高齢者こそ見た目 『すぐ死ぬんだから』 脚本家・内館牧子さん

2018-10-21 | 本/演劇…など

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高齢者こそ見た目 『すぐ死ぬんだから』 脚本家・内館牧子さん(70)
 2018年9月30日
 戸惑い、あがきつつ定年後の人生を築いていく男性を描いた小説『終わった人』に続き、衝撃的なタイトルの小説を出した。今回の主人公は、夫婦で営んでいた酒店を息子に譲り、隠居生活を送る七十八歳の女性。実年齢より上に見られたのをきっかけに、外見磨きに目覚める。
 執筆の背景には、七十五歳以上の後期高齢者は「生きにくいんじゃないか」という思いがあった。「ハローワークに行ってみたら、六十代だとまだ、選ばなければ仕事はあるんですよね、でも、八十代だとぜいたくを言わなくてもないし、体力的にも大変になってくる。でも頭はしゃんとしている」。折しも八十代が集まる場に行く機会があり、若く見える人とふけて見える人、見た目の差が激しいことに驚いた。「『痛い』ぐらい若作りしちゃうことも経て、人目をある程度気にして生きることって大事かな、って思いましたね」
 そんな後期高齢者を観察していて気がついたのは「どうせすぐ死ぬんだから」という台詞(せりふ)が何もしない免罪符になっていること。「こんな便利な言葉はなくて、そう言うと全部どうでもよくなり、自分を楽にする。おしゃれする必要もない。でも、そういう姿を見る娘や息子は嫌ですよね。いつまでもお母さんはきれいで、お父さんもかっこよくいた方がいい。反対する人はいっぱいいるだろうけど、年を取ったら『見た目ファースト』っていう話を描きたかった。高い物を着てるとか顔がいいとかじゃなくて、いかに自分に手をかけているか」
 外見は内面に作用し、見た目が変われば生きる姿勢も変わる。おしゃれな高齢者は周囲の人も気持ちよくさせる。「作曲家の吉田正さんの奧さんは、九十歳過ぎで亡くなったんですけど、メークも服もきれいで、私は憧れていた。そういう人と一緒にいると、こっちの元気が出るんですよね」
 夫の死をきっかけに、主人公は思いも寄らぬ夫の顔を知る。高齢者のリアルな描写やちょっと毒のあるやりとりに引き込まれつつ読んでいると、物語は衝撃的な展開を迎える。『終わった人』刊行後の取材で、品よく老いるために必要なものを問うた私に、内館さんは「美意識」と答えてくれた。今作の登場人物は、その具体像を示しているようにも思えた。
 講談社・一六七四円。
  (岩岡千景)

 ◎上記事は[東京新聞]からの転載・引用です
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内館牧子氏「すぐ死ぬんだから」は老人を老人たらしめる言葉
2018.09.03 07:00
〈六十代に入ったら、男も女も絶対に実年齢に見られてはならない〉
  すでに齢78を迎えたハナは、頑ななまでに自分にそう言い聞かせながら、長いか短いかもわからない「老い先」を生きていく──。
  脚本家・内館牧子氏(69)の小説『すぐ死ぬんだから』が売れている。8月下旬に発売され、べストセラーとなっている同書の帯には、〈人生100年時代の新「終活」小説!〉と綴られている。
  78歳の主人公・忍ハナは実年齢より10歳は若く見え、銀座を歩けば“お洒落なシニア”の街頭スナップのモデルを探す雑誌編集者に声をかけられるほど、ファッションや体型維持に気を使う女性だ。40年以上連れ添う夫の岩造は、麻布の老舗酒屋の跡取りで、ハナは酒屋の女将さんとして奔走したのち、息子・雪男に店を譲って夫ともどもリタイアした。気に入らないことと言えば、雪男の嫁が才能の感じられない画業にばかり没頭していることくらい。
  高校の同窓会で〈バアサンくささに磨きがかかっている〉同級生たちへの優越感に浸りながら、ハナは嫉妬と羨望を浴びる。だが、今を楽しむことに専念するハナは、ある日、岩造が自宅で倒れたことから、予想だにしなかった事実を知ることになる──。
  やはり大ベストセラーとなり、今年6月に舘ひろし(68)主演で映画化もされた前著『終わった人』では、63歳で定年を迎え、“毎日が大型連休”になった主人公・壮介の悲哀を描いた。
 そこから一回り以上年を重ねたハナを主人公に据えた著者は、刺激的なタイトルにどんな思いを込めたのか。内館氏に聞いた。
 「『終わった人』の後が『すぐ死ぬんだから』というのは強烈だとずいぶん言われましたよ(笑い)。
  この言葉は、実際に私が後期高齢者の方と話して何度も耳にしたものです。娘や嫁から“もうちょっと綺麗な格好をしたら”と言われても、反射的に“いやいや楽が一番。すぐ死ぬんだから”と返す。まるで、手を抜くための免罪符のように使われている。私には、この一言が今の老人を老人たらしめているように思えたんです。
  確かに、どんなに若くいようとしても、78歳のハナには忍び寄るものがある。気を緩めるとふと出てきてしまいそうな“すぐ死ぬんだから”という言葉に、それでも抗うハナの姿を見せたかった」
 ※週刊ポスト2018年9月14日号

 ◎上記事は[NEWS ポストセブン]からの転載・引用です
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