歴史家の眼力
連日、世界的金融危機の記事が紙面を騒がせている。株取引に何の興味もない者でも不安にならないといえば嘘になる。
それにしても、こうした経済危機が叫ばれるたびに思うのは、経済学という学問の無力さだ。いつも事態の後追いばかりで、実効性のある解説や対応策を教えてくれたためしがない。
今年のノーベル賞を受賞したクルーグマンだって、ブッシュ政権批判は威勢がいいが、結局、金融危機はアメリカの国内問題(ウォール街の取引の複雑化のせい)だというスタンスを取っているではないか。
今回の金融危機の解説で一番信用できるのは、経済学者ではなく、歴史家のエマニュエル・トッドだ。しかも、金融危機が起こる前にその本質を突いていたのだ。
アメリカの貿易赤字はおよそ8千億ドル。こんなに消費ばかりする赤字国家が成立しているのは、金融投資で世界中の資金がアメリカに流れこむからだ。アメリカのドルに投資しておけば安全だと世界中の金融機関が信じていた。 だが今回、この根拠なき神話が崩れた。近視眼的なエコノミストの目に、冷徹な歴史学者の目が勝っていたのである。(貯蓄好き)
2008/11/10中日新聞夕刊「大波小波」