春よりも秋の方に感じやすい私だけれど、今年は葉室麟著『いのちなりけり』 2012.4.11

2012-04-11 | 本/演劇…など

石井一議員が明かす輿石“花見”全内幕!“剛腕”小沢と話したこと
ZAKZAK2012.04.11
 都内の日本料理店で10日夜、民主党の小沢一郎元代表や鳩山由紀夫元首相ら同党の首相、議長、閣僚経験者39人が集まり、「花見」と称する懇親会を開いた。消費税増税法案をめぐり亀裂が広がった党内の融和を図る狙いで、輿石東幹事長が主宰した。注目の小沢氏の言動について、かつての盟友である石井一参院予算委員長が明かした。
 気になる席順は、石井氏と小沢氏、鳩山氏、菅直人前首相が並び、小沢氏の正面に輿石氏が座ったという。小沢氏は竹酒とワインを飲んでいたという。
 石井氏はお開きの後、「僕の横にずっと小沢一郎が座ってたわけだ。彼は寡黙な男だが『ピンちゃん、ピンちゃん』といろいろ語りかけてきた。彼はやっぱり、民主党への愛党精神を持っているよね」といい、2人の会話をこのように明かした。
 小沢氏「政権交代をした、その味を国民に与えていない。だから、私はいろんなことを言うんだ」「自分は政治生活の最後を終わるためにも、国民に自分の政治家としての意思を発信する」「ピンちゃん、あんた、力を貸してくれ」
 石井氏「力貸すよ、正しいことならいくらでも。間違ったことには貸さないよ」「今最も必要なことは、政権与党が一致結束して問題に対応していることが国民に伝わらなければ、民主党政権は見放される。そこを一緒にやろう」
 小沢氏「分かった、ともにやろう」
 石井氏といえば、かつては小沢氏の盟友だったが、たもとを分かち「反小沢」に転じた人物。先月28日未明、消費税増税をめぐる党の合同会議が混乱した際、「反増税」を掲げる小沢グループの面々に対し、「文句があるヤツは9月の代表選で戦えばいい!」と言い放ったことで知られる。
 だが、同夜はご満悦で、「いやぁ~、酒というのは、男と男、政治家と政治家と、その気分をやわらげるよね。(意思統一は)できたんじゃないか。あれで外れる人がおったら、民主党出てもらってもいいんじゃないか」と、顔を赤らめながら語っていた。
 ただ、小沢グループは次期衆院選前の「離党・新党結成」を模索しているといわれており、若手は「懇親会を催したからといって、懐柔できるわけがない」と冷ややかな見方をしている。
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消費税増税の見通しは立たないまま、野田と小沢、最終決戦の刻が迫る~「野田首相が、髪を染めている」 2012-04-11  
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〈来栖の独白2012/4/11 Wed.〉
 小沢一郎氏と石井一氏そして藤井裕久氏の関わりをしばし想った。御三方とも、どんなに心深いところで結ばれていたことだろう。一定の歳月、互いを認め、自らの信条を守って突き進んだ。手を握るのもよい。離れてゆくのもよい。それが人生というものだと、年をとれば達観できる。ただ、卑劣はしたくない、と私は思う。
 人生の意味は、出会いだ。私のようなささやかすぎる人生においても、それ相応の出会いは用意されていて有難かった。あの人、この人が、いとおしい。色んな景色を見せてくれた。生きることの意味を教えてくれた。
 今日の雨で、我が家の桜の花びらが散った。毎年、しみじみとした思いにさせてくれる桜。もうすでに、緑(葉桜)を準備してくれている。
 私は秋に生誕したせいか、春よりも秋の方に感じやすいのだけれど、桜は格別だ。桜といえば西行さんだろうが、昔、加賀乙彦氏の『宣告』を読んで以来、さくらといえば、他家雄の死刑執行前の景色を思うようになってしまった。
 けれど、今年は、以下である。

                  

 葉室麟著『いのちなりけり』(文春文庫)より
p15
 咲弥の声にはしみじみとしたものがあった。宗淳は咲弥も覚悟のうえなのかもしれない、と思いつつ書状を開いた。
〈これをあの男が書いたのか〉
 宗淳は胸に迫るものを感じた。そこにはただ一行の文字だけが記されていたのである。
  春ごとに花のさかりはありなめどあひ見むことはいのちなりけり
p204
 いのちとは
 ----出会い
 ではないだろうか、という気がしていた。ひとは生きているからこそ、何ものかと出会っていくのである。
〈わしは、あの日、咲弥殿と出会った〉
 桜の木が一本だけ立つ丘で出会った日のことを蔵人は忘れていない。桜の下に立った少女はまさに桜の精が降り立ったかのように見えて、蔵人の胸を高鳴らせた。なぜ、そんな気持ちになったのか少年の蔵人にはよくわからなかった。ただ、あの日の出会いこそが蔵人にとって、〈いのちというものではなかったか〉
 と思えるのだ。
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加賀乙彦著『宣告』1979年2月20日発行 新潮社 

 
    
 加賀乙彦著『宣告』1979年2月20日発行 1981年4月30日25刷 新潮社
 下巻
p282~
 第7章 裸の者
  1
 扉が開いた。いや、図らずも開いていた。足音にまるで気付かず、鍵音をすこしも聞かなかった。それほどに本に心を奪われていた。他家雄は活字に粘りついていた視線を捥ぎ離して、目をしばたたきながら面をあげた。
 教育課長と藤井区長と田柳看守部長が並んでいる。課長は丸く、区長はのっぽ、部長は分厚く、何だか漫才トリオのようだ。
「楠本、出房」と藤井区長が伝えた。さっき点検のおりにも見せた、お馴染みの作り笑いだ。
p283~
「どこへ行くんでしょうか」
「ああ、所長がお呼びだ」
「はい」
 それ以上訊ねても答えてはくれない相手と知っている。教育課、管区、医務、所長と呼び出されることはしばしばで別に不審なことはない。しかし、所長には、先週の火曜日、呼ばれたばかりではないか。けさ発信した『あこがれ』の原稿に、所長が早くも目を通したとは考えにくい。すると・・・他家雄の胸を鋭くえぐるような疑惑が生まれてきた。もしかするとこれはお迎えではないか。日朝点検に、きのうも来た藤井区長がわざわざ来たというのもおかしいし、その区長が2時間も経たないうちに再び来るというのも異例の行為だ。
 ゼロ番区の端に来た。鉄格子の重い大きな扉を押し開き、広い廊下に出る。さらに先の扉を鍵で開けると所長室や管理部長室や教育課長室などの並ぶ拘置所の中枢部へ出る。扉の左右を監視していた看守たちが一斉に敬礼した。所長室へ来ると教育課長が先に入った。
「楠本他家雄をつれてまいりました」
 区長に押されて中に入った他家雄は、緋の絨毯の眼底を打つ鮮やかさと、その柔らかな感触に馴れず、すこしよろめいた。大きな机にむかって眼鏡をかけた所長が書類を読んでいる。それは見覚えのある彼の身分帳だ。(略)他家雄は確信した、これはお迎えだと。
p286~
「何を考えているんだね」と所長が気遣わしげに言った。所長はつと立ちあがり、息を吹きつけるほどに顔を近付けて幾分あわてた様子で言った。声がすこしかすれている。
「あす、きみとお別れしなければならなくなりました」
「はい」他家雄は無表情のまま、じっと所長を見詰めた。
「いいですか」所長は焦り気味に、言葉全体に真実らしさを与えるべく、重々しく言った。「これは冗談ではないのです」
「わかっております」
「あ」所長はほっとしたように肩の力を抜いた。「きみなら別に取り乱さないとわかっていた。これで安心したよ。ね、諸君」机を取り巻いていた人々が輪をくずし、まるで非常な名誉を受けた人物を祝福するように微笑を向けた。人々は所長がその一言を言う瞬間まで、全身の筋肉に力瘤をつくって固くなっていたらしい。
「楠本、きみは度胸がありますね。大抵の者は明日を予告すると腰が抜けたり動揺したりするんだが、砂田なんか、ぺらぺらと喋りまくった。きみは違いますね」(略)
「それでは諸君、執行宣告をします。まあ、きみ、これは形式なんでね」と所長が照れて頷いた。人々はまた石化した彫像となった。庶務課長が一枚の美濃紙を差出す。所長の顔から微笑が消え、硝子を打つ風雨のみがひときわ激しさを増して聞こえてきた。
「楠本他家雄、昭和〇年4月19日生まれ。右の者、昭和四十〇年、2月12日より5日以内に死刑の執行を行うべし。法務大臣」所長は美濃紙を置き、やさしく言った。「わかるね。五日目というと17日、つまり明日だ。慣例により明日午前10時に刑が執行される」
「はい」他家雄は頷いた。
p288~
「いいえ、とくに欲しいものはありません」
 所長は傍らの庶務課長を振り返った。庶務課長が酒焼けした善良そうな顔を他家雄に向けた。
「いいか、よく考えるんだ。何か食べたいものがあるだろう。鮨、天麩羅、豚カツ。そうだ。蕎麦や茶漬けなんかも欲しがる者がいるが」
「ほんとに、何もいりませんのです」
「そうかな。まあ、よく考えて欲しかったら言いなさい」
 庶務課長は心から失望した様子で、それが他家雄には気の毒に思え、何とか彼を喜ばす手はないかと考えたすえ、おどけた様子で言ってみた。
「でも、まさか、葡萄酒は駄目でしょう。赤葡萄酒ですけど」
「いやいや、アルコールはな。それは、お前、困る。わかっとるだろうが」
 庶務課長のあわてぶりに他家雄は吹き出した。
「いいんですよ。わざと言ってみただけです」
「こいつ。人をからかいおって」
p290~
「よい心掛けだな」教育課長は庶務課長と頷きあい、ハンカチで額の汗を拭った。「それにしても、ばかに蒸すな、きょうは、妙な天気だ」
 ひとしきり雨が硝子窓を打ち、コンクリート塀越しに眺められる町並みがうろうろと動いた。
「春一番、これで暖かくなるんですよ。もうすぐ桜・・・」と言いかけ、庶務課長ははっと気付いて口を閉じた。明日死ぬ者を前にして残酷な一言だったと気付いたのだ。その朴訥なあわてようが気の毒で、他家雄はいそいで言った。
p291~
「ほんとうに、もうすぐ桜ですね。せめて桜を見てからと思いましたが、これも運命です。むしろ十数年、毎年桜を見せていただいた幸運に感謝しています」
「はあ、そうかね。いや、どうも・・・」と庶務課長は赤ら顔を一層赤くした。
「とくに医務部の前の桜が見事ですね、ここでは。あれはほんとに毎年の楽しみでした。でも、よろしいのです。せんだっての雪で、桜に雪の花が咲くのが見られましたから」
 砂田と雪合戦をしたとき、桜は粉雪(こゆき)をかぶって満開の花のようであった。「おらだば、あした逝くがよ、楠本も先は長くねえんすよ。もういつ雪に触わられるかわかんねえ」そして砂田の血走った目、頬に一条割れ目のように走る創痕。砂田も死んだ。おれも死ぬ。桜のみは今年も変わらず、白く無表情に雪と見まごうばかりに咲き匂う。

p386~
 「さようなら」楠本は一同にむかって深く頭をさげた。その瞬間、所長が額に皺を寄せて保安課長に鋭い目くばせをした。保安課長が右手をあげて合図した。あらかじめ楠本の両側に待機していた看守が手錠をはめ腰にゆわくのと、もう一人が背後から白布で目隠しをするのが同時だった。
 壁の中央で扉が音もなく穴をあけた。中腰になった保安課長が先にたち、3人の看守が左右と後ろから支えて、楠本は歩き始めた。にわか盲のため、足先で1歩1歩たしかめるような歩き方だが、安心しきって誘導に従っている証拠に、歩度に乱れはなく、靴は---それはよく磨かれて艶々と光っていた---規則正しく床を打った。
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