6月13日付 編集手帳
今ごろ「はやぶさ」はどのあたりを飛行中か。つい天空のさらに奥を見上げてしまう。大気圏突入で探査機本体は燃え尽きる。母が捨て身で子を守ったかのように、直径40センチのカプセルだけが今夜、オーストラリアの砂漠に落下する◆地球を離れ7年。エンジンや姿勢制御装置の故障、燃料漏れに通信途絶、はやぶさは満身創痍(そうい)の一人旅だった。「くしゃみ一つで危篤に」「動いている方が奇跡的」。過去記事で読む研究者の発言も悲観的なものが多い◆一度の失敗にめげず、小惑星イトカワに再着陸を試みた。採取した砂を持ち帰ってくれるかもしれない。故障で絶体絶命のピンチとなった時は太陽電池パネルを使って宇宙ヨットに変身し、生き延びた。帰還が3年延期になっても黙々と航海を続けた◆その健気(けなげ)さに、はやぶさ人気は急上昇、ネット上にファンサイトも登場した。「冷たいビール」は、先日ソユーズ宇宙船で帰還した野口聡一さん。はやぶさに言葉があれば、「後継機をぜひ」などと言うのではないか◆サッカーW杯の「初戦勝利!」は明日夜のお楽しみ。今夜は、南半球からのもう一つの朗報を待つ。(2010年6月13日01時20分 読売新聞)
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報道陣が細いマイクを突き出すと、とっさに後ずさった。獄中27年。
春秋 2010/6/11付
報道陣が細いマイクを突き出すと、とっさに後ずさった。獄中27年。新しい武器かと思ったという。その人は後の南アフリカ共和国大統領、ネルソン・マンデラ氏。差別と闘い投獄され、ついに釈放された日を自伝でそう回想している。
▼かつて、ここにはアパルトヘイトという恥ずべき制度があった。どれだけの黒人がこれに抗して倒れ、刑務所に送られたことか。1990年代の初め、そんな体制は劇的に崩れた。やがてマンデラ氏のもとで多人種共存の「虹の国」づくりを進めた南アで、きょう、サッカーのワールドカップ(W杯)が開幕する。
▼アパルトヘイトの傷跡は深い。貧富の格差は大きく、職のない若者が都市にあふれて物騒だという。それでも、南アでW杯ほどの巨大イベントを開けるようになるとは20年前にだれが想像しただろう。もともと豊かな地下資源を持ち、産業も育ちつつある国だ。今また新たな時代を迎えようとしているに違いない。
▼出獄するなりマイクを突き出されたマンデラ氏は、その後も人々を勇気づけるメッセージを発し続けてきた。「達成するまでそれは不可能に見える」「人種差別は魂の病だ。どんな病気より多くの人を殺す」……。間もなく92歳の老闘士はW杯に感無量だろう。きょうの開会式に、姿を見せるとも伝えられている。
今ごろ「はやぶさ」はどのあたりを飛行中か。つい天空のさらに奥を見上げてしまう。大気圏突入で探査機本体は燃え尽きる。母が捨て身で子を守ったかのように、直径40センチのカプセルだけが今夜、オーストラリアの砂漠に落下する◆地球を離れ7年。エンジンや姿勢制御装置の故障、燃料漏れに通信途絶、はやぶさは満身創痍(そうい)の一人旅だった。「くしゃみ一つで危篤に」「動いている方が奇跡的」。過去記事で読む研究者の発言も悲観的なものが多い◆一度の失敗にめげず、小惑星イトカワに再着陸を試みた。採取した砂を持ち帰ってくれるかもしれない。故障で絶体絶命のピンチとなった時は太陽電池パネルを使って宇宙ヨットに変身し、生き延びた。帰還が3年延期になっても黙々と航海を続けた◆その健気(けなげ)さに、はやぶさ人気は急上昇、ネット上にファンサイトも登場した。「冷たいビール」は、先日ソユーズ宇宙船で帰還した野口聡一さん。はやぶさに言葉があれば、「後継機をぜひ」などと言うのではないか◆サッカーW杯の「初戦勝利!」は明日夜のお楽しみ。今夜は、南半球からのもう一つの朗報を待つ。(2010年6月13日01時20分 読売新聞)
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報道陣が細いマイクを突き出すと、とっさに後ずさった。獄中27年。
春秋 2010/6/11付
報道陣が細いマイクを突き出すと、とっさに後ずさった。獄中27年。新しい武器かと思ったという。その人は後の南アフリカ共和国大統領、ネルソン・マンデラ氏。差別と闘い投獄され、ついに釈放された日を自伝でそう回想している。
▼かつて、ここにはアパルトヘイトという恥ずべき制度があった。どれだけの黒人がこれに抗して倒れ、刑務所に送られたことか。1990年代の初め、そんな体制は劇的に崩れた。やがてマンデラ氏のもとで多人種共存の「虹の国」づくりを進めた南アで、きょう、サッカーのワールドカップ(W杯)が開幕する。
▼アパルトヘイトの傷跡は深い。貧富の格差は大きく、職のない若者が都市にあふれて物騒だという。それでも、南アでW杯ほどの巨大イベントを開けるようになるとは20年前にだれが想像しただろう。もともと豊かな地下資源を持ち、産業も育ちつつある国だ。今また新たな時代を迎えようとしているに違いない。
▼出獄するなりマイクを突き出されたマンデラ氏は、その後も人々を勇気づけるメッセージを発し続けてきた。「達成するまでそれは不可能に見える」「人種差別は魂の病だ。どんな病気より多くの人を殺す」……。間もなく92歳の老闘士はW杯に感無量だろう。きょうの開会式に、姿を見せるとも伝えられている。