「経済は好調」と言われた東海地方で、来春の採用内定を取り消される大学生が出始めた。米国を震源とする金融不安で、企業の業績見通しが落ち込んでいるためだ。取り消し通知を渡された学生は、大学の支援窓口で「なぜ…」と体を震わせた。不況の影は、卒業まで半年を切った学生の未来にも忍び寄っている。
6日朝、東海地方の私立大学の就職支援窓口に半泣きの女子学生が立っていた。全国展開するエステ会社への就職が決まっていたが5日、人事担当者から電話で「内定を取り消す」と告げられた。
同社は来春採用予定だった大卒17人全員の内定を取り消し、一斉に通告した。担当者は「苦渋の選択だが、エステは景気に左右される。今は業界全体が苦しい」と話す。17人には初任給分を支払う“誠意”を示すというが、女子学生は「あこがれの業界だったのに」と唇をかみしめる。
別の私立大学に通う男子学生は連休中の3日、自宅を訪れた自動車部品メーカーの社長に「内定を辞退してもらえないか」と言われた。決まっていた商社に呼び出され「意に沿う仕事をさせてあげられなくなった」と辞退を促された女子学生は「また就職活動をする苦労を考えると、結論が出せない」と迷い続けている。
内定取り消しの連絡は、9月の米証券大手リーマン・ブラザーズの破たん後に目立ち始めた。採用の見直しを迫られた企業の多くが本人や大学に謝罪しているが、中には「内定者が何人で取り消したのが何人なのか、インサイダー情報になるので公表しない」とする上場企業もある。
一方、大学の就職支援担当者らは「学生を裏切る行為は許せない」と憤りを隠さない。中小企業などを急きょ紹介しているが「取り消しがさらに増えるのではないか」との不安が広がっている。
大手建設会社から内定を取り消された名古屋市内の男子学生は7日に別の会社の面接を受ける。通っている大学の就職担当者は「将来への約束が破り捨てられるのはおかしい。就職が決まるまで支援する」と話している。
合理的理由が必要-専門化指摘
内定の取消はどのような状況なら許されるのか。厚生労働省は「最高裁などの判例では、客観的に合理的と認められ、社会通念上、相当と是認できる場合に限り可能としている」と説明する。ただ、内定取消そのものを禁じる法律の規定はなく、何が「合理的な理由」なのかは、個々のケースで判断するしかないようだ。
一方、東海労働弁護団事務局長の樽井直樹弁護士は「就職の内定は、就労開始の時期が規定されているなどの条件のもとで労働契約が成立しているとみなされる」と説明。
その上で「単に自社や経済の先行きが不安だから、という程度の理由で内定を取り消すのは難しいのではないか」との見解を示す。
中日新聞朝刊2008年11月7日