「GDPの数値」市場の反応に無頓着な直嶋経産相  民間エコノミストに広がる「二番底」の懸念

2009-11-17 | 政治
余録:閣僚発言の重み
 「破綻(はたん)とはほころびのことです」。とぼけた答弁は、昭和改元間もない1927年3月、衆院でたずねられてもいない銀行の破綻に言及し、昭和金融恐慌を引き起こした片岡直温蔵相のものだ。銀行破綻の意味を分かっているのかと責任追及されて答えた▲「昭和史」は閣僚の失言から始まったといわれる。「今日正午ごろ渡辺銀行が破綻しました」。この片岡発言により当時まだ金策を続けていた銀行が取り付け騒ぎにあい実際に破綻した。蔵相は責任を否定したが、金融不安は燃え広がった▲ついに戦争の破局にいたった戦前昭和史の迷走の最初のつまずきが閣僚の失言だったことは、政治家が常に肝に銘ずべきだろう。そして経済閣僚の発言が、一瞬のうちに地球上のすみずみにまで影響力を及ぼす今日のグローバル経済である▲だから直嶋正行経済産業相が国内総生産速報の内容を発表前に明らかにしたことは“野党ぼけ”と言われても仕方ない。いうまでもなく政府の発表する経済指標は為替、債券、株式などの市場に大きな影響を与える。このため発表時間が厳重に管理されるのは当たり前の話である▲速報値は予測の範囲でもあり、発言で混乱はなかった。だが円高容認と受け取られた財務相発言や、すわ金融モラトリアム(支払い猶予)かと思わせた金融担当相発言など、どうも市場の反応に無頓着な言葉が目立つ鳩山政権の経済閣僚だ▲いや、ことは経済閣僚ばかりでない。国民からその運命を託された者が自らの言葉の重さに鈍感であってはならぬのは首相ら全閣僚にいえる。政権交代が直ちに望ましい政治を保証するわけではないのも、戦前昭和史の教訓だ。(毎日新聞2009年11月17日)
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春秋(11/17)
 用を足すつもりで、うっかり外に出たのが運のつき。必死に弁明しても、二度と部屋に入れてもらえなかった。午前8時30分に迫る秒針を見て、冷や汗が噴き出た。ワシントンで経済指標の速報記事の送信に失敗した苦い思い出がある。
▼GDPや失業率などの数字は、発表と同時にニュースが流れる。その仕組みのタネ明かしをすると、記者は解禁時刻より前に資料を渡されて、記事を書く時間を与えられる。ただし部屋に缶詰めになり、携帯やメールは一切禁止。トイレで遅刻や中座などは即刻アウトだ。情報管理の厳しさは洋の東西を問わない。
▼30分以上も前にGDPの数値を口外した直嶋正行経産相は、その重みをどう考えていたのか。直後に情報漏洩(ろうえい)を指摘されても、あまり悪びれた様子はなかった。金融市場では、たった1秒の時間差に天文学的な額の投資マネーが滑り込む。経済閣僚が「知らなかった。失礼しました」と笑って済ませる話ではない。
▼事務方の仕事だった統計の説明も、政権交代で政務官が担当するようになった役所もある。政治家が官僚より口が軽いとは限らないが、経産相の言動を見て、市場は政権の情報の扱いに疑心暗鬼の目を向けるかもしれない。GDPが予想以上の伸びとなったのは結構だが、日本という国の信用がほころぶのは困る。(日経新聞2009/11/17)
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社説:2期連続の成長 安心と希望生む政策を
 内閣府が16日発表した今年7~9月期の国内総生産(GDP)の速報値は、実質成長率が年率換算の前期比で4.8%と2期連続のプラス成長になった。「100年に1度の経済混乱」といわれた昨秋のリーマン・ショックが、予想外に短期で大きな痛手をもたらさずに収束しつつあるといえる。前政権時代からの政策の総動員で、経済を底割れさせなかったことをひとまず評価したい。
 今回発表の成長率は、エコノミストが予想した平均値の2%台半ばよりも高かった。外需の輸出が引き続き好調で、内需の個人消費と設備投資が、自動車や家電製品の買い替えを促すエコポイント制度などの効果で予想外によかったためだ。
 しかし、景気刺激策の効果はピークを過ぎた。株価も最近は一時の勢いがない。失業率は高止まりだし、大企業の冬のボーナスは前年実績比で過去最大の落ち込みになる見通しだ。だれもが「先行きは不透明」と感じ、「ここから先が心配だ」と思っている。
 今後は成長が鈍り、四半期単位でのマイナス成長も覚悟しなければならないかもしれない。だからといって、目先の景気刺激策を繰り返すのはきりがない。これから政府が検討する2次補正予算案では、中長期の観点で家計に元気を与える失業対策や生活支援策を柱とした政策に知恵と限られた財源を投入することが大事だ。
 年末にかけて本格化する来年度予算案の編成や来年度の税制改革論議も、思いのほか重要だ。日本の経済に必要なのは、技術革新や生産性の向上ばかりでなく、国民の間に将来への希望や安心感が広がっていくことである。それが家計支出となって経済の歯車を動かす。
 予算案作りを通じ、税金を国民の暮らしにきちんと生かそうとしているか。税制改革で、所得の再配分や税の公平にどれだけ気を配っているか。国民は新政権の本気度を測ろうとしている。日々一喜一憂する株式などの市場関係者も、意外にそうした基本姿勢を注目している。政策と政策運営に対して国民の信頼感と共感が得られれば、経済対策として非常に大きな意味を持つ。今、心配されるデフレも不安心理の増幅によって生み出されるものだから、デフレ対策にも有効である。
 その意味で、直嶋正行経済産業相が発表前の成長率を業界との会合で漏らしたのは、信頼を大きく損なってしまった。「解禁時間を知らなかった」とは経済閣僚としてお粗末である。ミスで片づけられず、資質を問われても仕方ない。経産相は猛省しなければいけないし、政府としても軽く扱うべきことではない。(毎日新聞2009年11月17日)
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日経新聞 社説1 景気息切れに備えて効果高い対策を(11/17)
 景気の実感に比べて違和感の強い数字ではないか。7~9月期の国内総生産(GDP)速報は物価変動の影響を除く実質の前期比で年率4.8%増と2四半期連続で伸びた。
 伸びは昨年秋の金融危機後で最大である。内需がプラス成長に貢献し、企業の設備投資も増えた。だが成長を支えたのは環境に配慮した新車購入への減税に代表される政府の景気対策や、中国を筆頭に好調な対アジア輸出だ。自律回復には遠い。
 物価が続けて下がるデフレ傾向も深刻だ。人々の実感に近い名目GDPは前期比年率で0.3%減と、6四半期もマイナスにあえぐ。雇用情勢が厳しく、賃金の抑制も続きそうで、物価の下落圧力は消えない。
 民間エコノミストや日銀には、政策効果が一巡する2010年の前半にかけ、日本経済が再びマイナス成長に陥る「二番底」を心配する声もある。景気息切れやデフレの阻止に焦点を当てた政策運営を政府・日銀はもっと真剣に考えるべきだ。
 鳩山政権は10年度予算と並行で09年度の第2次補正予算を組み、雇用や景気を支える経済対策を考える方針だ。麻生政権の09年度補正を執行停止して生じた2兆9000億円の大半を財源に充てる方向という。
 菅直人副総理・経済財政担当相は補正の執行停止で09年度の実質GDPが0.2%押し下げられると認めた。低成長の日本にとって小さくない数字だ。2次補正で穴を埋めるなら、前政権よりも経済効果の高い政策を打ち出す必要がある。
 だが鳩山政権の経済政策を仕切る司令塔はいまだに見えてこない。景気や財政の推移、経済の需要不足の規模をみて、必要な政策を考えるというマクロの視点が欠けている。補正の執行停止で浮いた分を単純に財源に充てる数合わせの発想が、その一つの表れだ。
 10年度予算は95兆円超に膨れた概算要求の削減が焦点となる。本予算で恒常的な経費を抑えて財政規律を保つのは大切だ。一方の2次補正は景気テコ入れが狙いであり、柔軟に中身を詰めるべきではないか。
 菅経財相は省エネ製品の購入を促すエコポイント制を住宅にも導入する考えを表明した。雇用、環境、子どもの3つを柱に政府の経済成長戦略を年内につくるという。
 雇用なら目先の失業者対策に加え、雇用創出が望める産業の規制緩和など民間の力を呼び込む策が必要だ。ガソリン暫定税率の廃止を見送って別の政策の財源にしてもいい。政権公約に固執せず、状況変化に合わせた政策の展開を求めたい。

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