【介護社会】
無理重ね家族孤立 介護者訪問調査
中日新聞2009年12月20日
「自分のためだけに来てくれてうれしい」「母の薬は覚えていても、自分の薬は覚えていない」-。名古屋大医学部保健学科の堀容子准教授(看護学)らによる訪問調査で判明した介護者の深刻な健康状態。調査員が接した家族の姿からは、自らの健康を顧みる余裕もなく、社会的孤立を深めている状況が浮き彫りとなった。
堀准教授らは今回、介護者の家庭を一軒一軒訪れて調査する方法を採った。「どこかに来てもらう方法では、外出すら困難な介護者の実態を把握できない」と考えたためだ。
実際の調査では、多くの介護者が訪問に対し「自分のことを気遣ってくれてうれしい」と喜んだ。また、健康診断に出掛けることなど「思いもよらない」と、介護に追われる多忙な日常を口々に訴えた。
義母を介護している40代の女性は調査員に「病院からは自分が検査に来るよう言われているが、義母が病院を嫌がるので行けない」と漏らし、「介護スタッフも要介護者の意向が中心。自分が入院でもしないと状況が変わらない」と話した。
パーキンソン病の夫を介護している女性は、買い物のための外出時間はわずか15分。調査員に「目についたものをかごへ放り込む感じ。時間をかける精神的余裕がない」と訴えた。義父を介護している60代の女性は、健康だった夫を突然死で失って間もない時期だった。「1人で介護し、買い物にも行けない。話す人もいなかった」と訪問調査に対し、感謝の言葉を口にしたという。
1軒当たり45分を予定していた調査時間は、介護者の相談で2時間近くに延びるケースも珍しくなかった。それでも「本当に切羽詰まった状態の家庭は、調査拒否のケースが多かった」と堀准教授は打ち明ける。
介護者支援活動に取り組む「介護者サポートネットワークセンター・アラジン」(東京都新宿区)の牧野史子理事長は「在宅介護の家族はたいてい無理をしている。サービスは足りず、代わりの人もいない。治療や検診に行きたくても行けない現実がある」と指摘。「子育てでは母親の健康を守ることが大切なように、健全な介護のためには介護者の健康を守る発想が必要」と訴える。
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【介護社会】
在宅介護者の半数が高血圧 名大が女性分析調査
中日新聞2009年12月20日
重度の要介護者を在宅介護する女性は、その他の女性に比べて高血圧の割合が高く、降圧剤を服用しても改善しない人が7割に上るなど、深刻な健康状態に陥りやすいことが、名古屋大医学部保健学科の堀容子准教授(看護学)らの調査で分かった。塩分摂取量が多いなど栄養バランスが偏り、睡眠の時間帯も不規則なことが判明。介護殺人・心中が多発する中で「介護者の健康対策や支援」の必要性を裏付ける内容となった。
堀准教授らは、2006年12月から07年5月までの半年間、愛知、岐阜、滋賀3県で在宅介護の家庭を訪問。要介護度3以上か、認知症の要介護者を抱える男女213人の介護者から血液や尿を採取し、血圧や心電図も調べた。
分析したのは女性介護者161人で、このうち高血圧(最低血圧90以上、または最高血圧140以上)の割合は74人(46%)。同じ年代で介護をしていない一般女性の34%に比べ、12ポイント高かった。
また、高血圧で降圧剤を服用している女性32人のうち23人(72%)は改善がみられず、一般の女性(44%)に比べ深刻な症状になりやすい傾向がある。
尿検査では、介護者の塩分濃度は一般に比べて3割高く「インスタント食品に頼った食生活の表れ」(堀准教授)とみている。睡眠の状態は、聞き取り調査に多くの人が「夜中に何度も起こされる」「寝不足が続いている」などと回答した。
在宅介護者の健康状態については、これまで4人に1人が軽度以上のうつ傾向にあることや、老老介護に取り組む男性介護者の死亡率が、そうでない男性の2倍に上るなど厳しい状況を示す調査結果が出ている。
現在の介護保険制度は要介護者のためのサービスはあっても、家族への支援は任意事業扱いで、実質的には考慮されていない。
堀准教授は「重度の要介護者を抱える家族は外出もままならず、自らの健康を気遣う時間的、精神的余裕もない。医師や看護師、介護士らの在宅医療チームが、介護する側の人たちをケアする仕組みが必要だ」と訴える。
無理重ね家族孤立 介護者訪問調査
中日新聞2009年12月20日
「自分のためだけに来てくれてうれしい」「母の薬は覚えていても、自分の薬は覚えていない」-。名古屋大医学部保健学科の堀容子准教授(看護学)らによる訪問調査で判明した介護者の深刻な健康状態。調査員が接した家族の姿からは、自らの健康を顧みる余裕もなく、社会的孤立を深めている状況が浮き彫りとなった。
堀准教授らは今回、介護者の家庭を一軒一軒訪れて調査する方法を採った。「どこかに来てもらう方法では、外出すら困難な介護者の実態を把握できない」と考えたためだ。
実際の調査では、多くの介護者が訪問に対し「自分のことを気遣ってくれてうれしい」と喜んだ。また、健康診断に出掛けることなど「思いもよらない」と、介護に追われる多忙な日常を口々に訴えた。
義母を介護している40代の女性は調査員に「病院からは自分が検査に来るよう言われているが、義母が病院を嫌がるので行けない」と漏らし、「介護スタッフも要介護者の意向が中心。自分が入院でもしないと状況が変わらない」と話した。
パーキンソン病の夫を介護している女性は、買い物のための外出時間はわずか15分。調査員に「目についたものをかごへ放り込む感じ。時間をかける精神的余裕がない」と訴えた。義父を介護している60代の女性は、健康だった夫を突然死で失って間もない時期だった。「1人で介護し、買い物にも行けない。話す人もいなかった」と訪問調査に対し、感謝の言葉を口にしたという。
1軒当たり45分を予定していた調査時間は、介護者の相談で2時間近くに延びるケースも珍しくなかった。それでも「本当に切羽詰まった状態の家庭は、調査拒否のケースが多かった」と堀准教授は打ち明ける。
介護者支援活動に取り組む「介護者サポートネットワークセンター・アラジン」(東京都新宿区)の牧野史子理事長は「在宅介護の家族はたいてい無理をしている。サービスは足りず、代わりの人もいない。治療や検診に行きたくても行けない現実がある」と指摘。「子育てでは母親の健康を守ることが大切なように、健全な介護のためには介護者の健康を守る発想が必要」と訴える。
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【介護社会】
在宅介護者の半数が高血圧 名大が女性分析調査
中日新聞2009年12月20日
重度の要介護者を在宅介護する女性は、その他の女性に比べて高血圧の割合が高く、降圧剤を服用しても改善しない人が7割に上るなど、深刻な健康状態に陥りやすいことが、名古屋大医学部保健学科の堀容子准教授(看護学)らの調査で分かった。塩分摂取量が多いなど栄養バランスが偏り、睡眠の時間帯も不規則なことが判明。介護殺人・心中が多発する中で「介護者の健康対策や支援」の必要性を裏付ける内容となった。
堀准教授らは、2006年12月から07年5月までの半年間、愛知、岐阜、滋賀3県で在宅介護の家庭を訪問。要介護度3以上か、認知症の要介護者を抱える男女213人の介護者から血液や尿を採取し、血圧や心電図も調べた。
分析したのは女性介護者161人で、このうち高血圧(最低血圧90以上、または最高血圧140以上)の割合は74人(46%)。同じ年代で介護をしていない一般女性の34%に比べ、12ポイント高かった。
また、高血圧で降圧剤を服用している女性32人のうち23人(72%)は改善がみられず、一般の女性(44%)に比べ深刻な症状になりやすい傾向がある。
尿検査では、介護者の塩分濃度は一般に比べて3割高く「インスタント食品に頼った食生活の表れ」(堀准教授)とみている。睡眠の状態は、聞き取り調査に多くの人が「夜中に何度も起こされる」「寝不足が続いている」などと回答した。
在宅介護者の健康状態については、これまで4人に1人が軽度以上のうつ傾向にあることや、老老介護に取り組む男性介護者の死亡率が、そうでない男性の2倍に上るなど厳しい状況を示す調査結果が出ている。
現在の介護保険制度は要介護者のためのサービスはあっても、家族への支援は任意事業扱いで、実質的には考慮されていない。
堀准教授は「重度の要介護者を抱える家族は外出もままならず、自らの健康を気遣う時間的、精神的余裕もない。医師や看護師、介護士らの在宅医療チームが、介護する側の人たちをケアする仕組みが必要だ」と訴える。