手紙でしか言えないことがある

2007-10-02 | 社会

中日春秋
2007年10月2日

 谷川俊太郎さんの『手紙』という詩の一節。<電話のすぐあとで手紙が着いた/あなたは電話ではふざけていて/手紙では生真面目だった>

▼のちに同名の詩集に収められるが、最初は郵政省の職員向け冊子『郵政』の一九八二年七月号に載った。きのう日本郵政公社が民営化された。四九年八月創刊の『郵政』も九月号を最後に半世紀を超える歴史に幕を下ろしたが、この機に消えたものは少なくない

▼民営化を見越して既に昨秋以降、二割以上の郵便局で集配業務が廃止された。簡易郵便局も減る一方だ。小泉元首相は二年前に「(民営化で)万が一にも国民の利便に支障が生じないようにする」と言ったが、地方、特に過疎地には、もうはっきりしわ寄せが現れている

▼以前は郵便配達員が手紙を持って行くついでに保険や貯金も扱うことができた。車がない、足が不自由といった理由で自分で直接郵便局に行きにくいお年寄りには、特にありがたがられていたけれど、その制度もなくなった

▼もしそこが山あいなら、も一つついでに雪かきを手伝ったりする。そういう郵便屋さんの存在が住民には「安心」だった。それが郵便貯金の政府保証という「安心」と一緒に消え去っていく感がある。年金問題はじめ、この国に今、必要なのは「安心」を増やすことのはずなのに

▼新会社には、効率追求に血道をあげて郵政を担うものの責任を忘れないよう望みたい。効率がすべてなら電話や携帯メールで十分だ。でも『手紙』の最後の連にはこうある。<手紙でしか言えないことがある>


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