広島女児殺害事件差し戻し控訴審判決 他国の前歴加味せず 精密司法から核心司法へ

2010-07-28 | 死刑/重刑/生命犯

〈来栖の独白〉
 ニュースは「差し戻し控訴審 広島女児殺害でヤギ被告に無期懲役」と伝えた。
 如何なる理由であれ、結果として死刑が回避されたことはよかった。
 当該事件を巡っては、担当した楢崎康英高裁裁判長が家裁へ転任となったりして、「官僚司法」というものを考えさせられた。司法制度改革とは拙速裁判である、ことも痛感させられた。
〈アーカイブ来栖の独白 2010-04-15〉
 「当事者が立証しようとしていない点まで立証を促す義務はない」として2審広島高裁判決を破棄、審理を高裁に差し戻し、司法制度改革(裁判員制度・拙速)に逆行した楢崎さんを、所長とはいえ山口の家裁へ「異動」させた最高裁であった。
 その意を酌むなら、差し戻し審が精神鑑定など行うはずもない。手間隙(精密司法)かけず、とっとと(核心司法)、時代の流れ(厳罰潮流)に即した判決で一丁上がりってところでなければよいが。
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クローズアップ2010:広島女児殺害、再び無期 従来基準で死刑回避
 広島市で05年、小学1年の女児(当時7歳)が殺害された事件の差し戻し控訴審で、広島高裁がペルー国籍のホセ・マヌエル・トレス・ヤギ被告(38)に下した量刑は1審と同じ無期懲役(求刑・死刑)だった。被害者が1人の場合でも死刑が適用されるか注目されたが、判決は従来の死刑適用基準に沿った形になった。また、国外での前歴についての判断も焦点となったが、判決は「十分な検討がなされていない他国での前歴を国内前歴と同様には評価できない」として量刑に加味しなかった。【牧野宏美、中里顕、寺岡俊】
 死刑適用の一般基準である永山則夫元死刑囚への最高裁判決(83年)は事件の態様(特に殺害方法の執拗(しつよう)さや残虐さ)や結果の重大性(特に被害者数)、遺族感情など9項目を考慮し、責任が極めて重大でやむを得ない場合に死刑が許されるとした。判例では、特に被害者の数が死刑適用を大きく左右し、被害者が1人の殺人事件で死刑が確定したのは金品目的の身代金目的誘拐や強盗殺人が大半。わいせつ目的で殺人の前科がなく死刑となった奈良市の小1女児殺害事件の奈良地裁判決(06年)は異例だ。
 トレス・ヤギ被告について、1審判決は「被害者が単数の事案で死刑を選択するには、複数事案に比べて、より悪質な事案であることを要する」と述べ、計画性や前科がないとして死刑を回避した。今回の判決も永山基準に照らして1審判決を検討。「命を奪われた結果そのものが他の量刑要素より重視されることは必然」とした上で、1審判決は性被害を伴う事件の残虐性や遺族感情も正当に考慮しており、被害者数だけを重視したものではないと評価した。菊田幸一・明治大名誉教授は「本件では、計画性も犠牲者数も命をもって償うべしとの根拠にはならないし、新しい証拠もない。死刑とはそれ以外選択の余地がない場合にのみ選択すべき」と歓迎した。
 一方、検察は今回、「従前の判例基準を形式的に当てはめるのではなく、昨今の社会的要請に応え、厳罰化をもって臨む責務がある」と促し、本件での死刑適用を「遺族だけでなく大多数の国民が是認する」と主張した。しかし、判決は「1審判決は公平公正の観点から、法的安定性や罪刑均衡にも十分配慮した判断」と述べ、厳罰化の流れに「量刑の公平公正」「法的安定性」などの概念を対峙(たいじ)させ、検察の主張を退けた。諸沢英道・常磐大大学院教授は「性犯罪や子どもが犠牲になる犯罪に対する世論の批判は厳しく、死刑判決も十分あり得ると思ったが、前歴の裏を取らないなど検察の立証に甘い点があった」と話した。
 ◇他国の前歴加味せず
 奈良女児殺害事件の判決では、別の幼女へのわいせつ前科が死刑適用に影響した。トレス・ヤギ被告のペルーでの前歴は少女に対する2件のわいせつ行為で公訴提起されたという内容だが、公判中に被告が逃亡するなどしていずれも有罪が確定していない。1審で検察が「女児への異常な関心と性癖を裏付ける」と証拠採用を求めたが、公判前整理手続きに間に合わなかったことなどから広島地裁は申請を却下した。
 しかし、差し戻し前の控訴審で広島高裁は証拠に採用。「その罪を犯したことが確実である場合は、適切に考慮すべき場合がある」と量刑に加味すべきとの見解を示したが、今回の判決は、ペルーでの刑事手続きの検討が十分でないことなどから、「量刑に関する心証形成上の資料として用いない」とした。
 内田博文・神戸学院大法科大学院教授は「妥当な判断。前歴を国内外問わず同等に扱うべきとの考えもあるが、今回はペルーで適正な刑事手続きを踏んだのか疑問が残った。日本で厳格に審理された場合は別だが、それもなかった」と話した。
 ◇「迅速」「精密」どう両立--1審判決から4年
 1審は導入を控えていた裁判員裁判の「モデルケース」と言われ、公判前整理手続きを先駆的に採用し、迅速化を目指したが、1審判決(06年7月)から差し戻し控訴審判決までに4年が経過した。
 差し戻し前の控訴審判決(08年12月)は「1審は訴訟手続きに違法があり、審理不十分」とし、犯行場所特定を促した。最高裁判決(09年10月)は控訴審判決を差し戻しはしたが、一定の理解を示した。いずれも、伝統の「精密司法」を重視する姿勢を見せた。今回の判決も、「前歴関係証拠の取り調べ請求が必要と判断すれば、公判前整理手続きを終結させないよう求めるべきだった」と検察の不手際を指摘した。
 この結果、早期の結論を求める遺族にとっては、苦しみが続くだけではなく、司法への不信も増大した。裁判員裁判が始まり1年以上が経過したが、今回の裁判は迅速化と精密性という相反する課題の両立の難しさを示している。
◆永山元死刑囚の最高裁判決以降、犠牲者が1人で死刑判決(1審)が出たケース◆
判決     地裁名      主な罪名  その後の結果
84年 1月 東京       強盗殺人  死刑確定
    3月 名古屋      殺人    無期懲役確定
85年 7月 広島・福山支部  殺人、誘拐 死刑確定
86年12月 東京       殺人、誘拐 死刑確定
88年 3月 那覇・石垣支部  殺人、誘拐 無期懲役確定
         熊本       殺人、誘拐 死刑確定
90年11月 松山       殺人    無期懲役確定
91年 2月 大阪       強盗殺人  死刑確定
92年 6月 福島・郡山支部  強盗殺人  死刑確定
93年10月 福岡・小倉支部  殺人    死刑確定
95年 1月 東京・八王子支部 強盗殺人  無期懲役確定
00年 5月 熊本       強盗殺人  控訴中に自殺
02年 3月 水戸       殺人、放火 無期懲役確定
03年 5月 岡山       殺人    死刑確定
    7月 さいたま     殺人、放火 上告中に病死
06年 9月 奈良       殺人    死刑確定
08年 5月 長崎       殺人    上告中
09年 3月 名古屋      強盗殺人  1人死刑確定
                      1人は控訴中
毎日新聞 2010年7月29日 大阪朝刊
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広島女児殺害事件 差し戻し控訴審 2010-04-09 
【広島女児殺害】精密司法から核心司法へ 2009-10-16
産経2009.10.16 23:28
 審理を広島高裁に差し戻した16日の最高裁判決は、裁判員裁判で必ず行われる「公判前整理手続き」の導入など司法制度が大きく変わるなかで、「合理的な期間内に充実した審理を終えることが、これまで以上に強く求められている」と制度改革の大前提を再確認した。ただ、最高裁判決が言及した部分は、制度改革の一般論にとどまったもので、公判前整理手続きを含む刑事裁判のあり方に、何らかの方向性が明確に示されたわけではない。
 最高裁判決は、2審の広島高裁が1審の広島地裁の判決について「地裁は調書を証拠として調べなかったため、犯行現場を事実誤認した」などと指摘、証拠採用を却下したことを「まことに不可解」などと非難したことに対して示された。調書を詳細に検討し、真相究明を重視してきた「精密司法」から、裁判員裁判時代に入り、検察側、被告側の主張に基づいて、端的に事実認定する「核心司法」へと転換しつつあることを印象づけたといえる。
 真相究明を使命として強く意識した高裁の姿勢だったが、最高裁判決は消極的ながらも、これをたしなめる格好となった。
 緻密な立証は、真相を明らかにするためには有効な手法のひとつだ。一方で、裁判員裁判がすでに始まっているなか、裁判を長引かせ裁判員の負担を増やすリスクを負ってまで、当事者の検察官や弁護人が求めていない証拠を裁判所が主張・立証させる必要があるのかどうか。「スピード」と「真相究明」のバランスをいかにとっていくかが問われている。(酒井潤)
広島女児殺害 最高裁=当事者が立証しようとしていない点まで立証を促す義務はない 2009-10-16 
光市母子殺害事件(差戻し)・広島女児殺害事件控訴審裁判長だった楢崎康英氏が山口家裁所長・・・2009-10-14配信 毎日新聞) 山口家庭裁判所(山口市)に今月1日着任した楢崎康英所長(60)が13日、着任会見を行った・・・
〔広島女児殺害事件 控訴審 判決文要旨〕2008年12月9日 広島高裁 楢崎康英裁判長 言渡し


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