【介護社会】<俺しかおらんのや> 番外編・事件から学ぶ

2009-12-21 | 社会
【介護社会】
<俺しかおらんのや> 番外編・事件から学ぶ
中日新聞2009年12月15日
◆我慢せず話そう
 三重県四日市市でことし5月、元とび職の夫(61)が10年に及ぶ介護の末、妻=当時(56)=と心中を図り、承諾殺人の罪に問われた事件。会社を解雇され、貯蓄も尽き「死ぬしかない」と思い詰めた夫は、近くに住む長女へSOSを出すことも、生活保護を求めることもしなかった。類似事件を防ぐ手だてはないのか。関係者に意見を求めた。
 高齢者の身元保証や財産管理などの支援活動に取り組む、名古屋市の特定非営利活動法人(NPO法人)「きずなの会」の小笠原重行専務理事は「この世代の父親にはかなり難しいことではあるが」と断った上で「父親のプライドを捨て、家族や親族に経済的な苦しさを打ち明ける必要があった」と指摘する。
 一方で小笠原さんは「親は子どもに何を聞かれても『大丈夫だ』と答えるに決まっている」と心情を理解。老老介護の親を持つ娘や息子に「小さなサインを見逃さないことが大切。年金の額や貯金の残高を時には踏み込んで聞き出すことも必要だ」と呼び掛ける。
 親族がいても、経済的事情などで支援の意思がなければ生活保護を受給できる。生活保護を受ければ、老老介護の家庭でも、給付額の範囲でグループホームや介護保険施設への入所は可能だ。
 夫はまた「家族以外には相談する人がおらんかった。おったら違う道も、あったかも分からんけど」と語り、社会的な孤立状態にあった。
 夫の場合、週2回のデイサービスを利用。だが、そこで会うのは寝たきりの妻を施設へ移送する民間の事業者。「生活が苦しい」と夫が話すことも、業者が立ち入って聞くこともなかった。
 介護者と直接接するのは、こうした民間の事業者だが、現在の制度では事業者が利用者の金銭的な窮状を把握したとしても、解決に乗り出す仕組みにはなっていない。
 三重県内のあるケアマネジャー(制度の利用を助言する資格者)はこう語る。
 「実際には生活保護の窓口へ連れて行き、申請に同席したこともある。介護者が消費者金融の過払いに苦しんでいることをヘルパーが聞き出し、解決した例もある。ただ、それは介護保険の給付管理という本来の業務を大きく外れた行為で、普通はそこまでできないし、やらない」
 民間事業者に権限を与える制度の改善とともに、縦割り行政にも問題があるとし「役所の中で、介護保険と生活保護の担当が情報を共有し、積極的に対応する窓口を設けることが必要では」と意識改革を訴える。 (取材・小笠原寛明、後藤厚三、小林迪子、写真・畦地巧輝)

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