【金正恩と核・対話攻勢の行方】(下)トランプ氏、北の非核化「責任負っている」 習氏は在韓米軍撤退へ布石

2018-04-30 | 国際/中国/アジア

【金正恩と核・対話攻勢の行方】(下)トランプ氏、北の非核化「責任負っている」 習氏は在韓米軍撤退へ布石 

産経ニュース 2018.4.30 09:00

 「力(の政策)こそが核戦争の回避につながる」米大統領のトランプは28日、中西部ミシガン州で開いた政治集会で大勢の聴衆を前にこう訴えた。この日の演説で「3~4週間以内に行う」とした米朝首脳会談について、非核化実現に向けた厳然たる姿勢で臨む立場を打ち出すと、支持者らは「ノーベル、ノーベル!」と連呼し、トランプのノーベル平和賞受賞を期待する声を上げた。

 ただトランプは、支持者たちほど気が早くもないし、楽天的でもない。

 トランプは、北朝鮮の金正恩体制が簡単に核放棄に応じるわけがないことは最初から十分に承知している。また、米国が北朝鮮の「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」を求めるのに対し、北朝鮮が唱えてきた「朝鮮半島の非核化」は、韓国から「核の傘」を含む米国の軍事的影響力を一掃させる思惑をはらむものであることも理解し尽くしている。

 だからこそ、トランプはこの日の演説でも米朝会談の見通しに関し「(実現しても)さっさと席を立つかもしれないし、会談自体が行われない可能性もある」と慎重姿勢を示し、北朝鮮との事前調整が全て思い通りに進んでいるわけではないことを示唆した。

 トランプの頭に去来するのは、1994年の米朝枠組み合意以降、歴代米政権が北朝鮮に非核化の確約を迫りながら、逆に経済支援などの見返りをむしり取られるだけに終わり、北朝鮮に米本土を脅かす核戦力を持たせてしまうに至った、苦い失敗の歴史だ。

 南北首脳が「朝鮮半島の非核化」などをうたった共同宣言に署名してから約9時間後、トランプはドイツ首相、メルケルとの首脳会談後の共同記者会見で、「米国はこれまで、北朝鮮に好き勝手にもてあそばれてきた。もう、そんなことはさせない」と訴えた。

 トランプ政権が米朝首脳会談の実現に全力を傾注し、時に「成功」への自信すら示すのは、米国の主導による国際的な「最大限の圧力」路線が北朝鮮を対話の席に引き出し、南北首脳会談を実現させたという強烈な自負があるからだ。

 その上でトランプは、米朝首脳会談という、朝鮮戦争が勃発した1950年以来の「最大の好機」(マティス国防長官)を使って北朝鮮の非核化を実現させる「責任を負っている」との思いも抱く。

 米朝会談の成果について米国内でも悲観論が目立つ中、トランプにとり対北交渉での立場を強める「武器」となりそうなのは、仮に米朝会談が不調に終わったとしても、トランプとしては軍事的選択肢も視野に入れた「抑止と封じ込め」路線への回帰をためらわない姿勢を折に触れ示していることだ。

 そのためにも不可欠なのが、北朝鮮の核放棄まで圧力を緩めないとする堅固な意思を日米韓が最後まで共有することだ。トランプ政権としては北朝鮮の「平和攻勢」にさらされる韓国の文在寅政権のつなぎ止めも至上課題となってくる。

4カ国協議で南北懐柔狙う 

 歴史的な南北首脳会談が行われていたころ、中国国家主席の習近平は、北京から1100キロ以上離れた湖北省武漢でインド首相、モディと向き合っていた。習は呼びかけた。「偉大な両国が協力すれば、世界的な影響力をつくり出すことができる」

 非公式の中印首脳会談は国境問題をめぐりぎくしゃくする両国関係の修復を確認するのが狙いだ。米国との貿易摩擦が過熱する中、習は足元を固めるかのように周辺諸国との関係改善を急いでいる。

 3月下旬、北朝鮮の朝鮮労働党委員長、金正恩(キム・ジョンウン)が米朝会談の決裂に備え、駆け込んだ先が中国だった。米国が武力行使できないよう、中国に後ろ盾になってもらうため電撃的に訪中、世界をアッと驚かせた。

 習としても韓国大統領の文在寅(ムン・ジェイン)や米大統領のトランプより先に金と会談すれば、北朝鮮への影響力を誇示できる。習は金を手厚くもてなし、北朝鮮問題で再び“運転席”に座った。

 「(南北両首脳の)政治決断と勇気を称賛する」

 中国外務省は27日、朝鮮半島の「完全な非核化」で合意した南北首脳会談を「成功」とたたえ、もろ手を挙げて歓迎した。

 北朝鮮のみならず中国にとっての「完全な非核化」とは、北朝鮮と韓国双方の非核化を意味する。米軍による韓国への核の持ち込み禁止、在韓米軍の削減・撤退などが想定されている。

 そもそも中国が北朝鮮問題で懸念しているのは、北朝鮮の核・ミサイルそのものよりも、北朝鮮問題を機に東アジアの安全保障環境が激変することだ。米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備に対し、「中国の弾道ミサイルも無力化される」として猛反対したのもこのためだった。

 その意味で、在韓米軍の削減・撤退につながりうる「完全な非核化」は中国の国益に沿うものだ。

 力の空白に乗じて影響力を拡大するのは南シナ海などでみられた中国の常套(じょうとう)手段である。武力統一も視野に入れる台湾問題の解決にとっても好都合だ。

 すでに中国外務省や国防省は、朝鮮半島の緊張緩和に合わせるように、対北朝鮮制裁の部分解除や、THAADの撤廃を求める姿勢を打ち出し始めている。

 今後の習の戦略は、「板門店宣言」に明記された米国、中国、韓国、北朝鮮の4カ国協議を利用し、北朝鮮とともに、朝鮮半島や東アジアにおける米軍のプレゼンス低下を図ることだ。

 共闘相手は北朝鮮にとどまらない。

 中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は28日付社説で、南北首脳会談を「成功」に導いた韓国の文政権を高く評価した上で、こう注文を付けた。

 「ソウルは過去、ワシントンに従順すぎた。これからは自らの考えを堅持する勇気をもたねばならない」

 南北を赤く染めることは、貿易や台湾問題で対立する米国を牽制(けんせい)する有力なカードにもなる。=敬称略(ワシントン 黒瀬悦成、北京 藤本欣也)

 ◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です *強調(=太字)は来栖

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