〈来栖の独白〉
本日、千葉法相の命令により、死刑が執行された。政権交代によって一先ずは果たせたかにみえた「政治主導」が、「官僚主導」に復した格好だ。
政権交代前後から起きていることは、誰が日本を支配するのか、の闘争であった。国民(選挙)によって選ばれた政治家か、あるいは資格試験(国家公務員試験、司法試験など)に合格したエリート官僚か、という闘いである。
エリート官僚から見れば、国民は愚かな有象無象だ。有象無象から選ばれた国会議員は、正に愚者の代表で、こんな輩に国家は預けられないという自負が「風紀委員」たる官僚には、ある。
官僚は、検察・外務・防衛一体となって政治家小沢氏に襲い掛かる。「検察の現場が、旧日本陸軍の青年将校のようになって自分に向かっている。連中は諦めないだろう」と小沢氏は鈴木宗男氏(新党大地代表)と佐藤優氏に述懐している。検察官僚には、小沢氏の目指す「取り調べの可視化」が、極めて具合が悪い。取り調べができなくなるほど、具合が悪い。また、検察が調査活動費等を裏金として溜め込んでいたこと(霞が関の利権)は、三井環氏の苦難によって、つとに知られている。加えて、小沢氏が検察庁人事に手を出すと言ったことも、検察の命取りである。
官僚は、何としてでも鳩山政権を葬らねばならなかった。そこで打った手が、我武者羅な陸山会でっち上げ事件であり、普天間問題であった。
これの走狗となったのがメディアである。危機感から遠いポピュリズムであった。折角成し遂げた「官僚から政治(国民)へ」という支配の転換を、国民は官僚とメディアに操られ、手ばなそうとしている。
千葉法相への法務官僚からの締め付けは相当のものだったろう、特捜の取り調べににて巧みでもあったろう、と推測できる。けれども、閣内に福島瑞穂氏や亀井静香氏がおり、自らも国民の負託を得ているうちは、辛うじて持ちこたえることができた。
しかし、民間人となって法相の座にい続けることの苛酷を私は痛ましさの中で思う。国民の支持を得てこその「政治(家)」である。「政治」とは「国民」と言い換えられるべきものだが、「官僚」は、断じてそうではない。
死刑の場から見るとき、折角始まりかけたに見えた政治主導(大臣主導)が、7月11日の参院選によって官僚主導に戻ってしまった。法務官僚に屈服させられたのだと痛感した。心して見なくてはいけないのは、本日の死刑執行が、死刑制度を支持する国民世論に押されてというよりも、世論を梃子に執拗に命令書サインを迫る官僚に負けて為されたということだ。「政治」が「官僚」の言うことを聞かせられた。ここを見極め警戒しなくては、この国は、今後官僚に支配されてしまう。検察とメディアにそそのかされ踊らされて、官僚に全権を明け渡すことになってしまう。その意味で、近く始まるだろう石川知裕衆議院議員の公判、そして小沢氏に係る検察審査会の行方も、その真実を見届けてゆきたい。
官房機密費が明かされたのも、核機密の問題が明かされたのも、記者クラブ外への閣僚記者会見オープン化も、政権交代のかぐわしい果実であった。
千葉さんが死刑執行命令書に判を押した。「政治」が官僚に負けたことだ、と国民はしっかり分からねばならない。
◆千葉景子法相の死刑執行命令--検察・官僚の掌に乗せられ
◆小沢氏と対立激化 検察が恐れる民主の4政策=民主は官僚依存症?=篠沢一男・尾形英紀死刑囚に死刑執行
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法務大臣臨時記者会見の概要 平成22年7月28日(水)
本日,私の命令の下に,篠澤一男,尾形英紀の2名の死刑を執行しました。この2名に関する犯罪事実の概略を申し上げますと,まず篠澤一男については,宝飾品店の店員を殺害して,宝飾品を強取しようと企て,同店店長ら6名の女性被害者に対し,その身体等にガソリンを散布するなどして,ライターで火を放ち,同店を全焼させるとともに,女性被害者6名全員を火傷死又は焼死させて殺害し,宝飾品を奪った,強盗殺人,現住建造物等放火事件です。尾形英紀については,自己の交際相手と肉体関係を持とうとしたのではないかと男性被害者を問い詰めたものの,これを認めないことに激高し,その背部,腹部を数回突き刺すなどして男性被害者を殺害し,さらにその状況を目撃するなどした女性被害者3名を失踪を装って殺害するため,車で連れ去った上,同女性被害者3名の頸部をタオル又はビニールロープで締め付け,うち1名に対しては更にその側胸部を包丁で多数回突き刺すなどして,女性被害者のうち1名を殺害し,2名に重傷を負わせた,殺人,殺人未遂事件です。このようにいずれの事件も大変残忍な事案でもあり,それぞれの被害者の御遺族の方々にとっても大変無念な事件であったと思います。そして当然のことではありますが,いずれの事件も裁判所において,十分な審理を経た上で,最終的に死刑が確定したものです。以上のような事実を踏まえ,慎重に検討させていただいた上で,死刑の執行を命令した次第です。今回の死刑の執行に当たりまして,私は自らが命令した執行ですので,それをきちっと見届けることも私の責任だと考え,本日の執行に立ち会ってまいりました。死刑の執行は適切に行われ,私自身,自らの目でそれを確認させていただき,改めて死刑について深く考えさせられるとともに,死刑に関する根本からの議論が必要だということを改めて強く感じました。そこで,今後の死刑の在り方について検討するために法務省内に勉強会を立ち上げることにします。私自身の下,法務省内の関係部局等によって構成することとしますが,開かれた場で幅広く外部の様々な方から御意見をお聞きをしたいと,御議論に加わっていただきたいと考えています。この勉強会はあらかじめ結論を決めて行うものではありませんが,死刑制度の存廃を含めた,死刑制度の在り方等を検討することを考えています。そして裁判員裁判によって刑事司法に対する国民の関心,あるいは自らが裁判で判断をされると,こういう責任を国民の皆様も負うことになっているという状況の中で,この勉強会の成果を公表し,死刑の在り方について,より広く国民的な議論が行われていく契機にしたいと考えています。また,刑場は厳粛な死刑執行の場ですので,本来一般の公開にはなじまないという指摘もあります。しかし,今述べたような,国民的な議論に資する観点から,今回,東京拘置所において,マスメディアの取材の機会を設けるよう私から今指示をしたところです。近くそのような機会を設けさせていただくつもりです。
死刑執行に関する質疑
Q:26日から民間人としての大臣となられました。この度の選挙は落選だったのですが,その際,これまでに行われてきた法務行政について民意の理解は得られなかったという指摘もありますが,このタイミングで死刑を執行された理由を改めてお願いします。
A:これは時間をかけて検討し,そしてまた問題がないかどうかを精査をさせていただき,その結果,このような時期になったということです。
Q:死刑執行のタイミングと御自身の選挙との関係がやはりあったと理解してよろしいですか。
A:全くそれはありません。それ以前から様々な検討をさせていただいていました。
Q:国民的議論については,昨日の会見でも具体的な行動についてはなかなか知恵がないとおっしゃっていて,引き続き検討をしていくというようなお話だったのですが,なぜ執行してから勉強会を立ち上げるなどの具体的な行動を起こすということになったのでしょうか。それ以前に国民的議論を深めようという行動なり努力というのはされなかったのでしょうか。
A:これも,これまでも申し上げてまいりましたように,どのような形で行えばいいのか,私なりに考え続けてまいりました。その一つの結果です。
Q:今日までの間に国民的な議論は,結局起こされなかったと思うのですけれども,いかがでしょうか。
A:これまでの間は,なかなかそこまで私も至ることができなかったのは確かです。今後,是非私たちも正面から議論させていただき,そして,それを受け止めて国民の皆様にも様々な議論の状況を御提供し,それに基づいた議論を様々な場で展開をしていただくことを願っています。
Q:死刑の執行に法務大臣が立ち会うのは今回が初めてのことですか。
A:分かりませんが,多分そうではないだろうかと思います。
Q:立ち会ったときの率直な心境とはどういうものだったのですか。
A:私はあくまでも指揮命令をした者として,自分の指揮命令をきちっと確認をするということで立ち会わせていただいたと,これに尽きることです。
Q:死刑の執行と勉強会の立ち上げというのはセットでなければならなかったのですか。執行しなくても立ち上げること,議論をすることはできたと思うのですけれども。
A:別にセットで考えたわけではありません。
Q:たまたま一緒になっているという,そういう理解でよろしいですか。
A:それで結構です。
Q:大臣は,参議院議員として,大臣就任前は死刑廃止を求める活動に一生懸命取り組んでこられたと思いますが,今回,死刑廃止を求める御自身の信念を曲げることをされたわけですが,信念を曲げて署名したことについて,心境をといいますか,その辺をお願いします。
A:私も死刑の問題について,様々な議論の下で廃止をするという方向があれば,それは一つの方向性だろうと,そのために私もいろいろな議論に参加をしてきました。これからも多くの皆様との議論の中で,廃止という方向が出れば,それはまた一つの国民的な回答だろうというふうに思います。そういう意味では,決して私が何か考え方を異にするということではありません。これまでも,方向としてはそういうことがこれから求められていくのだろうというふうに考えていましたけれども,法務大臣としての職責が定められているということを承知をしながら大臣職を務めさせていただいてきたということです。
Q:これまで慎重に検討されるということをおっしゃってきて,今回執行を決めたという一番の理由は何なのでしょうか。
A:これは様々な要件,あるいは状況,こういうものを,この間,検討させていただいてきた,その結果だということです。
Q:具体的には。
A:いろいろな要素があります。
Q:今日,二人の死刑の執行を御覧になったということでよろしいですか。
A:はい。それぞれ立ち会わせていただきました。
Q:順番は,どういう順番でしょうか。
A:申し上げたとおりです。
Q:残りの死刑確定者は107人ということでよろしいでしょうか。
A:現在107人です。
Q:今後勉強会を立ち上げて,議論を深めるということですが,その議論である程度の結果が出るまで,また次の執行というものは考えないということなのでしょうか。
A:今それを申し上げることはできません。
Q:野党の一部に,大臣の落選後から,問責決議案を出そうという意見もありますけれども,9月の代表選後に辞めることが分かっている大臣がこのタイミングで死刑執行を行ったことについて,問責決議案を出すという意見もある中で,このタイミングで行ったことによる影響といいますか,それからそういう政治的な動きへの影響など,それが出された場合の対応をお聞かせください。
A:今回のことはこれまで検討をさせていただき,そしてその結果として執行に至ったという,これだけです。
Q:勉強会についてなのですが,大臣が議論するのでしたら,大臣が在職する間に日程の目途や,あるいは方向性を出してもらいたいという御意思はあるのでしょうか。
A:そんなに簡単に私は結論が出るとはなかなか思いません。ただ,やって何にもならないというようなことがあってはならないと思いますので,そこはできるだけ,精力的に,そしてまたいろいろな御意見も聞き,あるいは発信をし,そして議論を進めていかなければならないというふうに思います。
Q:本日の死刑執行に立ち会われて,感想というのは難しいと思いますけれども,驚かれたこととかおかしいと思ったこととか,想像と違っていたこととか,何か一つでもございませんでしょうか。
A:執行については,個別な私のコメントは差し控えさせていただきます。
Q:本日の執行に至ったというのが,予算委員会や問責決議案が参議院で出されたりということについて,批判をかわすといった意味合いはなかったのでしょうか。
A:全くありません。
Q:選挙前から検討をされていたということですけれども,勉強会はまだなかったのですから,検討というのは,省内で大臣を含めてどのような形で検討されたのか具体的にお願いします。
A:当然のことながら,記録を精査する,あるいは今の実情などの報告をもらう等々の検討を続けてきたということです。
(以上)
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死刑執行:東京拘置所の2人、千葉法相下で初 毎日新聞2010年7月28日11時32分(抜粋)
だが今回は09年7月28日に森英介前法相下で執行されて以来、政権交代をはさんでちょうど1年ぶり。この間にも死刑確定は相次ぎ、今回の執行後の確定死刑囚は前回執行後の101人から107人に増えた。
執行されたのは尾形英紀(33)、篠沢一男(59)=いずれも東京拘置所収容=の2死刑囚。
確定判決などによると、尾形死刑囚は03年8月、交際していた当時16歳の無職少女を巡ってトラブルになった飲食店従業員の男性(当時28歳)を埼玉県で刺殺。様子を見に来た同じアパートの住人(同21歳)も絞殺し、他の2人にも重傷を負わせた。
篠沢死刑囚は借金苦から強盗殺人を計画。00年6月、宇都宮市の宝石店を訪れ宝石を用意させ、6人を縛って休憩室に押し込み、ガソリンをまいて放火。全員を殺害し、指輪など293点(時価合計約1億4025万円相当)を奪った。
死刑確定から執行までの期間は尾形死刑囚が3年、篠沢死刑囚が3年4カ月。【石川淳一】
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《死刑執行命令を発する権限と義務》
・刑事訴訟法
第475条
1 死刑の執行は、法務大臣の命令による。
2 前項の命令は、判決確定の日から6箇月以内にこれをしなければならない。但し、上訴権回復若しくは再審の請求、非常上告又は恩赦の出願若しくは申出がされその手続が終了するまでの期間及び共同被告人であつた者に対する判決が確定するまでの期間は、これをその期間に算入しない。
第476条
法務大臣が死刑の執行を命じたときは、5日以内にその執行をしなければならない。
・死刑執行命令を発する権限と義務
刑事訴訟法によれば、死刑執行の命令は判決が確定してから6か月以内に行わなければならないが、再審請求などの期間はこれに含まれない。また、大臣によって決裁の頻度は異なり、賀屋興宣や左藤恵等、在任中に発令の署名をしなかった大臣の例もある。第3次小泉改造内閣の法相杉浦正健が就任直後の会見で「私の心や宗教観や哲学の問題として死刑執行書にはサインしない(杉浦は弁護士出身、真宗大谷派を信仰)」と発言したところ各所から批判を浴び、わずか1時間で撤回するという騒動が起きた(ただし、在任中は死刑執行命令を発しないで、結果的に最初の信念を貫き通した形となった)。
判決確定から6ヶ月という規定は、日本国憲法制定後に、「今までのように死刑執行まで時間がかかりすぎるのは、死刑執行を待つ恐怖が長く続くことになって残酷であり、新憲法の趣旨にも反する」という理由で作られたもので、「犯罪者に対する厳正な処罰のために、6ヶ月で執行しなければならない」とする解釈は、本来の趣旨ではない。判決確定から6ヶ月以内に執行されない事例がほとんどであり、実効性のない規定になっている。
>エリート官僚から見れば、国民は愚かな有象無象だ。有象無象から選ばれた国会議員は、正に愚者の代表で、こんな輩に国家は預けられないという自負が「風紀委員」たる官僚には、ある。
全くその通りと思います。これまでも数々の場面でエリート官僚たちは国民を見下してきたと。そして今回、法務官僚は千葉法相に何と惨く接したか、具体的にどう働きかけたのか、我々は知らなければならないと感じました。
千葉さんを、保身の為に刑を利用したとする浅い見方が世に満ち溢れていることにも落胆の思いです。
いつも興味深く拝見してきました。来栖さんの論、見事に正論です。政権交代のとき、「脱官僚依存」と言いましたが、耳にしなくなりました。検察官僚は「政治とカネ」の問題をでっち上げ、政権回復を画策しました。選挙まで左右しました。
おっしゃる通り、マスメディア(マスゴミ)も、大役を担いました。
>千葉さん。もう、楽にしてあげたい。退陣でいい。
来栖さんの優しさ、それと死刑の現場に接してきた人の気持ちを感じました。決して千葉さんを叩いていない。
これからも、読ませてもらいます。
コメント、心よりありがとうございます。陸山会問題のころから痛切に感じるのは、「官僚」と「政治」との関わりです。官僚についての認識がないと「政治」が見えてこない、そのように思います。昨年12月の習近平さんと天皇さんの会見も、官僚(宮内庁長官)と政治(内閣)について国民に考えさせるものでした。ここでも、マスゴミの動きは偏っていました。
>浅い見方
官僚の中でも、検察はひどすぎますね。小沢氏、石川氏、ムネオ氏なんか、すっかり人間像を歪めて伝えられ、一時は殆ど政治生命を絶たれたも同然でした。こんな検察による被害者が、いっぱいいるのです。厚労省村木厚子さんの一件なんか、まるでドラマです。
>マスメディア(マスゴミ)も、大役を
このゴミに対抗出来るものがあるとすればネットかな、と思いますけど、ネットにも問題が~。