aさんでさえも、寺内の家に実際に足を踏み入れたことは一度もなかった。
「みんな学生でカネもないので、宅飲みすることも多く、『寺内の家で飲もう』という話にもなりました。別段、彼がそれを拒んだり、慌てたりという様子を見せることはなかった。でも、なぜかいつも流れてしまい、不思議と実現することはありませんでした」
また、Aさんは、寺内が被害少女を連れ去るのに利用したとみられる、白の軽自動車にも乗ったことがある。
「彼は旅行好きで、いつも彼のほうから『ドライブに行かない?』と誘ってきました。行き先は、関東近郊の、日帰りで行ける場所が多かった。車内はきれいに整理されていて、彼の運転はとても上手でした」
■祖母が本誌に語ったこと
では、親友から見た寺内は、どのような人物だったのか。
「積極的に自分の話をしたがるタイプではないですが、付き合いも悪くない。コミュニケーションの面でも、取り立てておかしな部分はありません。酒も飲めば、タバコも吸う、どこにでもいる普通の大学生でした。
一部、アニメのオタクであるかのような伝えられ方をしていますが、僕が知る限り、そんなこともなかった。ただ、趣味の飛行機への思いは並々ならぬものがあって、飛行機の話を始めるととまらない。専門用語も多く、理解できない部分も多かったけれど、一生懸命説明してくれているのは伝わってきました」
Aさんに対しても、自らの内面について多くを語らなかったという寺内。だが、一度だけ「彼女」の存在をほのめかしたことがあったという。
「昨年4月にゼミの飲み会があり、メンバーが各々自己紹介をしました。そのとき、寺内は航空機の免許を持っていること、それから、彼女がいることを話していた。でも、彼女の素性について突っ込んで尋ねたことはありません。姿を見たこともなければ、どういう人なのかも聞いたことはなかった。彼が『彼女』と称していたのが、被害者の女性のことだったのかどうか、いまとなってはもうわかりません。
あれだけ一緒に過ごしたのに、なぜ彼の異変にまったく気がつかなかったのかと、自分を責める日々が続いていて、いまは何も手につきません」
5年間、苦楽を共にした親友でさえまったく気がつかなかった寺内の異常な監禁生活。では、一番身近なところで寺内を見守ってきた家族は、彼の異変を察することはなかったのだろうか。
寺内の実家は大阪府池田市にある。大学で建築学の教授を務めた祖父を筆頭に、親族の多くは高学歴だ。母親も教育熱心で、寺内は名門・大阪教育大学附属池田中学校に入学し、そのまま附属高校に進学。大学は関西を離れ、千葉大学の工学部情報画像学科に進んだ。
本誌記者は、寺内の祖父母の家を訪ねた。
「いままで、家族のあいだで大きなトラブルもありませんでしたから、もう、どうしていいのか。……いまは、なによりもまず先に、『家族全員で、被害者のお嬢さんとご家族に謝罪をしなくては』と息子(寺内の父)と話をしています」
池田市内、寺内の実家から車で15分ほどのところにある、瀟洒な邸宅。寺内の犯行が明らかになって以降体調を崩しているという祖母の表情は、まるで憔悴しきっていた。
「今年の正月も、ウチに来て、1週間ぐらいはおったと思います。妹ととても仲が良くてね。和歌山とか四国とか、ふたりでしょっちゅう旅行していました」
祖父母とともに1週間を過ごし、妹とは旅行を楽しんでいた寺内。その間、家に監禁状態の被害少女を置き去りにしてきているわけだが、そんな素振りはまるで見せていなかった。
「樺風とは年に2回はかならず会っていましたが、なにか変わったところというのは感じられませんでした。
ただ、大学生にもなるのに、彼女がいる様子はまったくなかった。それが気になって、会うたびに『そろそろ彼女、おるんとちゃうの?』って尋ねていた。そしたら、いつも『おらん』と。細かいことをしゃべる子ではなかったので、それ以上は深く訊いたことはありません」
先述のように、友人には「彼女がいる」と漏らしていた寺内だが、家族には違うことを言っていた。祖母が続ける。
「樺風は、私たち夫婦の前ではいつもごく普通の、大人しくて、優しい子でした。そんな樺風と今回の事件が頭のなかでどうしても結びつけられず、夫も私もいまだに現実を受け入れられずにいます。
とにかくいまは、本人に会って『なぜ、なぜ、こんなことをしたの』と、問いかけたい気持ちでいっぱいです」
■少女に笑顔が戻る日
周囲の誰に尋ねても、「普通」という言葉で語られる寺内。それだけに、彼に近しい人がその異常性を知ったときのショックは大きい。
寺内は、2年の長きにわたり、隣人も、親友も、果ては家族をも欺き、誰の目にも触れることなく、被害少女を監禁してきた。
だが、そのような異常な生活がいつまでも続くはずもなかった。一瞬の隙を突いて脱出に成功した被害少女が無事保護され、自殺に失敗した寺内も逮捕されたいま、「奇妙な2年間」の実態が、警察の手によって解明されていくことになる。
被害少女が保護された3月27日、彼女の同級生たちはちょうど卒業パーティをしていた。保護の一報が流れた瞬間、同級生も保護者も歓喜に沸いた。堪えきれず、涙を流した同級生も少なくなかったという。
「ご両親や有志の方々は失踪から2年が経っても、毎月欠かさずビラ配りを行うなど、あきらめることなく熱心に活動されていました。地域の住民はみんな彼女のことを知っていて、我がことのように心配していた。無事に戻ってきてくれて、本当に良かった」(被害少女宅の近隣住人)
朝霞署に移送された寺内は、徐々に語り始めている。辛い記憶を呼び起こしながら警察の事情聴取に応じている被害少女は、少しずつ元気を取り戻しているという。 「週刊現代」2016年4月16日号より
◎上記事は[現代ビジネス]からの転載・引用です
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◇ 千葉大ー寺内樺風容疑者・市橋達也受刑者・椎名正(女医殺人事件)/大教大付属池田小事件ー宅間守死刑囚
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