「邪魔ならいなくなる」 亀田史郎氏、心境語る
中日新聞2007年10月17日 朝刊
世界ボクシング評議会(WBC)フライ級タイトル戦(11日)で挑戦者の亀田大毅(協栄)が反則行為を繰り返した問題で、無期限のセコンドライセンス停止となった父親の史郎氏は日本ボクシングコミッション(JBC)の処分から一夜明けた16日、東京都内の自宅で「悪いことは悪い」と反則行為の非を認め、自身の処分について「仕方ない。わたしが邪魔であればいなくなってもいい。もうセコンドに付くのも、しんどい」と気落ちした表情で語った。問題が起きてから同氏が報道機関の取材に応じたのは初めて。
史郎氏は「この先、正直どうなるか分からない。わたしは親として(子どもたちを)守らなければならない」などと吐露。世論の厳しい批判にさらされた上に1年間のボクサーライセンス停止処分を受けた二男の亀田大には親として心を痛め、11日の試合後に帰宅してからの様子を「翌朝の4時までずっと泣いていた。あれからずっと悩んでいる」と明かした。
亀田大が試合前に「負けたら切腹する」と発言したことに、史郎氏は「命を懸けてやるという意味で言ってしまった。大毅には『一日も早く前向きになってくれよ』と話している」と励ましている様子を語った。
亀田大の所属先である協栄ジムの金平桂一郎会長は16日、東京都文京区のJBCを訪ねて謝罪した。
監督責任を問われ、3カ月間のクラブオーナーライセンス停止処分を受けた金平会長は記者会見で「(処分を)重く受け止めている。亀田家らしいパフォーマンスが共感を得ていたが、反則とは別。わたしも厳重注意して管理、監督をしないといけない」と述べた。
金平会長は内藤大助(宮田)の元に謝罪に向かう意向を示し「早く公の場に出て謝罪しないといけない」と亀田大らに記者会見の場を設ける必要性も示した。
金平会長は所属選手の試合の交渉を終え、ロシアからこの日帰国した。
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リング汚した代償、亀田一家処分 亀田大毅は1年間出場停止
2007年10月16日 中日新聞朝刊
世界ボクシング評議会(WBC)フライ級タイトルマッチ12回戦で重大な反則行為があったとして、挑戦者の亀田大毅(協栄)が15日、日本ボクシングコミッション(JBC)から1年間のライセンス停止処分を下された。今後のボクサー生命さえも左右しかねない厳罰となった。
セコンドについた父・史郎トレーナーは無期限のセコンドライセンス停止、兄の興毅(協栄)は厳重戒告処分を受けた。協栄ジムの金平桂一郎会長は3カ月のクラブオーナーライセンスの停止となった。処分はいずれも同日付。亀田大は11日の内藤大助(宮田)との世界戦で反則を繰り返し、12回には相手を持ち上げてたたき落とす暴挙に出て減点3を受けた。
◇満場一致で処分決定
JBC倫理委員会は満場一致で処分を決定。斉藤慎一委員長は重苦しい雰囲気の中で記者会見に臨んだ。
-史郎氏への無期限資格停止処分は、はく奪とどう違うのか。
刑の執行でははく奪は死刑と同じ。行動によっては期限が短縮される可能性はあるが、今のところは考えていない。
-大毅選手への処分については。
前途のある選手で厳しいという意見もあったが、世界戦でああいう行為があったことが重要。1年たっても19歳。一つの苦労を乗り越えて前進していけば、いい王者になる可能性もある。
-世論は影響したか。
批判の声が高まっているのは分かっていたが、処分とは別。ボクシングはルールに基づいたスポーツ。反則に対してペナルティーを与えた。
-肉親にセコンドを認めたJBCの責任は。
責任がないといえる立場ではない。ただ、プロボクシングはビジネスと関係しており、世間の法則だけでくくれない。
◇JBCの責任は棚上げ
倫理委員会の委員長を務めるJBCの斉藤慎一専務理事は、JBCの管理監督責任を問われると「プロボクシングはビジネスの要素を持つとルールにも書いてある。ビジネスはプロモーターがやっていること。JBCに責任はない」と言ってのけた。亀田側への厳罰は当然だが、JBC自体の責任については棚上げしてしまった。
確かに、亀田一家は不人気のボクシング界を救う存在に違いなかった。いわば「ビジネス」を成功させるための象徴。これまで、父親の史郎氏が乱闘騒ぎに加担するなど不祥事を起こしても野放しにしてきた理由は、そこにある。今回の試合でも肉親をセコンドに入れてはいけないとのWBC規定を、試合開催地のコミッション権限で容認。周囲を見下すような非常識な言動も興行の一部と見過ごしてきた結果、重大な問題を引き起こした。
3月の亀田興の試合でレフェリーを務めたJBC試合役員会の浦谷信彰会長は、その試合の後に史郎氏からレフェリングについて執拗(しつよう)などう喝を受けた経験がある。「あのことと今回を一緒にしたくないが、結果としてまた問題が起きた。過去の経緯は厳重に考えるべきだ」と指摘。東日本ボクシング協会のある理事も「毅然(きぜん)とした態度を取ってこなかったJBCが諸悪の根源」と批判する。
一家を特別扱いするのではなく、逆に亀田だからこそしっかりと監督する必要があったのではないか。JBCの安河内剛事務局長は「しっかり議論し今後に生かしたい」と一般論に終始。この体質を変えなければ第2、第3の亀田が出る。そして、この国ではボクシングが魅力あるスポーツとしての地位を完全に失ってしまうだろう。