文春の流儀 ⑰  週刊誌と女性記者⑤ “猛烈”の裏に細やかさ

2019-10-26 | 社会

文春の流儀 ⑰
週刊誌と女性記者⑤ “猛烈”の裏に細やかさ  
木俣正剛
  中日新聞夕刊 2019/10/25 Fri

 文春の女性記者が、向こう見ずな猛女なのか、というとそうでもありません。
 少年Aの両親の手記を出すにあたっては、この手記によって加害者側が金銭的利益を得るという批判にどう対応するかも、ひとつの壁でした。
 まずは本の印税をすべて、被害者への弁済にあてる、と公表することにしました。これも米国での先例を森下香枝記者が探してきました。書籍発売と週刊文春の連載を同時期にして、その前に、被害者に謝罪の手紙を両親から出すことにしましたが、そのお手伝いも取材チームの仕事でした。
 手記『「少年A」この子を生んで…』は、彼女たちの細やかな配慮が満ちているからこそ、成立した記事だと今も思っています。
 森下、金子かおり両記者の先輩として、友納尚子さんも紹介しなければなりません。現在も皇室記者として、大活躍です。事件で突然の出張があったり、徹夜があったりする週刊誌特集班の職場で、結婚、出産、子育てという難関をこなした最初の記者です。
 まだ、育児休暇などという制度が整っていないころ、ましてや正社員ではなく契約記者である友納さんが職場を確保しつつ、子育てをするには、大変な苦労があったと思います。
 彼女は、皇太子妃時代の雅子皇后の心の病や、バッシング報道に対して、愛情深い記事を書き続けました。男性中心の記者の世界で闘い、生き残り続けた気持と、雅子妃の苦悩にどこか接点を感じたからだと思います。
 韓国に渡り、北朝鮮を専門に研究する大学院を出て、今や韓国で活躍するジャーナリストとなった菅野朋子さん、そして、和歌山カレー事件で取材陣から酔いつぶされ、その後文春に移籍した川村昌代さんも印象深い記者です。ある日、警察官が殺人事件で聞き込みに使う容疑者らしい人物の写真を手に入れてきました。おいおい、大丈夫か?と念を押すと「木俣さんは現場経験が甘いですね。相手の刑事はわざと酔っぱらって寝たふりして、見せてくれたんですよ。記事にしなきゃ悪いでしょ」。
 たったひとつ、猛烈女性記者陣に共通するのは、自分の記事の扱いへのこだわりです。発売前に出勤した日のこと。柳眉を逆立てて女性記者が寄ってきます。
 手にしているのは、雑誌の中吊(なかづ)り。彼女いわく「今回の私の記事には自信があります。なのに他の記事に比べて5㍉小さい扱いです。どこが悪いのでしょうか?」。汗だくで説明しましたが、最後まで納得していただけませんでした。
 きまた・せいこう=文芸春秋元常務取締役。岐阜女子大副学長

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)
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『「少年A」 この子を生んで・・・』神戸連続児童殺傷事件・酒鬼薔薇聖斗の父母著 文藝春秋刊1999年4月 

  

 


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