産経ニュース 2011.7.5 11:55
英国女性殺害 第2回公判(2011年07月05日)
【英国女性殺害 市橋被告2日目(1)】右目付近に皮下出血、口内も出血...解剖の女医が詳述
(10:20~10:40)
《千葉県市川市のマンションで平成19年、英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時 (22)=が殺害された事件で、殺人罪などに問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判の第2回公判が5日、千葉地裁(堀田真哉裁判長)で始まった。今公判ではリンゼイさんの遺体の司法解剖を行った医師が証人として出廷した。初公判で殺意の有無などをめぐり、真っ向から対立する主張を展開した検察側と弁護側双方が、それぞれの主張に沿う証言を引き出そうと火花を散らすとみられる》
《市橋被告は4日の初公判で、入廷と同時にリンゼイさんの両親にいきなり土下座。「リンゼイさんの死に対し、私は責任は取るつもりです。本当に申し訳ありませんでした」と謝罪したが、「殺意はありませんでした」と述べた》
《また、初公判では検察側、弁護側それぞれの冒頭陳述により、今回の裁判の争点が明確に示された。それによると、検察側、弁護側ともに市橋被告が19年3 月25日にリンゼイさんを乱暴したことと、その後死体を遺棄したことについて争いはなく、死亡に至る経緯が争われることになった》
《検察 側は市橋被告が乱暴後にリンゼイさんの首を圧迫した結果、翌日夕までに死亡したと指摘。「乱暴の発覚を防ぐという殺害動機があり、3分以上、相当な力で圧 迫し続けた」とし、殺意があったとした。また「死亡まで時間が経過していたとしても拘束状態は続いており、いつでも暴行可能な状況が継続していた」と指摘し、強姦致死罪の成立を主張した》
【英国女性殺害 市橋被告2日目(2)】首を骨折、陰部に出血...遺体の状況生々しく
(10:40~11:05)
《英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=に対する殺人と強姦致死、死体遺棄の罪に問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判第2回公判。リンゼイさんの司法解剖を担当した女性医師に対する検察側の証人尋問が続いている。女性医師は淡々とした口調で遺体の詳細を証言する》
《市橋被告はうつむいたまま、微動だにしない。検察官の後ろに座るリンゼイさんの父、ウィリアムさんは口元の前で手を組みながら、また母のジュリアさんはほおづえをつきながら、女性医師の説明に聞き入っている》
検察官「次に(リンゼイさんの遺体の)首の部分について、写真にもとづいて説明してください」
証人「首にはたくさんの筋肉があるのですが、そのうち胸骨舌骨筋(きょうこつぜっこつきん)という筋肉に出血が見られました。また、その奥にある輪状軟骨には骨折がみられました」
検察官「では首の内部の図を示します」
《モニターで首の模型図が示されたようだ。傍聴席から見ることはできない》
検察官「骨折はこの部位で間違いないですか」
証人「はい」
検察官「胸骨舌骨筋は、首のどの位置か説明してください」
証人「鎖骨とのど仏を結んでいる筋肉です」
検察官「輪状軟骨についてもお願いします」
証人「のど仏のすぐ下です」
検察官「骨の『輪』の中はどうなっていますか」
証人「空気の通り道になっています」
《模型を使った説明だが、ジュリアさんは目に涙をため、徐々に鼻が赤くなってきた。再び検察官はリンゼイさんの遺体の写真を示した。今度は胸骨舌骨筋と輪状軟骨の部位に限定した写真のようだ》
検察官「写真の矢印の部分は何を示していますか」
証人「骨折部分です。2枚のうち(1)とあるのは、遺体の右側から撮っており、マルで囲んだ先、これが骨折です」
検察官「骨折は2カ所ですね」
証人「はい」
検察官「これはどういう力が働いたと推測できますか」
証人「真ん中の方から強く押す力が働いたと推測できます」
検察官「胸骨舌骨筋の状態も合わせて、推測できることはどういうことですか」
証人「頚部(けいぶ)に強い圧迫が加えられたと考えられます」
《検察側は4日に行われた初公判の冒頭陳述などでリンゼイさん殺害について「強姦後に犯行発覚を防ぐ目的」で相当の力で圧迫し、明確な殺意があったと主張。一方、弁護側はリンゼイさんに大声を出されたため腕を顔に巻くなどした結果、あくまで「死なせてしまった」と訴えていた。女性医師の証言により、検察 側は自分たちの主張の根拠を示そうとしているようだ》
《続いて検察側は、リンゼイさんの遺体の胸部、腹部、腕の写真を順に示していった。傍聴席から見て左から3番目の青のワイシャツ姿の男性裁判員は、みけんにしわを寄せ、モニターを見ている。ウィリアムさんは、娘の変わり果てた姿に思わず目を覆った》
検察官「腕が変色していますが、これは何ですか」
証人「すべて皮下出血です。左腕のマルで囲った部分は、点のようなものがいくつか見えると思いますが、肘から手首にかけて等間隔にあるのは『圧痕(あっこん)』が混じっています」
検察官「右手首はどうですか」
証人「小さなマルが2つあると思いますが、この中にも圧痕があります」
検察官「それ以外に右手に特徴はありますか」
証人「左に比べるとむくんでいるという特徴があります。実際に切って開けると、中に組織液、要するに水がたまっていて、そのためだと思われます」
検察官「原因は何が考えられますか」
証人「手に強い圧迫が加わり、血流が悪くなったというのが一般的です」
《リンゼイさんを強姦した際か、死に至らしめた際かの言及はなかったが、検察側は市橋被告が強い力でリンゼイさんの手を押さえつけたことを印象づけたいようだ》
《続いて検察側はリンゼイさんの下半身部分について尋問を続ける》
検察官「陰部はどうでしょう。写真はありませんが」
証人「膣入り口の粘膜、右の小陰唇内側のつけ根に出血がありました」
検察官「出血はどうして起きたと考えられますか」
証人「強く圧迫されたと思います」
検察官「何が原因ですか」
証人「何か圧迫、挿入があったのでは」
《午前11時5分、休廷に入った。ウィリアムさんはポケットに手を入れて市橋被告をにらみつけ、いったん退廷した》
【英国女性殺害 市橋被告2日目(3)】首の圧迫に「かかと」使った可能性も 舌打ちするリンゼイさん父
(11:25~12:00)
《英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=に対する殺人と強姦(ごうかん) 致死、死体遺棄の罪に問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判の第2回公判は、約20分の休廷を挟み、リンゼイさんを解剖した女性医師の証人尋問 が再開された。リンゼイさんの母、ジュリアさんは再び入廷する市橋被告をにらみつける》
《男性検察官は、リンゼイさんが負ったけがや死亡の原因について女性医師に尋問を続ける》
検察官「けがは何によって生じたと考えられますか」
証人「皮下出血や表皮剥脱は鈍体でできたと考えられます。鈍体とは刃物などでないもの。手首や足首の圧痕(あっこん)にはそういう形状が強く圧迫したと考えられます」
検察官「鈍体はこぶしや足も」
証人「含まれます」
検察官「手首や足首の圧痕はプラスチック製のバンドでも可能ですか」
証人「形としては大変似ている」
《男性検察官が言う「バンド」とは、市橋被告がリンゼイさんを拘束するのに使った結束バンドのことだ。実際に犯行で使用されたことを立証する趣旨とみられる》
検察官「顔にあった鼻の傷はどうでしょう」
証人「何らかの圧迫があったと考えられます」
検察官「粘着テープでできることは」
証人「可能です」
検察官「被害者に救命措置の痕跡はありましたか」
証人「はっきりとは認められませんでした」
《一般に、心臓マッサージをした場合、胸部を強く圧迫するため胸骨の骨折などが生じる場合がある。市橋被告が主張するリンゼイさんへの救命措置の実施について、検察側の反論とみられる》
検察官「リンゼイさんの死因は何と判断しましたか」
証人「一番考えられるのは首の圧迫による窒息死です」
検察官「根拠を説明してください」
証人「首以外の表皮剥脱や皮下出血は死因となり得ない。首の筋肉からの出血や輪状軟骨の骨折など圧迫の痕跡があったからです」
検察官「首の圧迫でなぜ死亡しますか」
証人「輪状軟骨は気管を取り巻いていて、(圧迫されることで)酸素を取り込めなくなるからです」
検察官「首のほかに窒息死の根拠は」
証人「教科書には窒息の3兆候というのがあります。『血液の暗赤色と流動性』『臓器の鬱血』『臓器や粘膜の溢血点(いっけつてん)』です。これが満たされていた」
《血液は酸素不足で色が濃くなり、暗赤色に変わる。溢血点とは、毛細血管が切れ、細かい内出血が起きることだ》
検察官「リンゼイさんの溢血点はどんな風にありましたか」
証人「腎臓や肺の表面に溢血よりもう少し大きな溢血斑ができていました」
《ここで、検察官は裁判員らに分かるよう「窒息の3兆候」について再び説明を求めた》
《窒息死の場合、例外的に死後も血液は固まらないという。臓器は酸素が必要だが、不足することで血管が拡張し、鬱血するという》
検察官「どのような手段、方法で窒息したと考えられますか」
証人「輪状軟骨が両方で折れていることから、(首の)真ん中に狭い面で圧がかかったと考えられます」
検察官「狭い面での圧とは具体的にどのようなことでしょう」
証人「2通り考えられます。狭い作用面で押した場合と、平らな面で押した場合です。狭い場合は分かると思いますが、丸いものを平らなもので押すと接触部分は狭くなります」
検察官「狭いものとは人間でいうとどの部分になりますか」
証人「指でも、手のひらの下の方やかかとです」
《検察側の立証で、首の圧迫にかかとが使われた可能性も浮上した。通訳を介してやり取りを聞いていたリンゼイさんの父、ウィリアムさんが体を大きく反らし、舌打ちした》
検察官「平らなものとは」
証人「腕やすねです」
検察官「首が圧迫された力はどれくらい」
証人「教科書には強くても15キロぐらいで気道がふさがる、とあります。おそらくそれ以上でしょう」
検察官「頚部(けいぶ)圧迫の時間、窒息死するまでの時間はどれくらい」
証人「酸素を最も必要とするのは脳。脳には5分酸素が行かなければ死亡するとあります」
《ここで、検察側はモニターに「窒息の経過と症状」と題した表を映し出した。時間軸に対し、血圧や脈拍、呼吸の変化が折れ線グラフで示されている》
検察官「死亡まで5分ということですが、表に基づいて説明を」
証人「窒息が始まってから死ぬまで4期に分かれる。最初の1期(~1分)は症状が出ない。2期(1~3分)では呼吸困難、失禁などがある。3期(3~4 分)は呼吸ができなくなり、血圧も下がる。4期(4~5分)では口をパクパクさせ、呼吸が止まる。4期を越えると、口のパクパクした動きもなくなり、心臓 も止まる。個人差はありますが」
検察官「心停止までの大体の時間は」
証人「10~15分続く人もいるが、常軌を越えて長いというのはないです」
検察官「首を絞め、圧迫した場合、1分程度した後に解放すれば?」
証人「その程度であれば、そのまま(状態が)戻る可能性が高い」
検察官「3分以内、2期であれば」
証人「1期を過ぎると、急に2期に入るのではないです。3期に近づくと医療措置が必要になります」
検察官「3分以上、3期に入ってからでは」
証人「医療措置がなければ蘇生しないでしょう。自発呼吸も止まっています。人工呼吸しないと死んでしまいます」
検察官「これまでの説明で、窒息死にはどれくらいの時間が必要?」
証人「5分くらい。平均で」
検察官「首を絞めた場合、どれくらいで死亡しますか」
証人「最低でも3分は必要」
検察官「リンゼイさんの場合は」
《右から3番目の男性裁判員が身を乗り出して、証人の言葉を待った》
証人「健康な20代の女性ということで、ここからはそう外れることはないでしょう」
《これで検察側の証人尋問が終了し、休廷に入った。午後1時半から再開し、弁護側による女性医師への証人尋問が行われる》
【英国女性殺害 市橋被告2日目(4)】窒息めぐり専門用語連発 通訳「待ってください」と悲鳴
(13:30~14:05)
《英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=に対する殺人と強姦(ごうかん) 致死、死体遺棄の罪に問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判の第2回公判は約1時間半の休廷の後、午後の審理が始まった。市橋被告は、リンゼイ さんの両親をじっと見つめながら入廷。証言台の前で一礼した後、中央後方にある長いすに腰を下ろした》
《堀田真哉裁判長が開廷を告げると、午前中の検察官による証人尋問に続き、リンゼイさんの遺体の司法解剖を行った女性医師が証言台に立った。男性弁護人が尋問をはじめる》
弁護人「今までの経験についてお聞きします。今まであわせて、700~800の遺体を解剖してきたということでよいですか」
証人「介助を含めればもっとやっていますが、若いころは少なかったので、主執刀は400くらいかと。正確には覚えていませんが」
弁護人「窒息死の解剖は?」
《弁護人の質問に、女性医師は腕を組んで考えながら答える》
証人「詳しい数は(研究室に)戻らないと分からないですが、窒息関連は全体の1、2割だと思います」
弁護人「大体の数で結構ですが、その全体の1、2割の窒息で、今回のように首が絞まっているものはどれくらいですか」
証人「窒息例のなかで、首が絞まっているのは4割くらいを占めます」
弁護人「さらにその中で手で首を絞めた事例はどれくらいですか」
《女性医師は腕を組んだまま、首をかしげる》
証人「最近ですと、年間5、6例だと思います」
弁護人「手で行う首の絞まり方の典型例はありますか」
証人「典型例というのはないが、首の軟骨が折れているというのはありますね」
弁護人「例えば手で首を絞めるときに、強い力が加われば、首に指の跡がついたりしませんか」
証人「はっきり指の跡がついているというのはほとんどありません」
《次に弁護人は、首を手で締めた場合と、ひも状のもので絞めた場合の違いについて質問する》
弁護人「ひも状のものの場合、血管全体に同じ配分で力がかかると考えていいですか」
証人「そういうことですね」
弁護人「扼頸(やっけい)、手で絞めるやり方だと首に対して、一部分にしか力が入らないですね?」
証人「一部分? 圧迫したところに限られるというのはそうですね」
《弁護人は一般論から、リンゼイさんの遺体についての質問に移る》
弁護人「被害者の顔に鬱血ははっきり出ていたのですか」
証人「顔面には著明でなかったです」
裁判長「著明でないとはどういう意味ですか。かみ砕いて説明してください」
《専門的なやりとりが続く中、堀田裁判長が口を挟んだ。裁判員が話題についていけていないことを危惧(きぐ)したようだ》
証人「はっきりということではないということです」
《専門用語が多いせいか、女性通訳の通訳スピードも落ちている》
弁護人「まぶたの裏に溢血点(いっけつてん)は出ていましたか」
証人「認められませんでした」
《弁護人は、午前中の検察官の証人尋問で示された、『窒息の3兆候』である(1)血液の暗赤色(あんせきしょく)と流動性(2)臓器の鬱血(うっけつ)(3)臓器や粘膜の溢血点についての質問を続ける》
弁護人「窒息死の典型例は、顔面が腫れたり、溢血点がみられたり、ということでしたよね」
証人「そういうこともあります。それは気道だけでなく、血管も絞めた場合に一緒に起きます」
《専門的な知識が必要な話のせいか、通訳を聞いていた、リンゼイさんの母、ジュリアさんが首をかしげたままだ。医師が話を続けようとすると、通訳が悲鳴のような声でさえぎった》
通訳「ちょっと待ってください」
《通訳が終わるのを待って、女性医師が話しはじめた。リンゼイさんの父、ウィリアムさんが、通訳に「大丈夫だ」というように頷いた》
弁護人「脳に酸素がなくなるというのは血管の圧迫が相当強くないといけないのではないのですか」
証人「そうではありません。空気を求める大元がしまれば、脳に空気はいきません」
弁護人「つまり今回の場合は、血液の流れはそれほど止まらなかったが、気道がしまって十分に空気が取り込めなかったということですね」
証人「そう考えます」
《質問は、市橋被告がリンゼイさんの首をどう絞めたかという話題に移った》
弁護人「腕で絞めたのならどういう絞め方になりますか」
証人「腕なら首にある輪状軟骨を平らな面で押すような形になります」
《医師は自分の腕を示して説明する。ウィリアムさんは、通訳が首の絞め方を手振りを交えて、一生懸命伝えるのを見ている》
弁護人「今されたように、平らな面というのは、ひじから手首にかけての部分ということでいいのですか」
証人「はい」
《大型モニターに図が示される。リンゼイさんの背中の上に、市橋被告が乗って腕を後ろから首に回しているというのを表した図だ》
弁護人「こういう状態でも(窒息死は)あり得ますか」
証人「この(ひじから下を示す)部分があたっていればなります」
弁護人「窒息によって人が死ぬのには少なくとも3分かかると(検察官の証人尋問で)言っていましたね?」
証人「はい」
《モニターの画面が切り替わった。検察側の証人尋問で示したのと同じ、「窒息の経過と症状」と題した表を映し出す》
弁護人「法医学の教科書に載っていた図ですが、この本は見たことがありますか」
証人「同じ図なら他の本に載っていたのを見ました」
弁護人「窒息になってから、ほとんど無症状だという第1期ですが、20~30秒と幅がありますね」
証人「かなり個人差がありますから。プールで長く息を止められる人とそうじゃない人がいるでしょう。それと同じです」
《弁護人は、図表で示される窒息死に至る時間に、数分の開きがあることを指摘する》
証人「個人差があるということです。健康な人、呼吸疾患を患っている人、高齢の人、そういうのも加えて考えますから。おおよその目安です」
弁護人「首を強く圧迫した時と、弱く圧迫した時で、窒息死の経過時間が変わるのですか」
証人「強い弱いではありません。気道がふさがっているかです。ふさがっていなければ、経過が長くなることもあります」
《弁護人が堀田裁判長の方を向いた》
弁護人「中途半端になってしまうのでここで一度切ろうと思います」
《堀田裁判長が午後2時5分に休廷を宣言。審理は午後2時25分から再開する》
【英国女性殺害 市橋被告2日目(5)】死亡時刻はいつなのか 女医に質問続ける弁護側
(14:25~14:55)
《英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=に対する殺人と強姦(ごうかん) 致死、死体遺棄の罪に問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判の第2回公判は、約20分間の休廷後、リンゼイさんの遺体の司法解剖を行った女性医 師に対する弁護側の反対尋問が続けられた。市橋被告は入廷の際、再びリンゼイさんの両親に向かって頭を軽く下げたが、両親は市橋被告を見ようとはしなかっ た》
裁判長「では、引き続き、弁護側の反対尋問をお願いします」
《男性弁護人がすっと立ち上がり、名前を名乗った後、ゆっくりとした口調で質問を始めた。質問の内容は、死亡推定時刻の計算方法についてだ》
弁護人「死亡推定時刻の計算方法は死後硬直から判断する方法もありますね」
証人「はい」
弁護人「ほかにも、遺体の直腸内の温度から調べる方法もありますね」
証人「はい」
《弁護側の質問に対し、端的に回答する証人。1つの質問と回答が終わると、通訳の女性が弁護人と証人のやりとりを翻訳する。リンゼイさんの父、ウィリアムさんは通訳の女性の方を見ながら、じっくりと耳を傾けている》
弁護人「(証人が所属する)千葉大大学院医学研究院法医学教室ではどのような計算方法を採用しているのでしょうか」
証人「37度から実際の(遺体の直腸内の)温度を引いて、0・85で割って、その後いろいろ...。季節によって若干シフトしています」
弁護人「では、死後、直腸では37度から一時間に0・8度ずつ温度が下がるということですね」
証人「目安ということです」
《ここで、検察側から「証人の今の話では、0・8ではなく0・85です」と指摘が入る。堀田真哉裁判長が再度確認し、女性医師は「0・85」と述べた。指摘を受けた男性弁護人は、しばらく沈黙し、手元の資料に一度目を通した後、質問を続けた》
弁護人「司法解剖前に、警察が検視した鑑定書は見ましたか」
証人「はい。拝見しました」
弁護人「鑑定書には19・6度と書いてありましたか」
証人「そう書いてありました」
《この数値をもとに、弁護側は死亡推定時間を計算する》
弁護人「記録によると、検視は平成19年3月27日午後1時43分ごろとあります。直腸内の温度から考えて、検視からさかのぼって約20時間前に死亡したという理解でよろしいでしょうか」
証人「計算上はそうなります」
弁護人「では、26日の午後5時から6時前後でもおかしくはないですか」
証人「計算上はその時間も入ります」
《弁護側はこれに加え、死後硬直の状況による死亡推定時刻の算出方法も尋ねた》
弁護人「死後硬直は死後12時間後が(硬直が強くなる)ピークで36時間後まで続くのが一般的ということでしょうか」
証人「2日間ぐらい続くことがあります」
弁護人「27日の検視で死後硬直が確認されたのなら、25日午後から26日深夜の間に亡くなられたということですよね」
証人「計算上はそうなります」
《検察側は冒頭陳述で、リンゼイさんが殺害された時間を25~26日夕としている。弁護側は、死亡推定時刻から、強姦致死ではなく、強姦と傷害致死が成立することを示そうとしているのだろうか》
《この後、リンゼイさんの遺体の瞳孔の混濁状況も確認し、別の男性弁護人に交代した。この男性弁護人は女性医師が午前中、検察官の質問に証言した遺体の傷の状況について質問を始めた》
弁護人「鼻のへこみについて、なんでそのへこみができたか分かりますか」
証人「はっきりしたものは推定できませんでいた」
弁護人「鼻のへこみには粘着テープの跡はありましたか」
証人「鼻そのものにはありませんでした」
弁護人「鑑定書には...」
《ここで、男性弁護人は通訳を待たずに次の質問を続けようとし、堀田裁判長に待つように指示された。男性弁護人は少し苦笑いを浮かべ、通訳が終わるのを待った》
弁護人「鑑定書には顔面には粘着テープがあったとありますが、鼻の記載はありませんね」
証人「圧痕(あっこん)はありましたが、鼻に粘着テープはありませんでした」
《午前中、女性医師は検察側に、市橋被告がリンゼイさんの顔に粘着テープを付ける際、強く押さえつけ鼻に圧痕ができた可能性を尋ねられ、「そうかもしれま せん」と回答。弁護側は粘着テープの跡が鼻になかったことを証明することで、この検察側の提示した可能性を打ち消す狙いがあったとみられる》
《弁護側は、遺体の状況について質問を続けた。専門的な表現が続くこの日の証人尋問。裁判員たちは肘をつくなどして、一様に疲れた表情を浮かべて聞いていた》
【英国女性殺害 市橋被告2日目(6)】蘇生行為の痕跡がないワケは... 「救命のプロではないから」と主張
(14:55~15:35)
《英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=に対する殺人と強姦(ごうかん)致死、死体遺棄の罪に問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判の第2回公判。リンゼイさんの遺体を司法解剖した女性医師への弁護側による質問が続いている》
《弁護側はリンゼイさんの体に残された皮下出血の因果関係に関する質問の後、市橋被告がリンゼイさんに行ったと主張している心臓マッサージや人工呼吸に関する裏付けに移っていった》
弁護人「素人が救命行為として心臓マッサージや人工呼吸をしたとき、痕跡は残るものでしょうか」
証人「人工呼吸は残りません。心臓マッサージはたいてい、肋骨が折れるので残ります」
弁護人「肋骨が折れるというのは、心臓マッサージの際、強い力でする場合に折れることがあるということですか」
証人「心臓はカゴのように守られているので、骨の上から押しても伝わりません。折れるくらいの力を加えないと心臓に伝わりません」
弁護人「救命の資格を持っている人がマッサージをすれば、そこまでの痕跡が残るのが普通ということですね?」
証人「他の解剖例ですと、肋骨や胸骨など、1カ所だけではなく、たくさん折れていることがよくあります」
《弁護人は救命の"プロ"が行う場合、という点を強調して尋問した。リンゼイさんに関しては、心臓周辺の骨が折れているという結果は出ていない。弁護人は、市橋被告は蘇生(そせい)行為を行ったものの、素人だったために痕跡は残らなかったと主張したいようだ》
弁護人「次に遺体の傷について、先後関係についてうかがいたいのですが」
証人「生前の場合、なかなか順番は難しいです。例外的に骨折を伴うものについては分かりますが。皮下出血や表皮剥脱については難しいです」
弁護人「今回の皮下出血や表皮剥脱について、たくさん体にありましたが、それの先後関係は分かりますか」
証人「それはちょっと無理です」
《リンゼイさんの父、ウィリアムさん、母のジュリアさんの2人は身を乗り出すようにして、左隣にいる通訳の言葉に耳を傾けている》
弁護人「最後に死因についてですが、今回、窒息死ということが考えられると鑑定書に書かれていますね。窒息死の原因としては頸部圧迫や鼻孔閉塞(へいそく)と書かれています。これらは気管が閉塞されて酸素が脳にいかなくなるということですね?」
証人「そうです」
弁護人「先ほどの質問では、頸部圧迫の可能性について答えられましたが、鼻孔閉塞による死亡の可能性は法医学的に考えられますか」
証人「否定はできない、というレベルです」
弁護人「被害者は亡くなっていますが、鼻孔閉塞と頚部(けいぶ)圧迫の両方が考えられると?」
証人「うーん」
《数秒考え込んだ後、再び、女性医師が証言を始める》
証人「頚部圧迫に鼻孔閉塞がどこかで加わったとしても、鼻孔閉塞は特殊な症状がないので、否定はできないということです」
弁護人「頚部圧迫だと、15分くらいあれば死亡ということでよろしいですか。行為自体が」
証人「完全な心停止に至るまでは15分前後かかってもおかしくないということです」
弁護人「平成19年3月25日午前10時ころに頚部圧迫があったと仮定して、被害者が死亡した時刻が、翌日の3月26日夕ということはありえますか」
証人「蘇生行為が全く行われないとなると...。それだけ長い時間持つにはやはり首を絞めた後に何らかの医療措置をしないと無理ではないかと思います」
《弁護側は再び、市橋被告が心臓マッサージなどの蘇生行為を行ったとする主張を裏付けたいのだろうか》
弁護人「確認ですが、救命行為がなければ、頚部圧迫から亡くなるまではそんなに時間がかからないですか」 証人「そうです」
《この証人の答えと同時に、弁護人は「終わります」と質問を終えた。続いて、再び検察官が立ち上がり、女性医師に対する再尋問を行った》
検察官「不完全な窒息状態が続いた場合、呼吸停止に陥って心停止するまでの期間は(完全な窒息状態と比べて)違いますか」
証人「それは同じです」
検察官「輪状軟骨を骨折して、それにより気道が塞がった可能性は?」
証人「骨折しても中にへこんだ訳じゃないので、骨折そのもので気道が塞がることはありません」
検察官「リンゼイさんの直腸温度から、死亡時刻は26日午後5時ごろが目安となる、季節によって変わる、とのことでしたが、幅はどれくらいですか」
証人「直腸温度は警察の検視時点のもので、どこまで信頼できるのか判断しがたい点はあります」
《この後、弁護側も死亡時刻の特定につながる直腸温度に関する質問を行い、この日、4度目の休廷に入った》
【英国女性殺害 市橋被告2日目(7)】右目のあざ「かなり強い力で暴行」裁判員ら積極的に質問
(16:00~16:30)
《英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=に対する殺人と強姦(ごうかん) 致死、死体遺棄の罪に問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判の第2回公判。リンゼイさんを解剖した女性医師に対する検察側、弁護側双方の証人尋 問に続いて堀田真哉裁判長や裁判員の質問が始まった》
裁判長「裁判所から尋ねます。何か質問はありますか」
《堀田裁判長は6人の裁判員に顔を向けて尋ねた。裁判員らは向かって左から1~6の番号が記されたカードを首から下げている。3番の男性裁判員が手を挙げた》
裁判員「非常に分かりやすかったです。2点教えていただきたい。1点目は全身の状況についてですが、顔面の写真は痛々しかった。特に右目の回りに傷、あざがあったが、どれくらい暴行すればあの程度の傷になるのか」
証人「右目の皮下出血は下の筋まで挫滅していました。かなり強い力が加わったと思います。ただ、同じところを何回も殴ると、同じ部位に皮下出血ができるため、強い打撲ではありましたが、回数は不明です」
《リンゼイさんの痛ましい姿を思いだしたのか、リンゼイさんの母、ジュリアさんは表情をゆがめた》
裁判員「2点目です。出血は口の中であったということですが、外部に血が付くようなけがはあったのでしょうか」
証人「口の中は粘膜内で出血していました。血が出る、というのは開放性損傷ということになる。(開放性損傷は)はっきりしたものはありませんでした」
《4日の初公判で、検察側は市橋被告の自宅マンション玄関にあった黒い運動靴や室内などに、リンゼイさんのDNA型と一致する血液が付着していたことを明らかにしている。堀田裁判長が念を押して確認する》
裁判長「口の中の出血は血が(外部に)付くものではない?」
証人「粘膜下なので、外に出るものではないです」
裁判長「口の中を含め、血が出る傷はなかった?」
証人「なかったということです」
《続いて5番の男性裁判員が質問した》
裁判員「死因が窒息死ということでした。輪状軟骨に正面から圧迫が加わったということですが、骨折の程度で、どれくらいの強さで押されたかの判断は可能でしょうか」
証人「どれくらいというのは難しいです。軟骨なので、骨よりは強くないです」
裁判員「とりわけ強かった、弱かったというのは?」
証人「私は解剖で直接軟骨を触ったが、人体の軟骨の中で、輪状軟骨は強くないです。親指で思い切り押せばへこむくらいです」
裁判員「明日、ご遺族の証言で分かるかもしれないですが、昨日、弁護側の冒頭陳述で、リンゼイさんが病気を患っていたということがありました。病気の兆候はあったのでしょうか」
《弁護側は初公判の冒頭陳述で、「19年3月25日深夜、結束バンドで拘束されたリンゼイさんが市橋被告に対し、『持病がある。薬を飲まないといけない』と伝えた」としている。市橋被告はパソコンで病気と薬の名前を検索したという》
証人「特に情報はありませんでした。一通り、臓器の組織について病理検査をしましたが、(組織の)形が変わるようなものはなかったです。ただ、(臓器機能の)働きが変わるものまでは分かりません」
《続いて6番の男性裁判員が皮下出血の発生状況について尋ねた》
裁判員「皮下出血は生前、打撃や圧迫ということだった。皮下出血は呼吸停止後にも起こりうるのでしょうか」
証人「心停止後に圧迫しても、皮下出血はほとんど起きません。心臓が動くことで血管内で血液が流れますが、心臓が止まっていれば毛細血管が破れても血液は流れ出さない。水を流したホースと同じ。蛇口を止めればホースを切っても、ホースの中にある水しか流れ出ません」
《裁判員らはペンを持って、しきりにメモを取っている。1番の男性裁判員が質問した》
裁判員「説明では、頚部(けいぶ)圧迫で気道がふさがれたということでした。圧迫には15キロ必要ということでしたが、具体的にはどの程度になるのでしょうか」
《女性医師は午前の検察側証人尋問で、圧迫の強さについて、「教科書には強くても15キロぐらいで気道がふさがる、とある。おそらくそれ以上でしょう」と答えている》
証人「いろいろな例えがあります。男性の握力は30キロくらい。その半分と考えてもらえれば」
裁判員「ということは、一般であれば容易に可能ということ?」
証人「相手が動かなければ。普通、抵抗があるのでその分をプラスした力ということになります」
裁判員「窒息の過程で、ステージが2期の人体の反応は?」
《1番の男性裁判員は、検察側の証人尋問でモニターに映し出された「窒息の経過と症状」について質問した。2期は窒息後1~3分の状態をいう》
証人「よく聞くのがけいれん。筋肉がまともに働かず収縮する。これに伴い、失禁などが起きる」
裁判員「弁護側は(リンゼイさんが)うつぶせの状態だったとしているが、その場合は?」
証人「首を引っ張る力に(リンゼイさんの)重さが加わる。気道がつぶれてもおかしくないくらいです」
裁判員「最後の質問です。窒息した場合、気道が確保されても声は出せないでしょうか」
証人「気道が完全に締まると無理です。気道の確保が不完全でも、空気を吸い込まないと声は出せません。空気の流れがあるくらいなら、窒息はしません」
英国女性殺害 市橋被告2日目(8)完】「それは痛いですか」 縛られた手の組織が壊死する状況に思いをはせる裁判員
(16:30~17:05)
《英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=に対する殺人と強姦(ごうかん)致死、死体遺棄の罪に問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判の第2回公判は、リンゼイさんの司法解剖を担当した女性医師に対する裁判員の質問が続いている》
《堀田真哉裁判長が「他の方、何かあればどうぞ」と質問を促した。手を挙げたのは、右端の6番の男性裁判員だ》
裁判員「気道がふさがって輪状軟骨が折れても、ふさいでいる時間が短かければ回復するということですが、それで回復してから日常生活に支障が出たりはしませんか」
《男性裁判員は、もし、リンゼイさんが生き残った場合の、首の圧迫による後遺症の有無を心配しているようだ》
証人「本当に短時間で、意識の消失がないくらいだったら可能です」
《裁判員からの質問が一段落ついたところで、女性裁判官が質問する》
裁判官「絞まり方が不完全な状態でも気道閉塞(へいそく)が起こるということですが、かける力が15キロよりも弱くても起こりますか」
証人「起こります。完全にふさいではいないけれど、かなりふさいでいる場合ならば起こります」
《裁判官同士で何かささやきあっている。書記官のモニターの調子が悪いようだ》
裁判長「機械の具合が悪いので、少しお待ちください」
《千葉地裁の職員が来て、モニターを直している。後ろから様子を見ていた書記官が「大丈夫です」と堀田裁判長に伝えた》
裁判長「問題ないということが確認できましたので続けます」
《女性裁判官の質問に戻った》
裁判官「顔面や手首に粘着テープの痕跡があったということですが、それ以外の場所ではなかったのですね」 証人「その他の場所については鑑定書が手元にないので」
《女性医師は申し訳なさそうに答える。検察官から小さなざわめきが起きた》
《女性裁判官に代わって、男性裁判官が、窒息死に至る経緯の一般論について、女性医師に説明を求めた》
裁判官「今まで『窒息の3兆候』や、『窒息の経過と症状』というのは法医学上、確立されたものですか」
証人「はい、ほとんどの教科書に出ております」
《男性裁判官は、法医学上の知識について認識に間違いがないか、一つ一つ確認を取っていく。女性医師は「はい」、「はい」と相づちを打っている)
裁判官「気道のふさがり方が不完全なら、窒息死までの経過時間が長くなりますか」
証人「はい」
裁判官「最大どれくらいになりますか」
証人「不完全な窒息というのは非常に珍しいので。個別事例では見たことがありますが、統計は数が少ないのでないです」
裁判官「あまりに(死亡するまでの)経過時間が長いなら、窒息死以外の死因ということになるのですか」
証人「不完全なふさがり方でも死ぬまで絞めていたなら、これは窒息死でいいのではないのでしょうか」
《男性裁判官は、リンゼイさんの遺体についての質問に移った》
裁判官「本件で、リンゼイさんに対して、酸素の供給が遮断されたのと、頚部の圧迫が行われたのは、同じ時間だと思いますか」
証人「およそ同じだと思います」
《男性裁判官の質問内容はリンゼイさんの死亡推定時刻に移った》
裁判官「直腸温度では死亡推定に限界があると話していましたが、他の方法でも同じなのですか」
証人「はい。角膜の混濁で見分ける場合は、乾燥というのが問題になります」
《遺体の目は、時間がたてばたつほど、乾燥して混濁する》
証人「今回の場合のように土の中に埋まっていると、湿度が高く、時間の経過を分かりにくくします」
裁判官「死後硬直ではどうですか」
《遺体は、死後すぐに硬直し始め、その後また、時間がたつごとに硬直がとけはじめる》
証人「全身が硬直するまでの時間は、環境にあまり左右されません。硬直がとけるのは腐敗のせいです。腐敗となると気温に左右されます」
《医学上の知識について長い間話しているためか、6人の裁判員はみなうつむきがちだ》
裁判官「弁護士が、リンゼイさんの背中の上に、市橋被告が乗って腕を後ろから首に回しているというのを表した図を示しましたが、これでも、輪状軟骨は折れて、なおかつ頚部の静脈は閉塞しない状態になり得るということでいいのですか」
証人「はい」
《男性裁判官の質問が終わり、右から2番目の男性裁判員が手を挙げた》
裁判長「どうぞ」
《男性裁判員は、粘着テープで拘束されていた、リンゼイさんの手の状況について質問をする》
裁判員「長い間、水腫状態になるほど、手を圧迫すると、命にかかわる危険はありますか」
証人「命にかかわると言いますか、血流がその部分にいかないので、酸素の供給が止まり、手先の組織が壊死します」
裁判員「それは痛いですか」
証人「相当痛いでしょうね。完全に組織が死んでしまえば痛みは感じませんが、そこに至るまではかなり痛いと思います」
《男性裁判員は女性医師の答えに小さくうなずく。堀田裁判長が促すと、左端の男性裁判員が手を挙げ、リンゼイさんに鼻の骨折がなかったことを確認した》
《裁判員の質問が一段落して、堀田裁判長が女性医師に気道の閉塞が不完全な場合では、窒息死に至るまで圧迫時間が長くなることを確認した》
裁判長「閉塞が不完全なほど、長く圧迫しなければならないのですか」
証人「そうなりますね」
《続いて検察側が再び女性医師への質問をはじめた。男性検察官が粘着テープのついていた位置について確認した》
《検察側の質問が終わると、堀田裁判長は女性医師に退廷を促した》
裁判長「本日はここまでです。次回は明後日7月7日午前10時からこの法廷です。被告人は必ず出廷しください」
《堀田裁判長が閉廷を宣言すると、市橋被告は堀田裁判長に一礼。リンゼイさんの両親の方を見ることなく退廷した》
《次回、第3回公判では、当時リンゼイさんと同居していた女性の証人尋問と、市橋被告への質問が予定されている》
◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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