【読者の声】ALS嘱託殺人 産経新聞 2020.7.30~2020.8.3

2020-09-28 | Life 死と隣合わせ

【「風」読者の声~ALS嘱託殺人(1)】「患者が輝く社会」実現へ議論を
 2020.7.30 19:00|  殺人・殺人未遂
 難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の女性から依頼を受け、薬物を投与して女性を殺害したとして医師2人が逮捕された嘱託殺人事件をめぐり意見を募集したところ、多くの手紙やメールが寄せられた。そのいくつかを紹介しながら、読者のみなさんといっしょに考えていきたい。
 寄せられた意見で目立ったのが、ALSをはじめとした難病を患う家族を持つ人からの切実な声だった。
 《闘病中は死にたい死にたいって口癖のように言っていました。看てる私もつらくって》(ALS患者の姉を亡くした読者)
 《(死を選んだALS患者の女性の選択について)他人がとやかく言うのはやめて》(70代のALS患者の妻)
 最愛の家族が病に苦しむ姿を目の当たりにするのは、ときとして当事者以上につらいことなのかもしれない。病に苦しむ家族を、殺害された女性に重ねた悲痛な声は複数届いた。
 《夫も発症当初は強い希死念慮(きしねんりょ)(死にたいと願うこと)を持っていた》
 こうつづられていたのは、東京都港区の小沢詠美子さん(58)からのメールだ。夫は難病の副腎白質ジストロフィー(ALD)を発症し、7年間の自宅療養を経て、3年前、53歳で亡くなった。夫は亡くなる4年前から、自分の意志で指一本動かすことも話すこともできず、視線が定まらなかったので意思表示する装置も使えなかった。
 発症当初こそ夫は「死にたい」と願ったが、《夫の医療・介護チームが夫に愛情を注いでくださったことが、夫を希死念慮から解き放ったのではないかと思います》とし、《週3回の訪問入浴の際に見せる幸せそうな表情が忘れられません》と振り返る。
 もちろん今回の事件と、小沢さんの夫とは境遇が異なる部分はあるだろう。それでもメールでは、事件について《(女性が)ほんの一瞬でも幸福感を味わうことができれば、生きる気力がわいたのではないでしょうか》とした上でこう記している。《「辛い人を殺してあげて何が悪い」という世間の風潮には、違和感しか覚えません。(略)今回の事件を「安楽死」で片づけてはいけないのです》
 事件を機に、インターネット上などで「積極的安楽死」のあり方を議論する動きが広がっている。こうした議論自体は重要かもしれない。ただその前に、「患者が生きやすい社会」を作るためにどうしたらいいか議論することが必要なのではないか。
 厚生労働省によると、ALSの国内の患者数は、平成30年度末で9805人。ALSは筋肉を動かす神経が徐々に侵され、進行すると寝たきりとなって、食事や呼吸が困難になる一方で、通常は体の感覚や知能、内臓機能などは保たれた状態が続く。事件で亡くなった女性はブログで、ALS患者として生きることの苦しさをつづっていた。
 ALSを患う夫を持つ58歳の女性からのメールにも、《意識がクリアなのに体を動かせないというこの病の残酷さは、日々のささやかな喜びを上回る絶望感で患者をむしばんでしまう》と、患者の厳しい現実がつづられている。しかしその上で、こう続けた。《多くの難病患者と同じように、(事件で亡くなった)女性も、「生きたいんだ!だけど!」と叫びたかったのではないでしょうか。難病患者が自分らしく輝いて、毎日を「生きてゆける」社会を実現するにはどうしたらよいか、議論してほしい》。みなさんの率直なご意見をお待ちしています。(江)

【「風」読者の声~ALS嘱託殺人(2)】医療従事者「独断的だ」2容疑者に憤り
 2020.7.31 19:00|  殺人・殺人未遂
 《同じ医師として、衝撃を受けた。死にたいほどの苦痛であったにせよ、主治医でもない医師が起こした行動は許されない》
 難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の女性から依頼を受けた医師2人が、薬物を投与して女性を殺害したとされる今回の事件。
 名古屋市の医師の女性(50)はメールで、逮捕された2医師について断罪する。この女性は、患者らに対し心や体の苦痛を和らげる治療を行う「緩和ケア医」で、「安楽死」にも反対の立場という。メールはこう結ばれている。
 《人の手を借りて生きること、誰でもいずれはそうなる。死にたいほどつらいという言葉の裏に、何があるのか、思いをはせるべきです》
 逮捕された2人は女性の主治医ではなく、会員制交流サイト(SNS)でのやりとりのみで請け負ったことが明らかになっている。
 2人による行為を「犯罪」とし、憤りを感じる医療従事者は多い。《関係性の希薄な医師が、独断的に安楽死の方法をとったことが問題だ》。京都府京田辺市の薬剤師の女性(46)はメールで批判し、《「解放=死」以外の選択も示せることが、医療人の役割ではないか》と記した。
 多くの医療従事者は、患者が苦しむ場面を幾度となく目の当たりにしている。だが、逮捕された2医師は、亡くなった女性と日常的に接していたわけではない。
 京都府内の内科医の70代男性も「今回のような秘密裏の犯行は認められない」と事件を批判する。その一方で、「本当の苦痛は患者本人にしかわからない」と語り、安楽死も患者にとって選択肢の一つとして考える必要があるとの意見も持つ。そして、こうも指摘する。
 「安楽死は人の生死に直結する重たい判断。われわれは正面からこの問題に向き合ってこなかった」(亮)

【「風」読者の声~ALS嘱託殺人(3)】「安楽死」法制化は必要なのか
 2020.8.3 19:00|  殺人・殺人未遂 
 事件で亡くなった筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の女性はブログで、海外での「安楽死」を一時模索したことを記していた。これに関連し、難病のパーキンソン病を患った父親が寝たきりになった末に亡くなったという大阪市の女性(53)からのメールを紹介したい。
 メールの女性は「苦しくない今のうちに死なせてほしい」と懇願されたつらい経験を振り返りつつ、《自分が完治することのない病に侵されたとしたら、死期を自分で選べる法があってもいいと思う》と、海外の実例も踏まえ検討を求めた。安楽死の法制化を求める意見は他にも寄せられている。
 海外では、オランダやベルギーなどで医師が致死薬を投与する「積極的安楽死」を合法化。スイスでは医師が処方した致死薬を患者が使う「自殺幇助(ほうじょ)」を認めている。
 日本では法的に認められておらず、医師が殺人や殺人幇助の罪に問われる事件が起きてきた。そのため、平成19年に厚生労働省は病院での終末期医療についてのガイドライン(指針)を公表。30年には、難病などの在宅医療や介護も加え改訂した。
 指針では、医師による十分な情報提供と患者の意思決定を基本に医療・ケアの方針を決めるプロセスを示しており、積極的安楽死は対象外だ。ただ、医療現場では、家族や医療チームを含めた話し合いなどを経た上で、胃瘻(いろう)造設、気管切開といった手術をしないことや、人工的な栄養補給の変更・中止が、選択肢にできると解釈されている。
 《国の指針を活用すれば、「安楽死」を合法化せずとも、本人の意向に沿って現場で繰り返し話し合い、心身の苦痛の緩和にも努めた上で、延命措置をしないことや中止することもできる。多くの人が指針を知らないまま、医療に絶望や不信感を募らせているのではないか》。名古屋市の医師、岡島明子さん(49)からのメールだ。
 緩和ケア認定医でALS患者を診察した経験を振り返り、岡島さんは《死の方法を選ぶのではなく、「尊厳ある生」をまっとうするために、家族や医師に意向を伝えて、納得できる治療方針を求めてほしい》と呼びかけている。(石)

安楽死
 回復の見込みがなく、苦痛の強い末期などの患者を人為的に死に導く行為。薬物投与などによる「積極的安楽死」と、生命維持装置を外すなど延命治療を中止する「消極的安楽死」がある。患者の意思に基づく消極的安楽死を「尊厳死」と呼ぶこともある。
 
 ◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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「安楽死を問う」②安楽死の依頼に応えられなかった医師の思い 患者に「生きろ」、「死ね」より残酷なことも 作家の久坂部羊さん
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久坂部羊著『神の手』(上)(下)、読了 2020.9.27


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